神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第1部 神託と皇太子 ④

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窓から差し込む光が、床の絨毯に柔らかく映えている。

「どうぞ、聖女様。今日から、ここがあなたの場所です。」

ユリオ様がそう言ったとき、ようやく、私の足がこの王都の石の上に根を下ろした気がした。


「一時間後、国王、王妃、皇太子殿下との謁見がございます。」

ユリオ様の言葉に、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「えっ? 急にですか?」

「はい。お着替えと準備はこちらで手配しております。」

淡々とした口調で告げられても、心の準備まではしてくれないらしい。

「明日には“信託の儀式”がございます。国王陛下より聖女への正式な任命、そして神殿からの信託の告示。それから――」

「ま、まだあるんですか?」

さすがにうろたえた私に、ユリオ様は、ほんの少しだけ声を潜めて続けた。

「……もう一つ。皇太子殿下から“お言葉”を賜ります。」

“お言葉”って……まさか、私にだけ?国王でもなく、神官でもなく――なぜ、皇太子?

「なぜ……皇太子殿下が?」

疑問を口にすると、ユリオ様は真面目な顔で答えた。

「聖女を支えるのは皇太子殿下と、先の信託に明記されております。」

「支える……?」

「はい。“聖女を守りし影は、王国の継承者なり”と。これは百年ぶりに下った“聖なる補助者の予言”に当たります。」

補助者。つまり……皇太子殿下が、私の“守護役”?

けれど、私はその顔も声も知らない。

お会いするのも、今日が初めて。

急に現実が押し寄せてきて、私は部屋の空気が薄くなるのを感じた。

「そんな大事なこと、もっと早く言ってくれれば……!」

「申し訳ありません、聖女様。順序立ててお伝えするよう、神殿の規則がございまして。」

「なんなんですか、それ……」

本音がつい口から漏れたけれど、ユリオ様は苦笑を浮かべるだけだった。

そう。

私の“聖女としての人生”は、もう始まっている。

問答無用で。容赦なく。

それでも、私は逃げられない。

……だけど、心のどこかで感じていた。

この先に、何かが待っていると。

それが運命か、奇跡か、それとも――

そして、一時間後。

私は神殿付きの侍女たちに着替えさせられ、柔らかな金の刺繍が施された純白のドレスに身を包んでいた。

鏡の中の自分は、どこか他人のようだった。

こんなにきらびやかに着飾っても、心はまだ、名もなき村の娘のまま。

けれど――もう、戻れない。

謁見の間は、静まり返っていた。

私の靴音だけが石の床に響き、玉座の奥から伸びる赤い絨毯を、一歩ずつ進む。

正面に並ぶ三人の姿。

中央に座すのが、国王陛下。

その隣に控える、優雅で威厳のある王妃陛下。

そして、その一歩後ろに立つ――長身の青年。

私が膝をついて一礼をすると、国王陛下がゆっくりと立ち上がった。

「ああ、聖女殿。……またお会いできたな。」

まるで懐かしい人にでも会ったかのような声音だった。
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