全部、俺のものになるまで 【R18】【完結】

日下奈緒

文字の大きさ
11 / 19
【3】ホテルのエレベーターで

しおりを挟む
「この前は……ごめん。でも……もう、ゆかさんじゃないと、俺……ダメみたいだ。」

真剣な目。私だけを映してくれているその瞳に、胸がぎゅっと締めつけられる。

――私も、同じ。もう、あなたじゃないとダメ。

言葉にはしないまま、私はそっと目を閉じて、陽翔のキスを受け入れた。

陽翔の吐息が、私の首筋をかすめるたび、身体の奥がふるえる。

熱を帯びた肌が触れ合い、私は思わず小さく声を漏らした。

彼の手が私の背を撫で、そっと抱き寄せられる。

「ゆかさん、好きだ。」

その一言が胸に響き、私はかぶりを振るように彼の名を呼ぶ。

「陽翔……本当は私も……」

あの夜、エレベーターの中で交わしたキス。それ以来、心はずっと彼を追いかけていた。

「陽翔が好き。」

彼の瞳が切なげに細まり、ぎゅっと私を抱きしめる。その腕に、全身をゆだねた。

「ああ……」

陽翔の熱が深く伝わってくるたび、私の想いも高まっていく。言葉にできない情熱が、互いの鼓動に重なってゆく。

「ゆかさん……」

「陽翔っ……!」

交わる想いと熱が頂点に達したとき、すべてが溶けて、ただ彼のぬくもりだけが残った。

朝の光が、カーテンの隙間からこぼれていた。

ぼんやりとした意識の中で目を開けると、すぐ横に陽翔の寝顔があった。

――夢じゃ、ない。

その証のように、彼の頬にそっと指を伸ばす。

なめらかな肌に触れた瞬間、陽翔が小さく身じろぎした。

「んん……」

「ごめん、起こしちゃった?」

眠たげな瞳をゆっくりと開けた陽翔が、ふわっと笑う。

「おはよう、ゆかさん。」

「おはよう……陽翔。」

言葉にして初めて、自分がどれほどこの瞬間を願っていたかに気づく。

"おはよう"のひとことで、こんなにも心が満たされるなんて。

「起きようか?」

「うん。」

重なるシーツから身を起こす。裸の背中に冷たい空気が触れて、急いで服を手に取った。

互いに気まずさもなく、穏やかに、自然に服を着ていく。

まるで――何度もこうしてきた恋人同士のように。

着替えを終えたところで、陽翔がふと口を開いた。

「また会おう。」

そう言った陽翔は、ほんの少し視線を逸らしていた。

でも、次の瞬間、まっすぐ私を見つめ返してくる。

「俺達、ちゃんと付き合おう。」

……え?

思わず言葉が詰まった。

胸の奥で、何かが熱くふるえる。

「……ほんとに?」

ようやく絞り出した声は、震えていた。

陽翔は私の手を握って、小さく頷いた。

「うん。俺、本気だから。」

そのまっすぐな瞳を見ていたら、堪えていたものがこぼれそうになる。

「……ずるいよ、そんなの……」

声にならない想いが、涙となって頬をつたう。

「ゆかさん?」

「……嬉しいの。」

笑おうとしたけれど、涙が止まらなかった。

陽翔は黙って、そっと私を抱きしめてくれた。

「ありがとう……陽翔。」

私の頬に触れる手が、あたたかかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

歳の差を気にして去ろうとした私は夫の本気を思い知らされる

紬あおい
恋愛
政略結婚の私達は、白い結婚から離縁に至ると思っていた。 しかし、そんな私にお怒りモードの歳下の夫は、本気で私を籠絡する。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

【完結】 女に弄ばれた夫が妻を溺愛するまで

紬あおい
恋愛
亡き兄の恋人を愛し、二年後に側室に迎えようと政略結婚をした男。 それを知りつつ夫を愛し、捨てられないように公爵夫人の地位を確立しようと執務に励む女。 そんな二人が心を通わせるまでのお話。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

処理中です...