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Ⅰ
⑭
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「前の妃?マリエフ?」
震える声で、俺は繰り返した。
実の母がいる事、母の身分、もちろん母の名前を聞くのも、生まれて初めてだったんだ。
「マリエフ前妃様は、それはそれは、お美しい方でいらっしゃいました。」
女中は、俺の背中をずっと、撫でてくれていた。
「ですが、アラビア随一の美姫を、他の国の王が、見過ごす訳がございませんでした。マリエフ様は、現国王の遠征中に連れ去られ、囚われの身になったのです。」
「えっ?母上が?」
頷いた女中の目にも、涙が溢れていた。
「もちろん、現国王は救出に向かい、マリエフ様はこの宮殿に戻って来られました。ですが、その時にはお腹の中に、お子がおられたのです。」
「……どういう、意味だ?」
「……敵にお子を、孕ませられたと言えば、お分かりになりますか?」
震えながら、涙を流しながら、女中は次の言葉を、俺に告げた。
「それが、ジャラール王子。あなた様です。」
その時の衝撃は、一生忘れる事はないだろう。
「俺は……父上の……敵の……子供?……」
目の前で、全てが壊れたのを見た。
「うわああ、うわああああああ!!」
「ジャラール様!お気を確かに!」
後ろで聞いていたハーキムが、後ろから俺を、抱き抱えてくれた。
「そんな!だったらなぜ!俺はこの世にいるのだ!なぜ生きているのだ!!」
「それは、あなた様のお命を、マリエフ様が乞われたからでございます!」
女中は俺の頬を、両手で包み込んだ。
「何があっても、死んではいけません。あなた様は、マリエフ様が、この世に生きた証なのです!」
「うっ……うううう……」
涙が止まらなかった。
恐らく、死ぬ程泣いたのは、この時が最初で最後だろう。
「だったらせめて……そなたの名前を、教えてくれ……」
「いけません。王子の女中は、皆、名前を告げてはいけないのです。」
そうだったんだ。
俺は知るべき人の名を、何一つ知らずに、ここまで生きてしまったんだ。
震える声で、俺は繰り返した。
実の母がいる事、母の身分、もちろん母の名前を聞くのも、生まれて初めてだったんだ。
「マリエフ前妃様は、それはそれは、お美しい方でいらっしゃいました。」
女中は、俺の背中をずっと、撫でてくれていた。
「ですが、アラビア随一の美姫を、他の国の王が、見過ごす訳がございませんでした。マリエフ様は、現国王の遠征中に連れ去られ、囚われの身になったのです。」
「えっ?母上が?」
頷いた女中の目にも、涙が溢れていた。
「もちろん、現国王は救出に向かい、マリエフ様はこの宮殿に戻って来られました。ですが、その時にはお腹の中に、お子がおられたのです。」
「……どういう、意味だ?」
「……敵にお子を、孕ませられたと言えば、お分かりになりますか?」
震えながら、涙を流しながら、女中は次の言葉を、俺に告げた。
「それが、ジャラール王子。あなた様です。」
その時の衝撃は、一生忘れる事はないだろう。
「俺は……父上の……敵の……子供?……」
目の前で、全てが壊れたのを見た。
「うわああ、うわああああああ!!」
「ジャラール様!お気を確かに!」
後ろで聞いていたハーキムが、後ろから俺を、抱き抱えてくれた。
「そんな!だったらなぜ!俺はこの世にいるのだ!なぜ生きているのだ!!」
「それは、あなた様のお命を、マリエフ様が乞われたからでございます!」
女中は俺の頬を、両手で包み込んだ。
「何があっても、死んではいけません。あなた様は、マリエフ様が、この世に生きた証なのです!」
「うっ……うううう……」
涙が止まらなかった。
恐らく、死ぬ程泣いたのは、この時が最初で最後だろう。
「だったらせめて……そなたの名前を、教えてくれ……」
「いけません。王子の女中は、皆、名前を告げてはいけないのです。」
そうだったんだ。
俺は知るべき人の名を、何一つ知らずに、ここまで生きてしまったんだ。
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