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砂漠の中の城
②
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「他には?」
「えっ?」
お腹を押さえながら、ジャラールさんを見た。
「日本がどんな国か教えてくれ。」
「ああ……」
心なしか、ジャラールさんの瞳が、キラキラ光っている。
「日本は四季があって、それぞれの季節を楽しんでいます。」
「四季?」
「春、夏、秋、冬と4つの季節があるんです。」
「へえ……砂漠は一年中、こんな感じだ。季節とはどんなものなのだろうか。」
季節がない。
そんな人達に、上手く伝わるかな。
「春は花の季節です。たくさんの種類が咲き乱れます。夏は太陽の季節。この砂漠のよう。秋は、木の葉かな。冬は雪の季節なんです。」
こうして話してみると、季節があるって、とても有り難い事みたい。
「こうして聞くと、日本は美しい国なんだな。」
「はい。色々な季節に囲まれて、とてもいい国だと思います。」
今までそんな事意識した事なかったのに、この時は素直にそんな言葉を言えた。
「そうだ。私の名前も季節を表す言葉なんですよ!」
「クレハが?」
あれ? なんだかこの話題は、食い付きがよさそうだ。
「えっと……さっき日本には四季があるって言ったんですけど、その秋という季節なんです。」
「アキ……」
「一番暑い季節から、一番寒い季節になるまでの間の名前なんです。木の葉が地面に落ちる前に、緑色から赤や黄色に色づくんです。それを"紅葉"と言って……それが私の名前の由来なんです。」
ちょっと自分の名前を、こんな風に説明するなんて、恥ずかしくて照れる。
「季節の名か。素敵な名前だ。」
「ありがとうございます。」
ジャラールさんだったら、そう言ってくれると思ってた。
素敵な名前って、顔がニンマリする。
「我々の名前にもちょっとした意味がある。例えばハーキムは"督智あふれる者"だ。」
「えっ‼ハーキムさん、すごい!!」
ハーキムさんは、それでも表情一つ、動かさない。
「じゃあ、ジャラールさんは?」
「私か?」
ジャラールさんは、寂しそうに微笑んだ後、こう言った。
「私の名は、大したものではない。」
名前にそんな事あるのかなと思ったけれど、ジャラールさんがあまりにも寂しそうだったから、それ以上は追及しないようにした。
「それよりも、もっと日本の事を聞かせてくれ。」
そう言ったジャラールさんの顔に、少しだけ笑顔が戻ったから、ここぞとばかりに日本の事を話して、その笑顔を絶やさぬようにした。
その成果が実ったのか、ジャラールさんとハーキムさんは、終始笑顔。
私は夢の中で、更に夢のような時間を過ごした。
しばらくして、ハーキムさんがウトウトし始めた。
「そろそろ休もうか。」
ジャラールさんのその一言で、ハーキムさんが目を覚ました。
「はい。」
返事をしたハーキムさんは、近くにあった木を、火の中に投げ入れた。
「ハーキム、先に休め。」
「いえ、私は起きてます。ジャラール様がお休み下さい。」
するとジャラールさんは、ハーキムさんの肩にそっと触れた。
「最近ずっと休んでいなかっただろう。疲れているんだ。今日は先に休め。」
「ジャラール様……」
二人には悪いけれど、イケメン二人。
しかも一方は、美少年。
勝手ながら、BLみたいなものを想像してしまう。
「ではすみません。今日は先に休ませて頂きます。」
するとハーキムさんは、荷物を枕にすると体を横にした。
スースーと聞こえる寝息。
横になってものの数秒で、ハーキムさんは寝てしまった。
「ハーキムさん、寝るの早い。」
「ハーキムは、数時間しか寝ていないのに目覚めも早い。それが習慣になっていると言えばそうだが、それでも凄い。」
すぐ近くで、火がパチパチ言っている。
ハーキムさんがぐっすり眠っているのを見て、ジャラールさんは軽く微笑んでいる。
またもや、有らぬ想像が私の頭の中を駆け巡る。
すみません、二人とも。
私は頭の上をパタパタと、手で振り払った。
「クレハ。」
「はっ、はい!」
変な想像してたのが、バレたかな。
「クレハも休め。明日も強い日差しの中を移動するぞ。」
「はい……」
私もハーキムさんの真似をして、荷物を枕にした。
頭や頬に、ゴツゴツした物が当たる。
