一から十までの距離:雨に濡れた夜~僕が未来を見つけるまで~

森崎こはん

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後日譚

後日譚・玖音の一日(玖音視点)※

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 12月某日の朝7時。玖音は朝の支度をすべく、ベッドから降りる。歯を磨いて、髪を一つに束ねる。

「髪、切ろうかな……」
玖音は鏡に向かって、呟いた。浴衣からスーツに着替えると、三国の眠るベッドに腰掛けた。

「こんなに無防備に寝ちゃってさぁ。」
三国の頬を指でつつく。

「んんっ……」
三国が寝返りを打つ。仰向けになった三国の額に口を付ける。

「んっ……おはようございます……」
まだ眠そうな目の三国の髪を梳かす。

「おはよう。7時半だけど、どうする?」
「え?遅刻しちゃう!」
玖音が時刻を告げると、三国は慌てて飛び起きる。玖音は慌てて支度をする三国を眺めていた。

「行ってきます!」
「いってらっしゃい。」
玖音は三国とキスをすると、玄関から慌ただしく出ていく三国を見送った。

 時計が朝8時を指す頃。玖音は実の父に電話を掛ける。
「おはようございます、親父。今日も元気ですか?」
電話の向こうからは不機嫌な声が聞こえる。

「お前の敷いた監視のせいで、健康的な生活を送らされてるよ。」
「そうですか、それは良かったです。では、今日も1日宜しくお願いしますね?」
「お前、私よりも良い性格してるんじゃねぇか。」
玖音は最後まで聞かずに通話を切った。その足で部屋を出る。

 8時15分になり、玖音は数間不動産の裏口の鍵を開ける。事務所の中の全ての鍵を開けると、事務所の中のゴミを回収し、物置に入れる。やっと自分のデスクに着く頃には、従業員が出揃っていた。

「玖音、おはよう。」
隣のデスクの漆野が、玖音に手を振る。

「おはよう。漆野は年末調整を出して。」
玖音がそう言うと、漆野はデスクに伏せた。

「出せって言って出るものじゃないの。」
「そんなに難しくないでしょ?」
玖音はパソコンを開きながら、返答する。

「玖音、やって?」
「自分でやれ。」
「六枚あるよ?どっちか玖音のじゃない?」
駄々をこねる漆野を無視して、玖音は自分の仕事に取りかかった。

 時計が14時を指す。一般社員がデスクで昼食を摂っているところを、玖音は応接室で宅配弁当を食べる。適当に昼食を摂ると、玖音はソファで横になって目を閉じた。

「玖音さんが、寝てる……」
応接室にたまたま入ってしまった一社員が、驚きの余り独り言を漏らす。

「ノックして入ってくれない?」
玖音は起き上がり、侵入者を眠たいながらも鋭く睨む。社員は青ざめた顔で謝り倒す。

「いや、もういいよ。次から気をつけてね。」
玖音は立ち上がると、給湯室で歯を磨いて、髪を結び直す。

 玖音が外出先から戻る頃には18時になっていた。

「何でこう、すぐ溜まっちゃうかな……?」
自分のデスクと漆野のデスクの間の溢れそうなごみ箱の中身を、事務所共有のごみ箱に入れる。触られた痕跡のある自分のデスクを片付ける。その最中、漆野が戻って来た。

「あ、玖音、戻ってたんだ。」
「ああ、うん。でさ、出したものはもとの位置に戻しておいてくれない?」
「どっち入れたらいいの?」
「どっちもこっちも無いよ。出来ないなら、他人の私物を触るな。って言ったよね?」
「ダメ?」
「ダメ。僕のデスクを汚さないで。」
漆野に軽く注意をして、細々とした雑務を終わらせると、定時になっていた。

「今日はもう上がるよ。」
「え、もっと一緒にしよ?」
「漆野は年末調整を書いてください。じゃ、お疲れ様です。」
周りの社員に挨拶をすると、玖音は事務所を後にした。


