42 / 47
第15話 子を成す意味
②
しおりを挟む
「王……これからは、黄杏さんの元へ、通って下さい。」
紅梅は、微笑みながら言った。
「いや……しばらくは、そなたの元へ通う。黄杏の時も、黒音の時もそうしてきた。」
だが紅梅は、首を横に振った。
「私は、大丈夫です。」
「紅梅?」
そこには、悲しさや切なさと言った負の表情は、全く見当たらなかった。
「人づてに聞きました。白蓮様に、『跡継ぎは、一度懐妊したお妃から産まれる。』と、神託が下ったようですね。」
「あれは……」
神託?
亡霊の戯れなのか。
だが白蓮が信じている事を、むやみに否定する事もないから、放っておいたと言うのに。
「だとすれば、その神託に合うお妃は、黄杏さんお一人。今は、私よりも黄杏さんの元へ行って頂くのが、よろしいかと思うのです。」
そう言って、紅梅はにこにこと笑っている。
その様子を見た信志は、ため息を一つついた。
「王?」
「全く……私の妃達はなぜこうも、私が通う場所を勝手に決めようとするのだ。」
「も、申し訳ございません!」
紅梅は、慌てて謝る。
「黄杏の元へ通えと申すが、そなたの元を訪れたい時は、どうしろと言うのだ。我慢しろと言うのか?この私に?」
「えっ!あっ、いえ……その……」
困りながら、半分嬉しそうに照れる紅梅を見ていると、信志は紅梅もまた、愛おしいと思うのだ。
「黄杏の元も行く。だがそなたの元へも参る。紅梅も、紅梅のお腹の子も、跡継ぎが産まれる事と同じくらい、大切だからな。」
信志は、紅梅の肩を軽く叩こうとして、思いとどまった。
「……どうしたのですか?」
紅梅が、大きな瞳で信志を見つめる。
「いや……これからは、こうしなければな。」
そう言うと、紅梅の肩をそっと抱き寄せた。
「信寧王様……」
紅梅が信志の胸に、体を預ける。
王にとって自分はずっと、部下のような存在だと思っていた。
そして黄杏が宮殿に来てからは、もっと遠くに行ってしまったと。
もう自分の元へは、来てくれないのだと思っていた。
だが今は、一番欲しかった王の愛情が、何より近くにある。
「王……私は、幸せです。」
「そうか?これからもっと、幸せな暮らしが待っているぞ。私と紅梅と、産まれてくる御子との暮らしがな。」
「はい……」
それでもどこか、この幸せは一時的なものだと、感じていた紅梅。
だが不思議な事に信志の愛情は、紅梅が思う以上に、続く事になった。
お腹に子が宿り、半年が経つと言うのに、信志は毎晩欠かさず、紅梅の元を訪れていたのだ。
「今日も、私の子は健やかか?」
夜になると必ず寝台で、紅梅の大きくなったお腹を、信志は愛おしそうに摩った。
「もう少しで7か月になるのか。産まれてくるのが、楽しみだな。」
時には、耳をお腹につける事もあった。
「ああ。動いている、動いている。紅梅に似て、元気な子だ。」
子はかすがいだと言うけれど、こんなにも移ろ気な方を、自分の元へ引き留めておけるとは。
紅梅は、嬉しいどころか怪しくも感じていた。
ある日。
紅梅が大きなお腹を抱えて、外へと出ると、そこには花の手入れをする黄杏の姿があった。
こんな姿、見せる事はできない。
黄杏の子が流れたのは、この頃だから、ふとした事で思い出してしまうかも。
紅梅は黄杏に声を掛けずに、神殿へと行こうとした。
「あら、紅梅さん。」
だが幸か不幸か、黄杏から声を掛けられてしまった。
「お腹、大きくなりましたね。」
ここまで言われると、無視する事もできない。
紅梅は、ゆっくりと後ろを振り返った。
「……お元気そうね、黄杏さん。」
「紅梅さんも。」
手に綺麗な花を持っている黄杏は、なぜか和やかな雰囲気を醸し出している。
「なんだか黄杏さん。王が来なくても、大丈夫そうね。」
「そうなの。」
黄杏は頬に手を当て、突然困った顔をした。
「少し前までは、王がいらっしゃらないと、胸が潰れそうになるくらい悲しくて、眠れない時もあったのに。最近、王がおられない方が当たり前になってしまって……寂しくもならないなんて、一体どうしてしまったのかしら。」
紅梅は、口をあんぐりと開けてしまった。
王がいらっしゃらないと、胸が潰れてしまう?
