神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第7部 魔力にとらわれる王 ③

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だが、体に力が入らない。視界がにじむ。

「ふふ……やっぱりねぇ?」

クラリーチェが、冷ややかに笑った。

「神託を下ろした直後の聖女なんて、力を使い果たして抜け殻よ!」

彼女の声が、玉座の間に響き渡る。

「それにぃ――あなたはただの聖女。」

クラリーチェは、勝ち誇ったように口元を吊り上げた。

「皇太子妃になるこの私の前では、何の力もないのよ。」

ざわ……と玉座の間がどよめく。

私は何も言い返せず、震える指先を握りしめた。

「――やめろ。」

レオが私の前に立ち、その背で私を庇った。

「クラリーチェ。君も聞いたはずだ。神託を。」

「ふん……あれは聖女が勝手に言ったこと。国王が認めなければ、何の効力もないわ!」

彼女の目は青く光り、不穏な魔力が揺れていた。

「国王が婚約破棄を決断するまでは、私は正式な皇太子妃。 そうでしょう?」

挑発するようなクラリーチェの声に、国王・アレクシオは戸惑いの色を見せた。

「こ、これは……確かに国としての決定は……」

「父上!」

レオの声が響いた。

「クラリーチェとの婚約破棄を、今ここで正式に宣言してください!」

「な、なに……?」

突然の強い要請に、国王の表情が硬直する。

「エミリアは神に選ばれし聖女。そしてこの国を照らす光。その彼女が神託で俺の妃とされたのです!」

「そ、そんな……」

クラリーチェが初めて、顔を引きつらせた。

「……レオナルト。お前は本気なのか。」

国王の瞳が、今ようやく澄んだまま息子を見つめた。

レオは強く頷く。

「だが……クラリーチェは、正当なるエインベルク公爵家の令嬢のはずだ。」

その声に、玉座の間がざわつく。

レオがはっきりと声で言葉を重ねた。

「否――彼女の本当の名前は、クラリーチェ・ルーヴェン。」

「なに……?」

「魔女の一族、サエルヴァの末裔です。」

空気が張り詰める。クラリーチェが息を呑んだのが、私にははっきりと聞こえた。

「国王陛下、どうか騙されないでください!彼女は、王家を乗っ取り、女王の座を奪うつもりだったのです!」

レオがすかさず、古文書の一片を掲げた。

「これが証拠だ!隠し部屋で発見した血の契約の記録。彼女の名は、明確に“クラリーチェ・ルーヴェン”と記されている。」

その瞬間――

「捕らえろ!」

立ち上がったのは、国王・アレクシオだった。

鋭い眼光がクラリーチェを貫く。

「この者、王家を欺き、国を転覆させんとした罪により、即刻拘束せよ!」

「はっ!」

護衛たちが動き出し、剣を抜いてクラリーチェを取り囲む。

護衛たちが一斉にクラリーチェへ向けて剣を構えたその瞬間――

クラリーチェは、鋭い声で叫んだ。

「Alima Vestra――私の姿を、消せ!」

空気がビリビリと震え、青黒い魔力がクラリーチェの体を包み込む。
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