年下皇帝の甘い誘惑

日下奈緒

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第6話 今は仕事だけ

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2人の男性から、告白された私は、ただの料理人だ。

一方は仕事の同僚、もう一方はこの国の皇帝陛下。

比べる事もない。

私が幸せになれるのは、同僚のパウリだと思うのに。

カイの事が、頭から離れられない。


「涼花!」

「ん?レーナ、何?」

「そのクリーム、何に使うの?」

「えっ?」

手元を見ると、もうボールいっぱいに、生クリームが泡だっていた。

「あちゃー。何とか使わないと。」

「今日のデザートは、生クリーム使わないよ?」

「そこを何とかするのが、料理人っしょ!」

「料理人っしょ?」

最近レーナは、私の日本語を真似してくる。

しかも、変な部分だけ。


そしてパウリはと言うと、あれ以来、飲みにも誘わない。

仕事中も余計な事言わなくなった。

私がちゃんとパウリの事を考えられるように、遠慮しているのだ。

「ところで最近、パウリは大人しいね。」

「ん?うん。」

こうなるとレーナも、気づき始める。

「何かあった?」

そう。レーナは勘がいいのだ。

「……パウリに告白された。」

「おっほい!」

「それ、どこから教わってくるの?」

「パウリが言ってた。」

「パウリってば。」

きっと私が酔って口に出している事を、パウリも真似して言っているのだ。


「それで?どうするの?パウリと恋人同士になる?」

「うーん……」

これは言った方がいいのかな。

「実は、もう一人の人からも、告白されてて。」

「おっほほい!モテるね、涼花。」

「その日本語、止めて。」

レーナは笑うと、私の肩を掴んだ。


「それで?どっちを選ぶの?」

レーナはワクワクしている。

「それで悩んでいるの。」

私は泡立て過ぎた生クリームを置いて、小麦粉を出した。

「悩む?どっちか決めるだけなのに?あっ、もしかしてどっちも選びたいとか。」

「おめでたい性格ね、レーナは。」

私は砂糖と卵、バターを出すと、小麦粉と一緒に混ぜた。

「ね、ね。私も二人の人から、同時に愛してるって、言われた事あるよ。」

「えっ!?」

割と多いのだろうか。

「ルシッカの人は、いいなと思ったら、直ぐ告白するの?」

「割と早めに言う。じゃないと、他の人に持って行かれる。」

「ええっ?そんなに恋多き国なの?ルシッカって。」

日本じゃあ、考えられない。

「レーナはどっちにしたの?」

「小さい時から知っている方にした。」

「幼馴染みって事?」

「うーん。違う気がする。小学校の同級生。知っている方が、安心する。」


そうだよね。

私もきっと幼馴染みがいたら、そうしている。


「涼花は、何で迷っているの?」

「……身分かな。」

「身分?なにそれ。」

「自分が偉いかどうかって事。」

「そんなに偉い人なの?」

「そうね。」

そしてオーブンの型に、小麦粉を混ぜた物を流し込み、オーブンに入れた。

「ルシッカの人、身分気にしない。」

「ルシッカはそうだけど、日本は気にするのよ。」

私はため息を軽くついた。

「相手も、身分なんて気にしていない。愛の前では、同じ人間。」

悔しいくらいに、レーナの言う事が、胸に刺さる。

きっと、カイもそう言うと思う。

一人の人間として、私を好きになってくれたのだと思う。

「でもね。周りの人は反対する。」

「そう。」

アルッティさんだって、まさか見知らずの料理人を連れて来たら、ご主人様と恋愛していますなんて、許さないと思うのよね。

「何故か涼花の話聞いていると、その人を好きみたいだね。」

私はドキッとした。

「パウリは振られるんだね。」

「ちょっと!まだ決めてないわよ。」

「どうして?涼花の気持ち、もう決まっている。」

レーナの言葉に、しんみりしていると、焦げた匂いが香ってきた。

「ヤバい!焼き過ぎた!」

「ヤバイ?ヤバイ?」

また変な日本語、教えてしまった。レーナに。

慌ててオーブンから出すと、表面は焦げてしまっていた。


「焦げた?苦い?」

「苦い、苦い。まあ、食べられない事もないけど。」

するとレーナは、クスクス笑いだした。

「まるで、恋みたい。」

「恋?」

「苦い部分もあるし、甘い部分もある。だけどそれが一番、美味しい。」

「レーナ……」


私だって恋愛は、いい時もあれば悪い時もあるって、知っている。

元カレのように、優しい時もあれば、暴力を振う時だって。


「きっと、涼花の返事を待っていると思うよ。皇帝陛下は。」

「えっ……」

レーナは、ニコッと口の口角をあげた。

「身分ある人って、皇帝陛下の事でしょ。」

「レーナ!人の気持ち、読み過ぎ!」

「ごめん、ごめん。でも、少なくても私達は、涼花と皇帝陛下が恋しても、反対はしないよ。」

私は焼け過ぎたケーキを、型から外した。


「……でも、結婚となると、反対するでしょ?」

「はいはい。涼花は、気持ちが早い。」

「ははは、そうね。」


付き合ってもいないのに、結婚の事を考えるだなんて。

ダメだな、私。


「涼花。もし、皇帝陛下と恋して、結婚したい。二人がそうなれば、私達は反対しない。」