 部屋に戻ると、三国が制服のままベッドに寝転がっていた。

「あ、玖音さん。おかえりなさい。」
三国は身を起こし、玖音を見て微笑む。

「ただいま。」
三国の頭を撫でると、荷物を置き、スーツから浴衣に着替える。机に置いてあるパソコンを開くと、数間組関連の仕事を進める。載水会の器物破損、澗陸会の経営不振、さらには穣岳会の警察沙汰の報告があがってくる。

「一回こいつら締めた方がいいのかな?組織としてダメだろ。」
メールを確認しながら、玖音は呟く。

「玖音さん、夕飯作ってみました!」
三国がテーブルに夕飯を並べる。三国の分はお粥だったが、玖音の分はオムライスだった。

「味見出来ないのに頑張ったね。ありがとう。」
「なんでそんな酷いこと言うんですか?」
三国がしょんぼりと机の前に座る。

「え……なんか、ゴメン。嬉しいよ。」
三国の横に座り、頭を撫でる。玖音は出された食事をゆっくりと食べ始める。三国も、ちまちまとお粥を口に運ぶ。

「ごちそうさま。美味しかったよ。」
「お口に合って、良かったです。」
三国は嬉しそうに笑う。


 20時頃、玖音はシャワーを浴びていた。

「三国も一緒に入れば早いのに。まあ、ここ狭いから無理か。」
そんな事を考えながら、体を洗う。

「髪洗うの面倒臭いな……近々、髪を切ろう。」
玖音は心に誓った。

 バスルームから出て、三国と入れ替わる。浴衣を着て、ドライヤーで髪を乾かしながら、ニュースを見る。

「すみません、服を取ってもらえますか?」
三国がバスルームから全裸で出てくる。玖音が三国の下着と浴衣を渡すと、三国はそれを着た。


 歯を磨き終わると、時計は22時を指していた。

「三国、浴衣の帯が崩れてるよ。」
「上手く出来ないんですよ、これ。」
トイレから出てきた三国の浴衣は崩れきっていた。

「直してあげるから、おいで。」
ベッドに座る玖音が、両手を広げる。三国は玖音の膝の上に乗った。

「直す気あります?」
三国の崩れた浴衣の隙間から、玖音の手が侵入する。

「こう……浴衣を乱してくのもいいよね。」
玖音は三国をぎゅっと抱き締めると、耳元で囁く。

「していい?」
三国は玖音の膝の上から、体を捻って唇を交わす。

「んっ……」
玖音は三国に口を付けたまま、ベッドに押し倒す。姿勢を安定させると、玖音は三国の口に舌を入れる。口の中でお互いの唾液を混ぜると、ゆっくりと唇を離す。

「玖音さん……」
トロンとした目の三国の口に玖音は指を一本吸わせる。ざらざらとして肉厚な舌先が玖音の指に絡む。ちゅぱちゅぱと音を立てて、指が吸われる。

「三国は何してもそそるねぇ。」
三国の口から指を引き抜くと、自身の口に入れて舐めとる。そして、人差し指と中指に唾液を付ける。三国の下着を剥いで、その指を肛門に押し込む。そこで玖音の手が止まる。

