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【4】指先だけで、崩されて
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湊といると、心が安心して、体まで素直になる。
「抑えなくていいよ……湊なら、怖くない。」
その言葉を聞いた瞬間、湊の瞳に静かな火が灯った。
肩に添えられていた手が私の首筋へと移動し、親指がそっと唇をなぞる。
「キスしていい?」
その声に、心臓が跳ねた。
私はゆっくりと目を閉じた。
まぶたの裏で、湊の輪郭だけが静かに浮かび上がる。
頬にかかる風が、夏の終わりを告げている。
その中で、すっと近づく気配。
そして、唇がそっと触れ合った。
やわらかい――
ただそれだけの感触なのに、息が止まりそうになる。
「んん……」
かすかに漏れた声とともに、体の奥からじんわりと熱が広がっていく。
心も体も、湊にほどけていくようだった。
こんなにもキスって優しいんだ。
こんなにも、心を溶かしていくものなんだ。
湊の手が、私の頬に触れる。
その温もりが、さらにキスを深くしていく。
唇を少しだけ離したとき、湊の瞳がすぐ近くにあった。
潤んだままの目で、私は見上げる。
「……可愛すぎる。」
その一言に、鼓動が跳ねる。
そしてもう一度、彼の唇が重なった。
今度は、少し深く。
気持ちごと、溶けていくみたいに。
「湊……」
思わず、名前がこぼれた。切なさと愛しさが、胸いっぱいに広がっていく。
その声に応えるように、湊が優しく囁く。
「奈々、首傾けて……」
その言葉だけで、体がかすかに震える。
言われるまま、そっと首を傾けると──
ふたたび湊の唇が重なった。
今度は角度を変えて、深く、柔らかく。
まるで味わうように、何度も何度も。
「ん……」
くちづけの合間に、吐息が漏れる。
キスって、こんなに甘いんだ。
触れるたびに、心の奥が溶けていくみたい。
目を閉じたまま、私は思った。
ファーストキスは、湊でよかった。
湊の手が、頬から髪へと滑り、そっと私を引き寄せる。
鼓動が重なり合って、キスも熱を帯びていく。
「……奈々、俺、もう止まれないかも。」
低く掠れた声が、耳元に落ちてきた。
「うん。」
そう小さく返した瞬間、湊の唇がもう一度重なる。今度は、舌先がそっと私の唇の隙間に触れてきた。
「んんんっ……!」
驚きと戸惑いに、体が小さく震える。
ビクッと肩が跳ねるのを、湊も感じたのだろう。
「ごめん!」
すぐに体が離れて、湊が真っ赤な顔で謝ってくる。
「ファーストキスで、ディープなんてやり過ぎだった。ほんと、ごめん……」
必死に目を逸らして、動揺を隠そうとするその姿に、私は不思議な気持ちになった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
湊の視線を追って、私はそっと彼の胸元に顔をうずめる。
「……嫌じゃなかったよ。」
湊の腕が、ぴくりと反応する。
「ただ……ちょっとびっくりしただけで。」
心臓の音が、彼の胸の奥から伝わってくる。
ドクン、ドクンと早く、熱い音。
──ああ、私、今、湊の“男”の部分を感じてる。
「奈々……」
湊の声が、かすかに震えていた。
その名を呼ばれるたびに、胸の奥がじんわり温かくなる。
私達の関係が、少しだけ変わった──
「奈々……」
湊が、低く、切なげに私の名前を呼んだ。
その声に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「俺は──奈々が好きだ。」
はっきりとしたその言葉。
私の鼓動が、急に速くなる。
「奈々は?」
まっすぐに見つめてくる湊の瞳。
私はその熱に耐えきれずに、目をそらしかけたけれど、すぐに視線を戻した。