いつも寝ているあのフカフカの枕とは、全く違う。
ハーキムさん、よくこんな物を枕にして、スヤスヤ眠れるな。
「どうした?クレハ。」
こんな時、優しく話しかけてくれるのは、決まってジャラールさんだ。
「あっ、いや。何でもないです。」
だけどジャラールさんは、私の些細な変化も見逃さなかった。
「眠れぬのなら、私と一緒に起きているか?」
私はそっと体を起こした。
「いいんですか?」
「ああ。それに敵が攻めてくるのであれば、夜更けだ。側にいてくれていた方が助かる。」
背中がヒヤッとする。
「て、敵?」
現実にはあまり聞かない言葉に、改めてここは別世界なのだと思い知る。
そんな私を見て、ジャラールさんは、にっこり微笑んだ。
「安心しろ、クレハ。何かあったら私がクレハを守る。」
心臓がドキッとした。
さっきまで背中が冷たかったのに、今は体が熱い。
美少年に守るって言われて、ドキドキしない女はいないと思う。
「そうだ、クレハ。上を見てごらん。」
「えっ?」
ジャラールさんに言われるがまま、上を見上げると、壁に開いている穴からたくさんの星空が。
「うわ~……綺麗。」
満天の星空。
きっとこの事を言うんだなと、思った。
そして、その満天の星空に、アクセントをつけているのが、ぽっかり浮かぶ金色の月。
あまりにも美し過ぎて、勝手に涙が出てきた。
「あっ、ごめんなさい。泣いたりして。」
するとジャラールさんの指が、私のこぼれ落ちる涙を拭ってくれた。
「ジャラールさん。」
「いいんだ。クレハの気持ちはわかる。」
そしてその笑顔に、また吸い込まれそうになった。
どうしてジャラールさんは、こんなにも人の気持ちに寄り添えるんだろう。
その気持ちが温かくて、胸がジーンとする。
その時、ハーキムさんがムクッと起き上がった。
その瞬間、ジャラールさんが刀を持つ。
思わず体が、ビクッと反応する。
「……敵か?」
「いえ、ジャラール様。今度は私が起きていますから、お休みになって下さい。」
「数時間しか寝ていないだろう。もっと休め、ハーキム。」
「私は元々、数時間寝るだけで、事足ります。」
私は膝を抱えた。
「そうか……じゃあ悪いが、休ませて貰うよ。」
「はい。」
そして、ハーキムさんとジャラールさんは交代。
ジャラールさんも、荷物を枕にして、寝てしまった。
「えっと……私も、そろそろ寝ますね。」
「ああ。」
ハーキムさんは、私相手だと素っ気ない。
またゴツゴツした荷物を枕にして、目を閉じた。
なんだかまだ、ジャラールさんとお話したかったな。
「ジャラール様は、何か仰ってたか?」
急に聞こえてきた、ハーキムさんの声。
「えっ……」
無視することもできずに、それとなく起き上がる。
「何も話しては、おられなかったか。」
なぜ、そんな事聞くのかわからなかったけれど、たぶんハーキムさんは、ジャラールさんの事、心配しているんだと思う。
「えっと……星が綺麗だとか、月が綺麗だとかそんな話はしましたけど……」
「星?月?」
「はい。」
ハーキムさんは、しばらくした後、フッと笑みを浮かべた。
「そうか。少しでもジャラール様の気持ちが、癒されればよろしいのだが。」
癒される?
私は気になって、ハーキムさんの隣に陣取った。
「ジャラールさんは、星とか月が好きなんですか?」
「はははっ。」
静かに笑うハーキムさんは、ゆっくりと辺りを見回した。
「この場所は、ジャラール様の母君様の故郷なのだ。」
「お母さんの?ここが?」
改めて周りを見たが、どう見たって白い壁しか見当たらない。
「ここに来る前に、昔は支配者の宮殿だったと、お前に教えただろう。」
「そうでした。」
私はおでこをペチっと叩いた。
ちらっとハーキムさんを見たけれど、また表情一つ変えない。
ときわや光清だったら、笑ってくれるのに。
プチホームシック。
そして、ちょっとした事に気づく。
「ここが宮殿だったって事は、ジャラールさんのお母さんもお姫様だったの?」
「ああ。母君様のお美しさは、アラブ諸国でも群を抜いていた。」
「だからジャラールさんは、美少年なのね。」
ハーキムさんは、うんと頷いた。
「ジャラール様の父君である現王がまだ、王子だった頃。たまたま訪れたこの宮殿で、母君と恋に落ちた。小国の姫君だったが、父君が前王を説得し、妃に迎えたのだ。」
「ひゃあ!何その大恋愛。」
砂漠の中での運命的な出会い!