そんな可愛いこと、自分は一度も思った事がない。
しかも、しばらく王がお訪ねにならないのなら、それはそれで、他の妃とよろしくやってるんでしょうよと、半ば諦めの気持ちも生まれると言うのに。
寂しくならない事が、おかしい?
紅梅は、ため息をついた。
「紅梅さん?」
「あなたには、つくづく負けたわ。」
「えっ?」
黄杏は、首を傾げている。
「どちらかと言えば、私が紅梅さんに負けたような気がするけれど。」
「ああ、なに?私の方が、先にお子が産まれるから?」
「はい。」
真面目に答える黄杏に、紅梅は白目を向く。
「あなたって、本当にお目出度いわね。」
「だって、そうでしょう?王をお慕いして、ここに来たんだもの。会えなかったら、悲しくなるのは、当然だと思うけれど?」
ここまでくると、黄杏の為に、一肌脱いであげたくなる。
まるで、姉のような気分だ。
「心配しないで。私が、王に言ってみるから。」
「ええ?」
「大丈夫よ。王はそろそろ、私だけの生活に、飽きている頃だし。密かに青蘭さんと、逢瀬を楽しんでいると思うし。」
それを聞いて黄杏は、また悲しい顔をする。
「やっぱり……青蘭さんの元へは、行くのね……」
「ああ、ほら!あの人は、半ば浮世離れしているところがあるから!」
紅梅は、黄杏の肩を揺らしながら、彼女を励ます。
「黄杏さんは、前と同じように、王をお迎えする準備をしていればいいのよ。」
「紅梅さん……」
そして紅梅は、にっこり微笑むと、大きなお腹を抱えて、屋敷へと戻って行った。
その日の夜。
紅梅は早速、王である信志に、黄杏の元へ通うように促した。
「黄杏の元へ?」
「はい。今日、黄杏さんとお話させて頂きましたが、とても寂しがっておられましたよ。」
そう言うと、信志はどこか複雑そうな顔をした。
「……そうは言っても、そなたには子が産まれるのだし。」
「それは、王の言い訳ではありませんか?」
紅梅と信志は、しばし見つめ合った。
「言い訳?私が、黄杏を避けているとでも?」
「はい。私に先に子ができました故、黄杏さんに合わせる顔がないのでは?」
信志は、紅梅から目線を反らした。
「やはり、そうなのですね。」
紅梅はここでも、ため息をついた。
紅梅から見ても、二人が思い合っているのは、明々白々。
すれ違っている原因だとすれば、自分しかないのだ。
「黄杏さんは、私に子ができた事など、なんとも思っていませんよ。」
信志は、ちらっと紅梅を見る。
「それよりも、王がお訪ねにならない事も、いつも気にかけていらっしゃいます。」
「黄杏が?」
その歪んだ顔は、紅梅から見ても、妬むくらいだ。
「お訪ねになって下さいませ。好き合おうて、一緒になった仲ではありませんか。」
自分で言うのも、辛くなってくる。
子まで成した夫の、想い人は違う人なのだ。
それを感じてか、信志も紅梅を抱き寄せる。
「すまぬ。」
「何を謝るのですか?」
「黄杏の事……子が産まれるまで、一緒にいると言ってたのに……」
心なしか、信志の抱きしめる力も、強くなる。
「いいのです。それに……」
紅梅は、信志から体を離した。
「それに、子を授かったのは、黄杏さんのお陰だと、この前お話致しましたでしょ?」
すると信志は、フッと鼻で笑った。
「そう、だったな。」
何か吹っ切れたような表情。
それがまた、運命の歯車が、回り始めた瞬間だった。
次の日の夜。
王の今夜の泊まり先は、黄杏の屋敷だと決まった。
何か月振りに、夫の顔を見るのだろうと、黄杏は考えたが、なぜか心は踊らない。
「ご公務、お疲れ様でございました。」
「ああ。」
信志を屋敷の玄関で迎えても、お互いよそよそしい。