「私も……湊が好き。」
はにかむように答えると、湊の表情が一瞬止まった。
それから、何かをこらえるように、眉を下げて私を見る。
「好きだったの。ずっと。小学生の時から、ずっと──湊のこと。」
湊が、ふっと息を漏らす。
そして、はははと照れたように笑った。
「なんだよ……俺たち、とっくに両想いだったんじゃん。」
その笑顔が眩しすぎて、思わず目を細めた。
「うん。」
そう答える私の手を、湊はそっと握った。
次の瞬間、彼の腕が私の背中に回る。
「……奈々。」
名前を、もう一度、愛おしそうに呼ばれる。
そして私たちは、互いの温もりを確かめ合うように、抱きしめ合った。
湊の体温が、私の胸に染み込んでくる。
長い時間をかけて育まれた想いが、ようやく言葉になって、触れ合って──
ひとつの形になった時だった。
週末。湊と映画を観に行った。
選んだのは、いま話題の恋愛映画だった。
『あなたが好き!』
『俺も!』
クライマックスで主人公たちがそう叫び合い、勢いよく唇を重ねる。
劇場の中には甘い空気が満ちて、私も自然と息を呑んだ。
──そして、物語はそのままベッドシーンへ。
「うそっ……」
スクリーンの中、彼と彼女は激しく求め合い、吐息が交錯する。
こんなにも生々しく、熱を帯びたシーンを観るのは初めてだった。
心臓が早鐘のように鳴る。
どうしていいか分からず、視線を逸らしかけた、その時だった。
「大丈夫?」
隣から、湊の優しい声が聞こえた。
私は慌てて彼の方に顔を向けて、小さく笑う。
「うん。……びっくりしただけ。」
湊は、ふっと目を細めて微笑んだ。
その仕草が、妙に大人びて見えて、私はまた心臓が跳ねるのを感じた。
「ああいうの、嫌い?」
映画が終わっても、エンドロールを眺めながら、私はそっと湊に尋ねた。
湊はまっすぐに私を見つめる。
「……嫌いじゃないけれど。」
その言葉に、胸が少し熱くなる。
「俺たちも――あんなふうに、愛し合わない?」
「抑えなくていいよ……湊なら、怖くない。」
その言葉を聞いた瞬間、湊の瞳に静かな火が灯った。
肩に添えられていた手が私の首筋へと移動し、親指がそっと唇をなぞる。
「キスしていい?」
その声に、心臓が跳ねた。
私はゆっくりと目を閉じた。
まぶたの裏で、湊の輪郭だけが静かに浮かび上がる。
頬にかかる風が、夏の終わりを告げている。
その中で、すっと近づく気配。
そして、唇がそっと触れ合った。
やわらかい――
ただそれだけの感触なのに、息が止まりそうになる。
「んん……」
かすかに漏れた声とともに、体の奥からじんわりと熱が広がっていく。
心も体も、湊にほどけていくようだった。
こんなにもキスって優しいんだ。
こんなにも、心を溶かしていくものなんだ。
湊の手が、私の頬に触れる。
その温もりが、さらにキスを深くしていく。
唇を少しだけ離したとき、湊の瞳がすぐ近くにあった。
潤んだままの目で、私は見上げる。
「……可愛すぎる。」
その一言に、鼓動が跳ねる。
そしてもう一度、彼の唇が重なった。
今度は、少し深く。
気持ちごと、溶けていくみたいに。
「湊……」
思わず、名前がこぼれた。切なさと愛しさが、胸いっぱいに広がっていく。
その声に応えるように、湊が優しく囁く。
「奈々、首傾けて……」
その言葉だけで、体がかすかに震える。
言われるまま、そっと首を傾けると──
ふたたび湊の唇が重なった。
今度は角度を変えて、深く、柔らかく。
まるで味わうように、何度も何度も。
「ん……」
くちづけの合間に、吐息が漏れる。
キスって、こんなに甘いんだ。
触れるたびに、心の奥が溶けていくみたい。
目を閉じたまま、私は思った。
ファーストキスは、湊でよかった。
湊の手が、頬から髪へと滑り、そっと私を引き寄せる。