「……準備してきたの?」
三国は顔を逸らし、真っ赤な顔を申し訳程度に腕で隠し、コクりと頷いた。玖音は三国の中にある塊を撫でるように刺激する。

「んっ!」
「自分で準備してきたんだねぇ……。かわいいねぇ……」
玖音は三国の中を一定の間隔で刺激する。手の甲で口を塞いでいる三国の目には涙が溜まっていた。

「そんなに我慢しなくてもいいのに。まあ、すぐにその手を退けて見せるよ。」
玖音は三国の中への刺激をだんだんと速める。三国の腕がだんだんと上に上がっていく。

「あっ、あっ、玖音しゃん……!ね、もう、ダメ……」
三国は潤んだ瞳で口をぱくぱくさせる。少しずつ腰が上がって行くのを玖音は腕で押さえつける。

「ん?まだダメじゃないでしょ?まだまだこれから……ね?」
玖音は指を引き抜くと、はだけた浴衣から現れた三国の乳首に軽く噛みつく。

「ひっ!あっ……」
玖音は三国の乳首を舌先で弾いたり、吸ったり。その度に三国から小さな悲鳴が漏れる。

「……吸われる方が好きです……。」
三国が恥ずかしがりながら小さな声で呟くと、玖音は乳首を執拗に吸う。

「んっ、あっ、あっ……ねえ、もう、挿れて?あっ、もう、ダメ……出ちゃう……」
三国は浅く熱い呼吸で、腰をもじもじさせながら、玖音に懇願する。

「いいよ。」
ごくりと唾を飲んで玖音は答える。余裕そうな表情とは裏腹に、先走りが玖音の下着に染みを作っていた。玖音はベッドサイドから、慣れた手つきでゴムを取り出す。

「別にそんなの無くてもいいんですよ?」
「三国の体に無理はさせられない。」
奥歯を噛み締めたかのような表情で玖音は答える。

「今日くらいどうです?……ねぇ?」
三国は体を起こし、玖音に密着する。玖音は無表情になり、ゴムを置いて三国を押し倒す。

「そんなに煽らないでくれる?」
玖音は自身のモノを三国の中に直接入れる。

「ふふっ、玖音さん。中にいますねぇ。」
どろどろに溶けたような顔の三国が、下腹部をさする。

「この髪も綺麗です……」
三国は玖音の首に手を回すと、玖音の髪がはらはらと三国の顔に落ちる。

「ねぇ、もう止まらないと思うけどいい?」
無表情の玖音が三国に尋ねる。三国はゆっくりと頷く。すると、玖音は堰を切ったかのように腰を激しく動かす。

「あっ、はっ……なか、すご……く、擦れて……」
三国はだんだん、体を反っていく。ぐっと中が締まると、玖音は熱い息を吐く。

「あっ、も、ダメ!出る、出ちゃいます!ねぇ、くおん……さん!」
三国は慌てて自分の竿を触ろうとすると、玖音の手で弾かれた。

「むり、むり、ムリですって!」
泣き叫ぶ三国の膨らみきったモノを玖音の手が優しく包む。

「あっ、もう、でる!」
三国のモノから勢い良く、粘つく液が放たれると、それは玖音の浴衣にしっかりと跡を残した。一方の玖音はゆっくりと動きを止める。

「はぁ……はぁ……なんか……出てる……。変な感じ……」
玖音は目を瞑ったまま、短く浅い呼吸を繰り返す。

「僕の中、玖音さんのでいっぱいなんですね……?」
三国がぐったりと笑うと、玖音は三国に軽く口付けた。

「三国、愛してる。もう、どうしてこんなに誘惑してくるかなぁ?」
「玖音さんが好きだから……です。」
二人は再び唇を重ねた。


 後処理を済ますと、三国の横になっているベッドに玖音が入り込む。

「お腹痛くない?大丈夫?」
玖音が三国の髪を撫でながら、問い掛ける。

「大丈夫ですよ。ちょっとまだ、ドロドロした感触が残ってるだけで……」
「三国はもっと自分を大切にしてよ。まあ、中に出した僕が悪いけど。」
「一回、されてみたかったんですよ。どうせ、玖音さんは何回もしてるでしょうけど……」
三国は玖音に背を向けた。玖音は三国を後ろから抱き締める。

「中に出したのは三国だけだよ。」
「手練れって聞きましたけど。」
「誰から?」
「えっと……『神事部』の人……」
「へぇ、明日にでもそいつの舌を切って来ようかな?」
玖音は三国を抱く腕に力を込める。

「そんなことしないでください……。玖音さんも怒るんですね……」
「三国に信じて貰えなくて悲しい。僕は三国一筋なのに。」
三国はくるっと回って、玖音の方へ向き、抱き締め返す。

「そんなこと知ってますよ。僕は玖音さんを信じてますから。」
三国が優しく玖音の髪を梳かすと、玖音は優しい表情に戻った。

「うん。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
二人は抱き締め合ったまま、目蓋を閉じた。

 結局、三国の一言によって玖音は髪を切る決心を失くした。
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