「お酒を、召されますか?」
「そう、だな。」
席についた信志に、酒を勧めても、どこか心ここにあらずと言った雰囲気だ。
「どうぞ。」
久しぶり過ぎて、酒を注ぐ黄杏の手が震える。
「……緊張しているのだね。」
「申し訳ありません。」
ここで話が弾むと思っていたが、黄杏は謝ったきり、一言も話さない。
一体、どうしてしまったと言うのか。
「紅梅から、黄杏が寂しくしていると、聞いたのだが……」
「はい……」
「そうでも、なさそうだね。」
そしてまた重い空気が、信志と黄杏を包む。
「なんだか私達は、すれ違ってしまったようだね。」
黄杏は、じっと信志を見つめる。
元はと言えば、足が遠のいたのは、信志の方。
だがそれは、紅梅の懐妊と言う、お目出度い事もあったからで、それを責める気は、黄杏にはない。
もっと言えば、懐妊した妃よりも、自分の元に通わせるだけの魅力が、自分になかったと言えば、それまでだ。
「……それも、致し方のない事だと、思います。」
信志は、盃を黄杏に近づけた。
「そなたは、離れていた私に、嫌みの一つも言わぬのだな。」
黄杏は、酒を注いだ。
「嫌みの一つでも申せば、何か変わるのですか?それに、嫌みを言われたら、お困りになるのは信志様の方でしょう?」
「そうであったとしても、少しの嫉妬ならば、返って可愛いと言うものだよ、黄杏。」
酒を呑み干す信志を、大人しく見つめる黄杏。
「そうですね。そう言う事も、いつの間にか、忘れてしまったのかもしれませんね。」
黄杏は、窓の外に浮かぶ、月を眺めた。
紅梅は、微笑みながら言った。
「いや……しばらくは、そなたの元へ通う。黄杏の時も、黒音の時もそうしてきた。」
だが紅梅は、首を横に振った。
「私は、大丈夫です。」
「紅梅?」
そこには、悲しさや切なさと言った負の表情は、全く見当たらなかった。
「人づてに聞きました。白蓮様に、『跡継ぎは、一度懐妊したお妃から産まれる。』と、神託が下ったようですね。」
「あれは……」
神託?
亡霊の戯れなのか。
だが白蓮が信じている事を、むやみに否定する事もないから、放っておいたと言うのに。
「だとすれば、その神託に合うお妃は、黄杏さんお一人。今は、私よりも黄杏さんの元へ行って頂くのが、よろしいかと思うのです。」
そう言って、紅梅はにこにこと笑っている。
その様子を見た信志は、ため息を一つついた。
「王?」
「全く……私の妃達はなぜこうも、私が通う場所を勝手に決めようとするのだ。」
「も、申し訳ございません!」
紅梅は、慌てて謝る。
「黄杏の元へ通えと申すが、そなたの元を訪れたい時は、どうしろと言うのだ。我慢しろと言うのか?この私に?」
「えっ!あっ、いえ……その……」
困りながら、半分嬉しそうに照れる紅梅を見ていると、信志は紅梅もまた、愛おしいと思うのだ。
「黄杏の元も行く。だがそなたの元へも参る。紅梅も、紅梅のお腹の子も、跡継ぎが産まれる事と同じくらい、大切だからな。」
信志は、紅梅の肩を軽く叩こうとして、思いとどまった。
「……どうしたのですか?」
紅梅が、大きな瞳で信志を見つめる。
「いや……これからは、こうしなければな。」
そう言うと、紅梅の肩をそっと抱き寄せた。
「信寧王様……」
紅梅が信志の胸に、体を預ける。
王にとって自分はずっと、部下のような存在だと思っていた。
そして黄杏が宮殿に来てからは、もっと遠くに行ってしまったと。
もう自分の元へは、来てくれないのだと思っていた。
だが今は、一番欲しかった王の愛情が、何より近くにある。
「王……私は、幸せです。」
「そうか?これからもっと、幸せな暮らしが待っているぞ。私と紅梅と、産まれてくる御子との暮らしがな。」