しかも身分違いを乗り越えるなんて!
「えっ?」
お腹を押さえながら、ジャラールさんを見た。
「日本がどんな国か教えてくれ。」
「ああ……」
心なしか、ジャラールさんの瞳が、キラキラ光っている。
「日本は四季があって、それぞれの季節を楽しんでいます。」
「四季?」
「春、夏、秋、冬と4つの季節があるんです。」
「へえ……砂漠は一年中、こんな感じだ。季節とはどんなものなのだろうか。」
季節がない。
そんな人達に、上手く伝わるかな。
「春は花の季節です。たくさんの種類が咲き乱れます。夏は太陽の季節。この砂漠のよう。秋は、木の葉かな。冬は雪の季節なんです。」
こうして話してみると、季節があるって、とても有り難い事みたい。
「こうして聞くと、日本は美しい国なんだな。」
「はい。色々な季節に囲まれて、とてもいい国だと思います。」
今までそんな事意識した事なかったのに、この時は素直にそんな言葉を言えた。
「そうだ。私の名前も季節を表す言葉なんですよ!」
「クレハが?」
あれ? なんだかこの話題は、食い付きがよさそうだ。
「えっと……さっき日本には四季があるって言ったんですけど、その秋という季節なんです。」
「アキ……」
「一番暑い季節から、一番寒い季節になるまでの間の名前なんです。木の葉が地面に落ちる前に、緑色から赤や黄色に色づくんです。それを"紅葉"と言って……それが私の名前の由来なんです。」
ちょっと自分の名前を、こんな風に説明するなんて、恥ずかしくて照れる。
「季節の名か。素敵な名前だ。」
「ありがとうございます。」
ジャラールさんだったら、そう言ってくれると思ってた。
素敵な名前って、顔がニンマリする。
「我々の名前にもちょっとした意味がある。例えばハーキムは"督智あふれる者"だ。」
「えっ‼ハーキムさん、すごい!!」
ハーキムさんは、それでも表情一つ、動かさない。
「じゃあ、ジャラールさんは?」
「私か?」
ジャラールさんは、寂しそうに微笑んだ後、こう言った。
「私の名は、大したものではない。」
名前にそんな事あるのかなと思ったけれど、ジャラールさんがあまりにも寂しそうだったから、それ以上は追及しないようにした。
「それよりも、もっと日本の事を聞かせてくれ。」
そう言ったジャラールさんの顔に、少しだけ笑顔が戻ったから、ここぞとばかりに日本の事を話して、その笑顔を絶やさぬようにした。
その成果が実ったのか、ジャラールさんとハーキムさんは、終始笑顔。
私は夢の中で、更に夢のような時間を過ごした。
しばらくして、ハーキムさんがウトウトし始めた。
「そろそろ休もうか。」
ジャラールさんのその一言で、ハーキムさんが目を覚ました。
「はい。」
返事をしたハーキムさんは、近くにあった木を、火の中に投げ入れた。
「ハーキム、先に休め。」
「いえ、私は起きてます。ジャラール様がお休み下さい。」
するとジャラールさんは、ハーキムさんの肩にそっと触れた。
「最近ずっと休んでいなかっただろう。疲れているんだ。今日は先に休め。」
「ジャラール様……」
二人には悪いけれど、イケメン二人。
しかも一方は、美少年。
勝手ながら、BLみたいなものを想像してしまう。
「ではすみません。今日は先に休ませて頂きます。」
するとハーキムさんは、荷物を枕にすると体を横にした。
スースーと聞こえる寝息。
横になってものの数秒で、ハーキムさんは寝てしまった。
「ハーキムさん、寝るの早い。」
「ハーキムは、数時間しか寝ていないのに目覚めも早い。それが習慣になっていると言えばそうだが、それでも凄い。」
すぐ近くで、火がパチパチ言っている。
ハーキムさんがぐっすり眠っているのを見て、ジャラールさんは軽く微笑んでいる。
またもや、有らぬ想像が私の頭の中を駆け巡る。
すみません、二人とも。
私は頭の上をパタパタと、手で振り払った。
「クレハ。」
「はっ、はい!」
変な想像してたのが、バレたかな。
「クレハも休め。明日も強い日差しの中を移動するぞ。」
「はい……」
私もハーキムさんの真似をして、荷物を枕にした。
頭や頬に、ゴツゴツした物が当たる。
いつも寝ているあのフカフカの枕とは、全く違う。
ハーキムさん、よくこんな物を枕にして、スヤスヤ眠れるな。
「どうした?クレハ。」
こんな時、優しく話しかけてくれるのは、決まってジャラールさんだ。
「あっ、いや。何でもないです。」