「まさか!」

「本当。皇帝陛下は、皆に優しい。皆、大好き。だからこそ、自分が愛する人と結ばれてほしい。その相手が涼花なら、私は涼花を応援する。」

急に、ウルッとなった。

「どうしてそんなに、私に優しいの?」

「ははは。涼花だからだよ。」

こんな訳の分かんない日本人を、皇帝陛下の妻に押すなんて、出来過ぎだよ。レーナ。

「よし!そうと決まったら、パウリに断わりに行こう。」

「今から?」

「善は急げって言うでしょ。」

レーナは私の背中を押すと、パウリのいる裏小屋に連れて行った。


「なに?」

パウリはちょっと、不機嫌そうだった。

「ごめんなさい。仕事で忙しい時に。」

するとパウリは、小麦の入っている袋を、床に置いた。

「いや、涼花の話だったら、いつでも聞くよ。」

「ありがとう。」

私は扉の外にいるレーナの方を、チラッと見た。

きっと私に、頑張れってエールを送っているわ。


「あのね。この前の告白の事なんだけど。」

「告白?恋人になってほしいって、言った事?」

「うん。」

「へえ。日本語で告白って言うのか。また新しい言葉、覚えた。」

パウリは、やっぱり明るい。

こんな時でも、前向きになるだなんて。


「ごめんなさい。私、パウリの恋人には、なれないわ。」

シーンと静まり返る小屋の中。

私は居たたまれなくなって、パウリの方を見た。

すると、パウリは涙を浮かべていた。

「えっ?パウリ?」

「ごめん。男なのに泣いているなんて、恥ずかしい。」

「ううん。そんな事ないけれど、どうしたの?」

「どうしたの?って、愛している人から、恋人になれないって言われて、悲しくない奴がいるのか?」

パウリは、目に浮かんだ涙を拭いていた。

「ごめん。まさか、そんなに本気だったなんて。」

「本気じゃなかったら、告白しないよ。」

「そ、そうね。ごめんなさい。」


やっぱり私、告白を断るのって、無理。

こんな泣かれたら、気持ちも揺らいでしまう。


「そんなに、皇帝陛下がいいのか。」

「……陛下にも、断るつもりよ。」

その言葉を聞いて、レーナも小屋の中に飛び込んできた。

「どうして!?涼花、皇帝陛下の事、愛しているのに!」

「愛しているからこそよ。こんな、日本から来た訳の分からない女じゃなくて、もっと……」

カイへの気持ちが溢れた。

「国民に愛される人と、一緒になってほしい。」

「涼花……」

すると今度は、パウリは号泣している。

「どうして、愛し合っている二人が、結ばれないんだ!」

「そうよ!おかしいよ。涼花、考え直して。皇帝陛下を愛している気持ち、大切にして。」

私の為に、泣いてくれるなんて。

なんていい人に巡り合えたんだろう。

ありがとう、パウリ。そしてレーナ。


2人と別れた後、私はお城を出て、自分の家の方向に向かった。

もしかしたら、カイが窓から見ているかもしれない。

ただそれは、私の勘違いで、窓にはカイの姿はなかった。

あっ、だったらあのお庭にいるかも。

そう思ったら、勝手に足が動いた。


お城の庭までは、ちょっと歩く。

何せ、大きなお城だからね。

裏側に行くまで、だいぶ時間がかかる。

「あー!こんなに歩いて、告白を断らないといけないなんて!」

見上げた空は、まだ青くて、眩しかった。

まるでカイのように、眩しかった。


そして、風が吹き抜けた時、庭への扉が開いた。

眩しい光の中に、一人の男の人が立っている。

「涼花?」

「その声は……カイ?」

眩しい光を遮るように、額の上に手をかざすと、そこには軍服を着たカイが立っていた。

「まさかこんな場所で会えるなんて、思ってもみなかった。」

扉が閉まると、カイは駆け足で私のところへ来た。

「どうしたの?仕事で何か、辛い事でもあった?」

「ううん。」

今からこの人の告白を断るのだと思ったら、涙が出て来た。

「なんだか、悪い予感がするね。」

「ごめんなさい。」

カイが私の涙を拭ってくれた。

「その涙を見ると、僕は振られるのかな。」

胸がズキッとなった。

「本当にごめんなさい。」

私は一歩後ろに下がって、頭を下げた。

「理由を教えて。」

「私、まだ仕事に集中したいの。与えられた役目を、全うしたいの。」

「そうか。なら、仕方ない。」

カイはそう言うと、私の横をスーッと通り抜けた。


ごめんなさい。

私は何度も何度も、謝り続けた。

カイの足音が、遠ざかっていく。


思わず振り返ってしまった。

「カイ!」

振り返ったカイの姿が、涙で滲んで見えた。

「本当は、あなたの事が好き!どうしようもないくらい、愛しているの!」

するとカイは、戻ってきてくれて、私を抱きしめてくれた。

「ごめんなさい。でも、どうしてもカイの愛には、応えられなくて。」

「いいんだよ。君に料理人になる役目を与えたのは、この僕だ。君が仕事に一生懸命になる事が、僕への気持ちに、応えてくれているのだから。」

「カイ……」

顔を上げるとカイは、寂しそうに笑っていた。

「でも忘れないで。僕は涼花をいつも想っている。太陽が昼間輝くように、月が夜空を照らすように、僕は君を想う。」

そして私の唇は、カイの唇と重なった。
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