鼓動が重なり合って、キスも熱を帯びていく。
「……奈々、俺、もう止まれないかも。」
低く掠れた声が、耳元に落ちてきた。
「うん。」
そう小さく返した瞬間、湊の唇がもう一度重なる。今度は、舌先がそっと私の唇の隙間に触れてきた。
「んんんっ……!」
驚きと戸惑いに、体が小さく震える。
ビクッと肩が跳ねるのを、湊も感じたのだろう。
「ごめん!」
すぐに体が離れて、湊が真っ赤な顔で謝ってくる。
「ファーストキスで、ディープなんてやり過ぎだった。ほんと、ごめん……」
必死に目を逸らして、動揺を隠そうとするその姿に、私は不思議な気持ちになった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
湊の視線を追って、私はそっと彼の胸元に顔をうずめる。
「……嫌じゃなかったよ。」
湊の腕が、ぴくりと反応する。
「ただ……ちょっとびっくりしただけで。」
心臓の音が、彼の胸の奥から伝わってくる。
ドクン、ドクンと早く、熱い音。
──ああ、私、今、湊の“男”の部分を感じてる。
「奈々……」
湊の声が、かすかに震えていた。
その名を呼ばれるたびに、胸の奥がじんわり温かくなる。
私達の関係が、少しだけ変わった──
「奈々……」
湊が、低く、切なげに私の名前を呼んだ。
その声に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「俺は──奈々が好きだ。」
はっきりとしたその言葉。
私の鼓動が、急に速くなる。
「奈々は?」
まっすぐに見つめてくる湊の瞳。
私はその熱に耐えきれずに、目をそらしかけたけれど、すぐに視線を戻した。
「私も……湊が好き。」
はにかむように答えると、湊の表情が一瞬止まった。
それから、何かをこらえるように、眉を下げて私を見る。
「好きだったの。ずっと。小学生の時から、ずっと──湊のこと。」
湊が、ふっと息を漏らす。
そして、はははと照れたように笑った。
「なんだよ……俺たち、とっくに両想いだったんじゃん。」
その笑顔が眩しすぎて、思わず目を細めた。
「うん。」
そう答える私の手を、湊はそっと握った。
次の瞬間、彼の腕が私の背中に回る。
「……奈々。」
名前を、もう一度、愛おしそうに呼ばれる。
そして私たちは、互いの温もりを確かめ合うように、抱きしめ合った。
湊の体温が、私の胸に染み込んでくる。
長い時間をかけて育まれた想いが、ようやく言葉になって、触れ合って──
ひとつの形になった時だった。
週末。湊と映画を観に行った。
選んだのは、いま話題の恋愛映画だった。
『あなたが好き!』
『俺も!』
クライマックスで主人公たちがそう叫び合い、勢いよく唇を重ねる。
劇場の中には甘い空気が満ちて、私も自然と息を呑んだ。
──そして、物語はそのままベッドシーンへ。
「うそっ……」
スクリーンの中、彼と彼女は激しく求め合い、吐息が交錯する。
こんなにも生々しく、熱を帯びたシーンを観るのは初めてだった。
心臓が早鐘のように鳴る。
どうしていいか分からず、視線を逸らしかけた、その時だった。
「大丈夫?」
隣から、湊の優しい声が聞こえた。
私は慌てて彼の方に顔を向けて、小さく笑う。
「うん。……びっくりしただけ。」
湊は、ふっと目を細めて微笑んだ。
その仕草が、妙に大人びて見えて、私はまた心臓が跳ねるのを感じた。
「ああいうの、嫌い?」
映画が終わっても、エンドロールを眺めながら、私はそっと湊に尋ねた。
湊はまっすぐに私を見つめる。
「……嫌いじゃないけれど。」
その言葉に、胸が少し熱くなる。
「俺たちも――あんなふうに、愛し合わない?」
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