だけどジャラールさんは、私の些細な変化も見逃さなかった。
「眠れぬのなら、私と一緒に起きているか?」
私はそっと体を起こした。
「いいんですか?」
「ああ。それに敵が攻めてくるのであれば、夜更けだ。側にいてくれていた方が助かる。」
背中がヒヤッとする。
「て、敵?」
現実にはあまり聞かない言葉に、改めてここは別世界なのだと思い知る。
そんな私を見て、ジャラールさんは、にっこり微笑んだ。
「安心しろ、クレハ。何かあったら私がクレハを守る。」
心臓がドキッとした。
さっきまで背中が冷たかったのに、今は体が熱い。
美少年に守るって言われて、ドキドキしない女はいないと思う。
「そうだ、クレハ。上を見てごらん。」
「えっ?」
ジャラールさんに言われるがまま、上を見上げると、壁に開いている穴からたくさんの星空が。
「うわ~……綺麗。」
満天の星空。
きっとこの事を言うんだなと、思った。
そして、その満天の星空に、アクセントをつけているのが、ぽっかり浮かぶ金色の月。
あまりにも美し過ぎて、勝手に涙が出てきた。
「あっ、ごめんなさい。泣いたりして。」
するとジャラールさんの指が、私のこぼれ落ちる涙を拭ってくれた。
「ジャラールさん。」
「いいんだ。クレハの気持ちはわかる。」
そしてその笑顔に、また吸い込まれそうになった。
どうしてジャラールさんは、こんなにも人の気持ちに寄り添えるんだろう。
その気持ちが温かくて、胸がジーンとする。
その時、ハーキムさんがムクッと起き上がった。
その瞬間、ジャラールさんが刀を持つ。
思わず体が、ビクッと反応する。
「……敵か?」
「いえ、ジャラール様。今度は私が起きていますから、お休みになって下さい。」
「数時間しか寝ていないだろう。もっと休め、ハーキム。」
「私は元々、数時間寝るだけで、事足ります。」
私は膝を抱えた。
「そうか……じゃあ悪いが、休ませて貰うよ。」
「はい。」
そして、ハーキムさんとジャラールさんは交代。
ジャラールさんも、荷物を枕にして、寝てしまった。
「えっと……私も、そろそろ寝ますね。」
「ああ。」
ハーキムさんは、私相手だと素っ気ない。
またゴツゴツした荷物を枕にして、目を閉じた。
なんだかまだ、ジャラールさんとお話したかったな。
「ジャラール様は、何か仰ってたか?」
急に聞こえてきた、ハーキムさんの声。
「えっ……」
無視することもできずに、それとなく起き上がる。
「何も話しては、おられなかったか。」
なぜ、そんな事聞くのかわからなかったけれど、たぶんハーキムさんは、ジャラールさんの事、心配しているんだと思う。
「えっと……星が綺麗だとか、月が綺麗だとかそんな話はしましたけど……」
「星?月?」
「はい。」
ハーキムさんは、しばらくした後、フッと笑みを浮かべた。
「そうか。少しでもジャラール様の気持ちが、癒されればよろしいのだが。」
癒される?
私は気になって、ハーキムさんの隣に陣取った。
「ジャラールさんは、星とか月が好きなんですか?」
「はははっ。」
静かに笑うハーキムさんは、ゆっくりと辺りを見回した。
「この場所は、ジャラール様の母君様の故郷なのだ。」
「お母さんの?ここが?」
改めて周りを見たが、どう見たって白い壁しか見当たらない。
「ここに来る前に、昔は支配者の宮殿だったと、お前に教えただろう。」
「そうでした。」
私はおでこをペチっと叩いた。
ちらっとハーキムさんを見たけれど、また表情一つ変えない。
ときわや光清だったら、笑ってくれるのに。
プチホームシック。
そして、ちょっとした事に気づく。
「ここが宮殿だったって事は、ジャラールさんのお母さんもお姫様だったの?」
「ああ。母君様のお美しさは、アラブ諸国でも群を抜いていた。」
「だからジャラールさんは、美少年なのね。」
ハーキムさんは、うんと頷いた。
「ジャラール様の父君である現王がまだ、王子だった頃。たまたま訪れたこの宮殿で、母君と恋に落ちた。小国の姫君だったが、父君が前王を説得し、妃に迎えたのだ。」
「ひゃあ!何その大恋愛。」
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しかも身分違いを乗り越えるなんて!
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