情熱的に愛して

日下奈緒

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第10章 プロポーズ

あれから3日間経った頃だった。

店長さんが、デザインの仕事で、本社にやってきた。

「いやぁ、お話を貰った時は、すごく嬉しかったよ。俺でももう一度デザインの仕事ができるのかってね。」

店長さんは、とてもいい顔をしていた。

「張り切って作って来たよ。ほら、」

目の前に広げれられたデザイン画。

どれも、この地域のOLさんが、好きそうなものだ。

「すごいですね。どれも、ぴったりなデザインだ。」

「当たり前よ。これでも毎日、街中のOLを見回しているんだからね。」

店長さんは、胸をドンっと叩いた。

「そうだ。これを見てくれよ。これが一番おすすめするデザインなんだ。」

テーブルに広げた何枚かのデザイン画から、店長さんは1枚の紙をピックアップした。


それは、シンプルなデザインの中に、少しだけ流行りの絞りが入れられていた。

「どうだ?女性は、こういうのが、好きだろう?」

いかにも女性の好きな物は、知っていますって言う顔の店長に、私はクスッと笑った。

「熱いですね。」

「そうよ。仕事は情熱を持ってやらないと、成功しないからな。なあ、門馬さん。」

店長は、雪人の背中を叩いた。

「そうですね。」

当たり障りのない返事。

クールな雪人には、ついていけないテンションだったかな。


「恋愛だって、そうでしょ。」

急に恋の話を始めた店長さん。

ちょっと大人の人が、珍しい。

「ここぞと言う時に、冷めた目で『去る者、追わず。』って顔をしている奴は、結局誰も捕まえられないのさ。」

そのセリフに、側にいた清水係長が、クスクス笑う。

「本当に、熱いわね。」

「だから、仕事も恋愛も、熱くなきゃダメって事。」

「その勢いで、今の奥さんも結婚に、持ち込んだんだもんね。」

清水係長は、店長の肩を突っついた。

「そのお陰で、今もラブラブ。いいぜ?好きな女と、毎日一緒にいられるのは。」

「あら、ご馳走様。」

「清水も早く、男探せよ。」

私と門馬は、仲のいい清水係長と店長の会話を、終始聞いていた。


「仲、いいね。あの二人。」

「ああ、そうだな。」

数日振りの、落ち着いた会話。

これも後どのくらいで、ビジネスライクに戻るんだろう。

そんな事を考えたら、途端に寂しくなった。


その時、秋香が私のスマートフォンを持って、ミーティング室にやってきた。

「打ち合わせ中にごめんなさい。」

秋香は、私に向かって来ると、スマートフォンを差し出した。

「ミーティング終わるまで待ってようと思ったんだけど、お母さんから何度も連絡が……」

「ええ?」

お母さんから何度も連絡なんて、家で何かあったのかな。


「ちょっと失礼します。」

私は秋香からスマートフォンを受け取って、お母さんに電話をした。

『もしもし?』

「ああ、お母さん?何?仕事中に。」

『ごめんなさいね、お父さんが何度も電話しろって、うるさいから。』

「お父さんが?」

私は立ち上がって、部屋の隅に行った。


「お父さんが、何だって?」

『離婚よ。離婚の事で、家に戻ってくるなって、怒ってるのよ。』

「何よ、その事で?」

私は、はぁーっとため息をついた。

「お父さんには、また私から話すから。」

『あのね、お母さんも反対よ?もう一度雪人君と、よく話し合って……』

私はチラッと、雪人を見た。

そのせいで、勘のいい雪人は、私達の事だと気づいたみたい。


「それは、家に帰ってから、話すから。今、ここで話す事じゃあ、ないでしょう?」

『だけどね、夏海……』

その時だった。

私のスマートフォンは、誰かの手に吸い取られていった。

「お母さん、安心してください。僕が何とかしますから。」

私は飛び上がるくらいに、その場でびっくりした。
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