情熱的に愛して

日下奈緒

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第1章 秘密

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数日後、秋香からまた合コンのお誘いがあった。

「なんで?白石さんと、駄目だったの?」

「私は上手くいってるわよ。夏海の為に開くの。」

「ありがとう!秋香!」

私は、秋香を抱きしめた。


「この前は、ランチ行けなくてごめんね。」

「いいわよ。門馬と一緒だったんでしょ?」

そう。

あの後、付きっきりで企画書を書かされ、せっかくのパスタも食べた気がせず、その上のダメ出しに、生きた心地がしなかった。


「ここで、一気に先週の分を盛り返すわよ~!」

合コンの失敗も、門馬雪人の嫌がらせも、全ー部忘れちゃうもんね。

「あっ、でさ。今回の合コン、社長じゃないんだ。」

「えっ?そうなの?」

私は一瞬、しゅんとなった。

相手が会社の社長じゃなかったら、意味ないのにな。


「しかも、この会社の人。」

「この会社!?」

益々しゅんとなった。

だってこの会社、いい人いないんだもん。

「そうがっかりしないでさ。もしかしたら、掘り出し物がいるかもしれないじゃない?」

「掘り出し物ねえ。」

私は、10秒考えて手を叩いた。

「そうだよね。最初から諦めてたら、掘り出し物も見つけられないよね。」

「そうこなくっちゃ!」

私と秋香は、ハイタッチして合コンの準備を始めた。


「よかった。今日、スカート履いて来て。」

「と言うより、雪でも降らないと、夏海はパンツなんて履いて来ないでしょ。」

化粧を直して、秋香と一緒に会社を出た。

「ここで待ち合わせなんだよね。」

うちの会社の目の前には、大きな植木がある。

そこが結構、待ち合わせ場所になっている。


「ねえ、今日の人はどんな繋がり?」

「そうだなぁ。廊下で声を掛けられたって言うか。」

秋香は、クスッと笑った。

「それって……ナンパ?」

「やだ、そんな古臭い言い方しないでよ!」

私は、秋香に背中を叩かれた。


えっ?

ナンパじゃなかったら、何て言うの?


「あ、来た来た!」

秋香が思いっきり、手を挙げる。

相手も秋香に手を振っている。

でも、相手は一人だ。

えっ?

これって、本当に合コン?

ただ単に、秋香と飲みたかっただけなんじゃない?

「ごめん、お待たせ。」

男の人は、すごく爽やかな人だった。

「若林さんのお友達?」

「はい。同期でもあるんです。」

相手の男の人は私を見ると、爽やかスマイルを見せた。

「伊達です。よろしく。」

「あっ、市川です。宜しくお願いします。」

一応、頭を下げて挨拶をする。

感じ悪くしたら、後で何言われるか、分からないもんね。


「ねえねえ。もしかして伊達さん、一人?」

「変ね。もう一人来るって言ってたのに。」

秋香はあくまで、私に付いてきてほしいみたいだ。

可哀相に、伊達さん。


「あの、もう一人の方は?」

「ああ、残業があるとかで、後でくるらしい。」

「そうなんですか。」

秋香は笑顔で私の肩を叩いた。

「痛いな、何?」

「夏海、チャンスよ。」

「チャンス?」

秋香は、私の耳元でこう囁いた。


「残業しているって事は、普段女性と出会うチャンスが少ないって事でしょ。」

「うんうん。」

「しかも、出世する事間違いなし!もしかして、未来の社長コースかもよ!」

私の目の前が、パーッと開けた気がした。

「うんうん!それいいね。」

「でしょ?」


よおし。

今日の合コンは、気合入れていくぞ!

私がガッツポーズをした途端、伊達さんは『じゃあ、お店に移動しますか?』と、気の利いたお誘い。

私と秋香は軽い足取りで、伊達さんの後を追いかけて行った。


着いたお店は、普通の居酒屋だった。

椅子とテーブルが木製の、ちょっとレトロな感じ。


「いい雰囲気ですね。」

「でしょ?」

伊達さんはカッコいいのに、こういう雰囲気も似合う。

「最初に頼んじゃおうか。それとも飲み放にする?」

伊達さんの友達感覚に、ちょっとクェスチョンマークが。

これって、合コンだよね。

やっぱり伊達さん。

秋香と二人で、来たかったんじゃ……


私は、秋香をちらっと見た。

「ん?」

気づいてないようだから、私は秋香に、小声で言ってやった。

「伊達さん、秋香と二人きりになりたいんじゃない?」

「うん……」

なんだ、知っているのか。

よし。

こうなったら、もう一人の相手と、早々に店を出よう。


その時だ。

居酒屋の扉がスーッと開いて、入って来た男に私は、目が点になった。

あのクールなドS、門馬雪人だったからだ。

私は咄嗟に、顔を背けた。


どうして、あいつがここにいるの?

って言うか、私達に気づかないで。


「おっ、来た来た。」

伊達さんが、手招きをしている。

「先輩、すみません。」

そう言って、やって来たのは……


そう。

門馬雪人だった。


奴は、固まったままの私の前に、ストンと座った。

コートを脱いで、空いている椅子にドサッと置く。


「あれ?市川と若林じゃん。」

「もう一人って、門馬だったの?」

秋香と門馬雪人は、驚きもせずに会社と同じように、会話している。

そりゃそうだ。

秋香は、伊達さんに誘われたから来ただけで、もう一人が誰だって構わない。

じゃあ、門馬雪人は?

私はチラッと、奴を見た。

こっちも先輩に誘われたから、来た模様。

合コンなんて、鼻から思っていない。


しくじった。

どうやら、合コンだと思っているのは、私だけみたい。


「思いのほか、門馬が早く来たし。4人で飲み放題にしようか。」

伊達さんのその意見に、激しく首を縦に振った。

ごめん、秋香。

相手が門馬雪人なら、二人きりになりたくない。

それなのに、だ。

「いいですよ、先輩。俺、一杯呑んだら帰りますから。」

「何だよ。いいじゃないか、ずっといたって。」

伊達さんが、門馬雪人の肩に腕を回す。

「いや、本当。明日も早いんで。なあ、市川。」

そう言って向かい側の席の門馬雪人が、私にウィンクをする。


ええ!?

もしかして奴も、伊達さんと秋香を二人にしようと?

いや、無理無理。

あなたと二人で店を出るなんて、無理!

それに、合コンじゃないと分かったら、呑みたいし!


「そうか。残念だな。」


いやいや、伊達さん。

全然、残念がってないし。

それよりも、秋香と二人きりになれるから、嬉しそうだし!


「じゃあ、飲み物頼もう。ビールの人!」

私は思いっきり、手を挙げた。

「おっ、今日はカクテルじゃないのか。」

門馬雪人が、私の顔を覗く。

「うん。今日はなんだか、ビールって気分でぇ。」

奴相手に、可愛らしさを売る必要はない。

「私は、レモンサワーかな。」

秋香は居酒屋でも、可愛らしさを売るつもりだ。

それも相手が、伊達さんだからかな。

白石さんとも上手くいっているのに、抜け目ないな。


そんな事を思っていると、飲み物は直ぐにやってきた。

「じゃあ、俺達の出会いを祝して、乾杯!」

「乾杯!」

一つのサワーに、三つのビールって、どう見たって合わない。

でも、気持ちを切り替えたんだから、いいか。


「伊達さんは、趣味は何ですか?」

「俺?実はサーフィンに今、はまっていて。」

「へえ。」

秋香と伊達さんの会話を聞きながら、私はおつまみで頼んだ、枝豆を口の中に入れた。
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