「はい……」
それでもどこか、この幸せは一時的なものだと、感じていた紅梅。
だが不思議な事に信志の愛情は、紅梅が思う以上に、続く事になった。
お腹に子が宿り、半年が経つと言うのに、信志は毎晩欠かさず、紅梅の元を訪れていたのだ。
「今日も、私の子は健やかか?」
夜になると必ず寝台で、紅梅の大きくなったお腹を、信志は愛おしそうに摩った。
「もう少しで7か月になるのか。産まれてくるのが、楽しみだな。」
時には、耳をお腹につける事もあった。
「ああ。動いている、動いている。紅梅に似て、元気な子だ。」
子はかすがいだと言うけれど、こんなにも移ろ気な方を、自分の元へ引き留めておけるとは。
紅梅は、嬉しいどころか怪しくも感じていた。
ある日。
紅梅が大きなお腹を抱えて、外へと出ると、そこには花の手入れをする黄杏の姿があった。
こんな姿、見せる事はできない。
黄杏の子が流れたのは、この頃だから、ふとした事で思い出してしまうかも。
紅梅は黄杏に声を掛けずに、神殿へと行こうとした。
「あら、紅梅さん。」
だが幸か不幸か、黄杏から声を掛けられてしまった。
「お腹、大きくなりましたね。」
ここまで言われると、無視する事もできない。
紅梅は、ゆっくりと後ろを振り返った。
「……お元気そうね、黄杏さん。」
「紅梅さんも。」
手に綺麗な花を持っている黄杏は、なぜか和やかな雰囲気を醸し出している。
「なんだか黄杏さん。王が来なくても、大丈夫そうね。」
「そうなの。」
黄杏は頬に手を当て、突然困った顔をした。
「少し前までは、王がいらっしゃらないと、胸が潰れそうになるくらい悲しくて、眠れない時もあったのに。最近、王がおられない方が当たり前になってしまって……寂しくもならないなんて、一体どうしてしまったのかしら。」
紅梅は、口をあんぐりと開けてしまった。
王がいらっしゃらないと、胸が潰れてしまう?
そんな可愛いこと、自分は一度も思った事がない。
しかも、しばらく王がお訪ねにならないのなら、それはそれで、他の妃とよろしくやってるんでしょうよと、半ば諦めの気持ちも生まれると言うのに。
寂しくならない事が、おかしい?
紅梅は、ため息をついた。
「紅梅さん?」
「あなたには、つくづく負けたわ。」
「えっ?」
黄杏は、首を傾げている。
「どちらかと言えば、私が紅梅さんに負けたような気がするけれど。」
「ああ、なに?私の方が、先にお子が産まれるから?」
「はい。」
真面目に答える黄杏に、紅梅は白目を向く。
「あなたって、本当にお目出度いわね。」
「だって、そうでしょう?王をお慕いして、ここに来たんだもの。会えなかったら、悲しくなるのは、当然だと思うけれど?」
ここまでくると、黄杏の為に、一肌脱いであげたくなる。
まるで、姉のような気分だ。
「心配しないで。私が、王に言ってみるから。」
「ええ?」
「大丈夫よ。王はそろそろ、私だけの生活に、飽きている頃だし。密かに青蘭さんと、逢瀬を楽しんでいると思うし。」
それを聞いて黄杏は、また悲しい顔をする。
「やっぱり……青蘭さんの元へは、行くのね……」
「ああ、ほら!あの人は、半ば浮世離れしているところがあるから!」
紅梅は、黄杏の肩を揺らしながら、彼女を励ます。
「黄杏さんは、前と同じように、王をお迎えする準備をしていればいいのよ。」
「紅梅さん……」
そして紅梅は、にっこり微笑むと、大きなお腹を抱えて、屋敷へと戻って行った。
その日の夜。
紅梅は早速、王である信志に、黄杏の元へ通うように促した。
「黄杏の元へ?」
「はい。今日、黄杏さんとお話させて頂きましたが、とても寂しがっておられましたよ。」
