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第3章 大学生だと知った日、彼は手を離した
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「うわ……あれ、広報に言われて書いただけだから。真に受けないでよ?」
「でも、面白かったです。お仕事の合間に紅茶を飲んでたりして、ちょっと可愛いなって。」
「やめてくれ、恥ずかしいから……」
顔を手で覆う仕草が、普段のクールな玲央さんとは違っていて、なんだか可愛く見えてしまう。
まさか、こんなやりとりができる日が来るなんて。
窓の外はゆっくりと晴れてきていて、やさしい陽射しがテーブルの上のサンドイッチを照らしていた。
「ひよりさんは、大学で何を勉強しているの?」
玲央さんが、コーヒーカップを手にしながら問いかけてくる。
「国文学です。将来は、図書館の司書になりたくて。」
「そうか。」
その答えに、玲央さんはゆっくりと頷いた。
目元がやわらかくなって、ほんの少しだけ微笑んでいる。
「ひよりさんらしいね。穏やかで、本が好きそう。」
「……はい。」
私は照れくさくて、少しだけ視線を落とした。でも、嫌じゃなかった。玲央さんのそういう言葉の選び方が、優しくて。
だけどその直後だった。玲央さんの顔に、ふっと翳りが差した。
「ひよりさんにとっては……俺は、おじさんの部類に入るのかな。」
その言葉に、私は驚いて首を横に振った。
「そんなことないです!」
勢い余って、言葉が少し大きくなってしまう。
「玲央さんは、確かに年上ですけど……でも、まだ“お兄さん”です。」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなって、頬が熱を帯びた。玲央さんの目が優しく細められて、少し笑う。
「お兄さんか。それ、嬉しいな。」
「本当のことですよ。」
私は言いながら、テーブルの上のカップに目を落とした。
なんだか、心がぽっとあたたかくなっていくのを感じていた。
「……彼氏はいるの?」
突然の問いに、ストローを咥えかけていた私は、ぴくりと肩を揺らした。
「いないです。」
少し間を置いてから、静かにそう答える。
「大学で出会いとかはないの?」
玲央さんは、何気ないようにコーヒーカップを揺らしながら聞いてくるけれど、その視線はまっすぐだった。
「いいえ、全然。」
私は苦笑いを浮かべて、手元のオレンジジュースに口をつけた。
冷たい液体が喉を通る。少しだけ気持ちを落ち着かせてから、ぽつりと呟く。
「でも……好きな人はいます。」
言った瞬間、玲央さんの表情が、ほんの一瞬だけ動いた。眉がわずかに寄って、視線が私を探るように揺れる。
「……どんな人?」
その問いは、どこか慎重で、静かだった。
私は、ストローを指でくるくる回しながら、小さく笑った。
「玲央さんみたいな人。」
そう言って、ゆっくりと顔を上げると、玲央さんの目が、少しだけ揺れていた。
でも――気づいていない。
私の言葉の意味にも、気持ちにも。
「でも、面白かったです。お仕事の合間に紅茶を飲んでたりして、ちょっと可愛いなって。」
「やめてくれ、恥ずかしいから……」
顔を手で覆う仕草が、普段のクールな玲央さんとは違っていて、なんだか可愛く見えてしまう。
まさか、こんなやりとりができる日が来るなんて。
窓の外はゆっくりと晴れてきていて、やさしい陽射しがテーブルの上のサンドイッチを照らしていた。
「ひよりさんは、大学で何を勉強しているの?」
玲央さんが、コーヒーカップを手にしながら問いかけてくる。
「国文学です。将来は、図書館の司書になりたくて。」
「そうか。」
その答えに、玲央さんはゆっくりと頷いた。
目元がやわらかくなって、ほんの少しだけ微笑んでいる。
「ひよりさんらしいね。穏やかで、本が好きそう。」
「……はい。」
私は照れくさくて、少しだけ視線を落とした。でも、嫌じゃなかった。玲央さんのそういう言葉の選び方が、優しくて。
だけどその直後だった。玲央さんの顔に、ふっと翳りが差した。
「ひよりさんにとっては……俺は、おじさんの部類に入るのかな。」
その言葉に、私は驚いて首を横に振った。
「そんなことないです!」
勢い余って、言葉が少し大きくなってしまう。
「玲央さんは、確かに年上ですけど……でも、まだ“お兄さん”です。」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなって、頬が熱を帯びた。玲央さんの目が優しく細められて、少し笑う。
「お兄さんか。それ、嬉しいな。」
「本当のことですよ。」
私は言いながら、テーブルの上のカップに目を落とした。
なんだか、心がぽっとあたたかくなっていくのを感じていた。
「……彼氏はいるの?」
突然の問いに、ストローを咥えかけていた私は、ぴくりと肩を揺らした。
「いないです。」
少し間を置いてから、静かにそう答える。
「大学で出会いとかはないの?」
玲央さんは、何気ないようにコーヒーカップを揺らしながら聞いてくるけれど、その視線はまっすぐだった。
「いいえ、全然。」
私は苦笑いを浮かべて、手元のオレンジジュースに口をつけた。
冷たい液体が喉を通る。少しだけ気持ちを落ち着かせてから、ぽつりと呟く。
「でも……好きな人はいます。」
言った瞬間、玲央さんの表情が、ほんの一瞬だけ動いた。眉がわずかに寄って、視線が私を探るように揺れる。
「……どんな人?」
その問いは、どこか慎重で、静かだった。
私は、ストローを指でくるくる回しながら、小さく笑った。
「玲央さんみたいな人。」
そう言って、ゆっくりと顔を上げると、玲央さんの目が、少しだけ揺れていた。
でも――気づいていない。
私の言葉の意味にも、気持ちにも。
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