そう言うと、信志はどこか複雑そうな顔をした。
「……そうは言っても、そなたには子が産まれるのだし。」
「それは、王の言い訳ではありませんか?」
紅梅と信志は、しばし見つめ合った。
「言い訳?私が、黄杏を避けているとでも?」
「はい。私に先に子ができました故、黄杏さんに合わせる顔がないのでは?」
信志は、紅梅から目線を反らした。
「やはり、そうなのですね。」
紅梅はここでも、ため息をついた。
紅梅から見ても、二人が思い合っているのは、明々白々。
すれ違っている原因だとすれば、自分しかないのだ。
「黄杏さんは、私に子ができた事など、なんとも思っていませんよ。」
信志は、ちらっと紅梅を見る。
「それよりも、王がお訪ねにならない事も、いつも気にかけていらっしゃいます。」
「黄杏が?」
その歪んだ顔は、紅梅から見ても、妬むくらいだ。
「お訪ねになって下さいませ。好き合おうて、一緒になった仲ではありませんか。」
自分で言うのも、辛くなってくる。
子まで成した夫の、想い人は違う人なのだ。
それを感じてか、信志も紅梅を抱き寄せる。
「すまぬ。」
「何を謝るのですか?」
「黄杏の事……子が産まれるまで、一緒にいると言ってたのに……」
心なしか、信志の抱きしめる力も、強くなる。
「いいのです。それに……」
紅梅は、信志から体を離した。
「それに、子を授かったのは、黄杏さんのお陰だと、この前お話致しましたでしょ?」
すると信志は、フッと鼻で笑った。
「そう、だったな。」
何か吹っ切れたような表情。
それがまた、運命の歯車が、回り始めた瞬間だった。
次の日の夜。
王の今夜の泊まり先は、黄杏の屋敷だと決まった。
何か月振りに、夫の顔を見るのだろうと、黄杏は考えたが、なぜか心は踊らない。
「ご公務、お疲れ様でございました。」
「ああ。」
信志を屋敷の玄関で迎えても、お互いよそよそしい。
「お酒を、召されますか?」
「そう、だな。」
席についた信志に、酒を勧めても、どこか心ここにあらずと言った雰囲気だ。
「どうぞ。」
久しぶり過ぎて、酒を注ぐ黄杏の手が震える。
「……緊張しているのだね。」
「申し訳ありません。」
ここで話が弾むと思っていたが、黄杏は謝ったきり、一言も話さない。
一体、どうしてしまったと言うのか。
「紅梅から、黄杏が寂しくしていると、聞いたのだが……」
「はい……」
「そうでも、なさそうだね。」
そしてまた重い空気が、信志と黄杏を包む。
「なんだか私達は、すれ違ってしまったようだね。」
黄杏は、じっと信志を見つめる。
元はと言えば、足が遠のいたのは、信志の方。
だがそれは、紅梅の懐妊と言う、お目出度い事もあったからで、それを責める気は、黄杏にはない。
もっと言えば、懐妊した妃よりも、自分の元に通わせるだけの魅力が、自分になかったと言えば、それまでだ。
「……それも、致し方のない事だと、思います。」
信志は、盃を黄杏に近づけた。
「そなたは、離れていた私に、嫌みの一つも言わぬのだな。」
黄杏は、酒を注いだ。
「嫌みの一つでも申せば、何か変わるのですか?それに、嫌みを言われたら、お困りになるのは信志様の方でしょう?」
「そうであったとしても、少しの嫉妬ならば、返って可愛いと言うものだよ、黄杏。」
酒を呑み干す信志を、大人しく見つめる黄杏。
「そうですね。そう言う事も、いつの間にか、忘れてしまったのかもしれませんね。」
黄杏は、窓の外に浮かぶ、月を眺めた。
0
あなたにおすすめの小説
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる