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月神ミツルヅキ
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ココウは煌びやかで明るい屋敷に目を回した。壁掛けの篝火は特別な火のようで、屋敷が燃えるようなことはなかった。
ミツルヅキの寝所に通されたとき、今度こそ驚き尽くして倒れるかと思った。
(あの使者がいる――あの方こそ、ミツルヅキ神だったんだ!)
女人に、ミツルヅキに会えるか尋ねたときのあの笑いは「すでに会っているだろう」という笑いだったのだ。
ミツルヅキはあの日と変わらず純白の着物をまとっていた。深い色をした座卓にいくつもの石を並べて指先で動かしている。
なにをしているのか皆目見当もつかず、話しかけて良いものかもわからず、ココウは襖の前で眺めることしかできなかった。
ミツルヅキが目を上げ、ココウを見た。
途端に心臓が跳ね上がり、ココウは堪らず床に伏せて頭を下げた。
「あ、あの日、ミツルヅキ様自らお越しいただいていたとも知らず……! わたくしの非礼をお許しください!」
あの日ココウのしたことは、ミツルヅキに対して「妻にしてくれ」と嘆願したようなもの。そして「あなたを満足させられる」と豪語したのと同然だった。
「それから、あの日口にしたことはお忘れいただきたく……」
顔を真っ赤にしてしどろもどろに言葉を綴るココウに、ミツルヅキは静かに頷いた。
「こちらへ」
初めて聞いた声は想像通り落ち着いていて、想像していたより低かった。
いや、どこか聞き覚えのある声だ。しかし、今のココウはそのことを深く考える余裕がなかった。自身の姿を思うと居た堪れない。胸の前で襟を合わせて着る白い上衣に、歩けばひらりと裾の広がる薄紅色の下穿き。腰に赤い帯と珠の飾りを巻きつけ、髪の上半分を結い上げてそこに花飾りを挿し、髪の下半分は背中へと垂らしていた。
ミツルヅキのそばに行くと、彼は立ち上がって手を差し出してきた。その手に自身の手をおずおずと重ねれば柔らかく包まれ、座るべき場所へと誘導される。
ミツルヅキの隣に膝を折り畳んで座ると、すっと伸びてきた手に髪飾りを取られた。
「なぜこのような姿を?」
「この衣に着替えるよう言われました」
ミツルヅキは平静とした表情をそのままに、怪訝そうに小首を傾げた。
ココウは口の中で言葉を転がし、苦々しく思いながら吐き出した。
「妻になるのだから、と」
ミツルヅキはわずかに目を丸めた。しかしすぐに感情を鎮め、納得したかのように瞼を伏せた。
「男物の衣を用意させよう」
「ありがとうございます」
ふたりの会話が終わると、空気を読んだように襖が開かれ、盆を持った女人が現れた。盆に乗った白磁の瓶と盃を見て、またあの汁を呑まされるのだと察した。
ミツルヅキは盆を座卓に置いて退室しようとする女人を呼び止め、男物の着物を用意するよう伝えた。女人は一礼して応え、やはり無言で出て行った。続けてミツルヅキは盃をそれぞれの前に置き、ココウをそっと見つめる。
「注いでくれるか」
人間が神に奉仕するのは当然のこと。
ココウは微笑して瓶を持ち頷いた。
「はい、もちろんです」
とくとくとく、と注がれる白い汁。
ミツルヅキはそれを一口で飲み下した。
「そなたも呑むといい」
「は、はぁ……承知致しました」
ココウはミツルヅキに言われた通り自分の盃にも汁を注ぎ、瓶を置く間際にミツルヅキの顔色をちらりと窺った。
ミツルヅキはそれに気付き、目だけで「なんだ」と問いかけてくる。
「その……お具合はどうですか」
「どう、とは」
「わたくしはそれを呑むと身体が熱くなって、頭がぼんやりするのです。それにすぐ眠くなります。わたくしだけでしょうか」
「酒に酔うのだろう」
「さけ……、これは酒と言うのですね」
ココウは空いた盃に酒を注ぎ、白い水面を興味深く眺めた。
すると、それまで感情の波を立てなかったミツルヅキの顔に淡い笑みが浮かんだ。
「酒は嫌いか?」
ハッと我に返って視線をミツルヅキに戻したココウは、主の穏やかな表情に一瞬目を奪われた。なぜだか顔が熱くなり狼狽してしまう。
「いいえ! ただ、これを呑んでしまうと」
ミツルヅキ様のお世話をできないと言いかけ、飲み込んだ。酒に酔うことが務めを果たせない言い訳にはならないと思ったのだ。
ココウは頭を振り、ぐっと盃をあおった。
酒が喉を滑り落ち、それを追うように喉が熱くなる。いつもの酒より熱い。まるで火に炙られているようだ。目をギュッと閉じて耐え、静かに盃を置く。
「美味しいですね」
無理をして平気なふりをするが、ミツルヅキは目の奥で笑うだけで何も言わなかった。
廊下と違って灯りが少ない、静かな部屋だ。
ミツルヅキは言葉を多く交わさないため、ココウはなんとも気まずい思いをしながら過ごしていた。
酒瓶がひとつ空く頃、ココウは瞼を閉じかけていた。完全に酔いがまわり、静けさも相まって眠くなっている。
「眠いのなら横になりなさい」
「ふあ……? あ、はぃ……」
寝所に呼ばれたときから、ふたつ並んだ寝床は見えていたため、ココウは意識せずとも向かう場所を理解していた。にも関わらずだ、立ち上がろうとしたときにフラつき、かくんと膝を折るはめになった。「いけない、立て直さなければ」と神経を尖らせるも、既に身体が言うことを聞かない。
「あっ」
ココウは伸びて来た両腕に迎えられるかたちで、ミツルヅキの膝元に尻をついた。そのまま温かな胸に頭を打ちつける。
(ああ、あの香りだ。それに温かい……なんと心地良い)
大変な無礼を働いているとは思いつつも、酒に酔った頭では、いくらも理性が利かない。
「申し訳ございません……すぐに、はなれ……」
振り仰いだ先にある顔に見惚れ、声が消えていく。冷艶清美とした見目でありながら、武神としての精悍さも漂っている。肩を抱く両手もがっしりとしており、剣を握る者の手だとわかる。
(この方の戦う姿を見てみたい。戦う姿もさぞ美しいことだろうな)
ミツルヅキはふっと目をそらし、膝を立てるとココウの身体を横抱きにして立ち上がった。
この行動にはさすがに目が覚める思いがして、ココウは唇を震わせた。
「そんな、自分の足で立てます……!」
「じっとしていなさい」
短く言い諭され、口を噤むほかなかった。
身体を下された白い寝床は驚くほど柔らかかった。ひんやりとした布が熱を持った全身を冷やしていく。
ミツルヅキは何かに気付くように顔を上げ、襖の方に歩いて行った。襖を開け、伸びてきた両手から着物を受け取って戻ってくる。
「着替えを」
「は、はい」
身体を起こして帯紐を解こうとするが、酔っているせいか指に力が入らない。それにきつく結び過ぎたようだ。ミツルヅキに見られているせいで気持ちが焦る。
「外れないのか」
「はは……固く結んでしまったようです」
「私がやろう」
「なっ、はっ? そこまでしていただくわけには」
「妻の介抱は夫の役目だ」
(そんなの聞いたことないけど……)
強く言われたわけでも、威圧されたわけでもないのに、それ以上の抵抗は憚られた。
妻という響きに複雑な気分になる。子を成す必要もなければ、家を守り子を育てる必要もない。ならば、自分の役目とはなんなのだろうか。
(あの女人は確か、慰みに男を選ぶと言っていたような……。まさか、そういう行為をするのか? だがしかし、どこを使うんだ? せいぜい手で慰めるくらいで)
「身構えられては解けない」
「えっ、あ、申し訳ございません……」
ココウはたじろぎながらも両手を後ろにつき、ミツルヅキが帯を解いてくれるのを見守った。
あれほど固かった結び目はあっけなくほどけ、自分の非力さに羞恥心が込み上げてくる。
「ありがとうございます。あとは自分で」
ミツルヅキは目で返事をして静かに手を引いた。
(なぜじっと見てくるのだろう。心配してくださっているだけだと思いたいが……男同士なのだから、なにも気にする必要はないか)
自分に言い聞かせるが、穿き物に手をかけた瞬間だけは脱ぐのを躊躇った。脱げば大事な部分を神に見せることになる。
「あの、すこし失礼致します」
神に尻と足を向けるという不敬を働いてしまうが、あれを見せるより良いだろう。
背を向けて膝立ちになり、ミツルヅキが怒らないことを確認して穿き物を下ろした。上衣の裾に隠れて尻は隠せている。ここまでは良い。さて、ここからだ。ミツルヅキに裸体を見せずに、いかにして着替えるか。考えに考え、用意してもらった着物を広げて肩がけにし、その中で着ている衣を脱ごうとした。だが、衣を肩がけにした途端にそれを持ち上げられた。
「これは、そのように着るものではない」
(存じておりますっ!)
「やはり酔っておるな」
「ち、ちがっ――」
二枚の衣を取り上げられ、ココウは堪らず座り込み、腕で身体を隠して丸くなった。見た目だけでなく、ますます女の態度のようで嫌だと思ったが、神に見苦しいものを晒すわけにはいかない。
(早く着なければ!)
そうは思うものの、肝心な衣はミツルヅキが持っている。
ココウは目の端まで赤くして頭を巡らせた。
「申し訳ございません……あの、着物を」
ミツルヅキはやはり目だけで頷き、着物をそっとココウの肩に掛け、袖を広げて腕を通しやすくした。
ココウは素早く腕を通し、片方の袖で前を隠す。
「良き身体をしている」
「え……!?」
「戦いに長けているように見えるが」
「狩りをしておりました。一日中走り回って獲物を見つけ、弓で射て」
ココウが動揺から目を瞬いているうちに、ミツルヅキが前に回ってきて襟を合わせた。
「弓の腕に自信は?」
「ございます。村で一番だと言われてきました」
「そうか。……腕を上げなさい」
「やっ、あの、ですが……あなた様にみ、見苦しいものをお見せすることに」
「構わない」
「ええっ?!」
「構わない。このままでは正しく着せることができない。腕を上げなさい」
「う……っ……」
仕方なく腕を上げると、着物を整えられ、衣の隙間からココウの素肌や陽物が見え隠れする。ミツルヅキの指が肌をかすめるたび、身体に緊張が走った。
「帯は苦しくないか」
「はい」
「ならばもう寝なさい」
結局、最後までミツルヅキに甲斐甲斐しく世話を焼かれ、促されるまま寝床に入った。
(な、なにもされなかった……。それよりも、主に世話をしてもらうなど、なんて情けない! 次こそ俺がお世話させていただこう)
ミツルヅキの寝所に通されたとき、今度こそ驚き尽くして倒れるかと思った。
(あの使者がいる――あの方こそ、ミツルヅキ神だったんだ!)
女人に、ミツルヅキに会えるか尋ねたときのあの笑いは「すでに会っているだろう」という笑いだったのだ。
ミツルヅキはあの日と変わらず純白の着物をまとっていた。深い色をした座卓にいくつもの石を並べて指先で動かしている。
なにをしているのか皆目見当もつかず、話しかけて良いものかもわからず、ココウは襖の前で眺めることしかできなかった。
ミツルヅキが目を上げ、ココウを見た。
途端に心臓が跳ね上がり、ココウは堪らず床に伏せて頭を下げた。
「あ、あの日、ミツルヅキ様自らお越しいただいていたとも知らず……! わたくしの非礼をお許しください!」
あの日ココウのしたことは、ミツルヅキに対して「妻にしてくれ」と嘆願したようなもの。そして「あなたを満足させられる」と豪語したのと同然だった。
「それから、あの日口にしたことはお忘れいただきたく……」
顔を真っ赤にしてしどろもどろに言葉を綴るココウに、ミツルヅキは静かに頷いた。
「こちらへ」
初めて聞いた声は想像通り落ち着いていて、想像していたより低かった。
いや、どこか聞き覚えのある声だ。しかし、今のココウはそのことを深く考える余裕がなかった。自身の姿を思うと居た堪れない。胸の前で襟を合わせて着る白い上衣に、歩けばひらりと裾の広がる薄紅色の下穿き。腰に赤い帯と珠の飾りを巻きつけ、髪の上半分を結い上げてそこに花飾りを挿し、髪の下半分は背中へと垂らしていた。
ミツルヅキのそばに行くと、彼は立ち上がって手を差し出してきた。その手に自身の手をおずおずと重ねれば柔らかく包まれ、座るべき場所へと誘導される。
ミツルヅキの隣に膝を折り畳んで座ると、すっと伸びてきた手に髪飾りを取られた。
「なぜこのような姿を?」
「この衣に着替えるよう言われました」
ミツルヅキは平静とした表情をそのままに、怪訝そうに小首を傾げた。
ココウは口の中で言葉を転がし、苦々しく思いながら吐き出した。
「妻になるのだから、と」
ミツルヅキはわずかに目を丸めた。しかしすぐに感情を鎮め、納得したかのように瞼を伏せた。
「男物の衣を用意させよう」
「ありがとうございます」
ふたりの会話が終わると、空気を読んだように襖が開かれ、盆を持った女人が現れた。盆に乗った白磁の瓶と盃を見て、またあの汁を呑まされるのだと察した。
ミツルヅキは盆を座卓に置いて退室しようとする女人を呼び止め、男物の着物を用意するよう伝えた。女人は一礼して応え、やはり無言で出て行った。続けてミツルヅキは盃をそれぞれの前に置き、ココウをそっと見つめる。
「注いでくれるか」
人間が神に奉仕するのは当然のこと。
ココウは微笑して瓶を持ち頷いた。
「はい、もちろんです」
とくとくとく、と注がれる白い汁。
ミツルヅキはそれを一口で飲み下した。
「そなたも呑むといい」
「は、はぁ……承知致しました」
ココウはミツルヅキに言われた通り自分の盃にも汁を注ぎ、瓶を置く間際にミツルヅキの顔色をちらりと窺った。
ミツルヅキはそれに気付き、目だけで「なんだ」と問いかけてくる。
「その……お具合はどうですか」
「どう、とは」
「わたくしはそれを呑むと身体が熱くなって、頭がぼんやりするのです。それにすぐ眠くなります。わたくしだけでしょうか」
「酒に酔うのだろう」
「さけ……、これは酒と言うのですね」
ココウは空いた盃に酒を注ぎ、白い水面を興味深く眺めた。
すると、それまで感情の波を立てなかったミツルヅキの顔に淡い笑みが浮かんだ。
「酒は嫌いか?」
ハッと我に返って視線をミツルヅキに戻したココウは、主の穏やかな表情に一瞬目を奪われた。なぜだか顔が熱くなり狼狽してしまう。
「いいえ! ただ、これを呑んでしまうと」
ミツルヅキ様のお世話をできないと言いかけ、飲み込んだ。酒に酔うことが務めを果たせない言い訳にはならないと思ったのだ。
ココウは頭を振り、ぐっと盃をあおった。
酒が喉を滑り落ち、それを追うように喉が熱くなる。いつもの酒より熱い。まるで火に炙られているようだ。目をギュッと閉じて耐え、静かに盃を置く。
「美味しいですね」
無理をして平気なふりをするが、ミツルヅキは目の奥で笑うだけで何も言わなかった。
廊下と違って灯りが少ない、静かな部屋だ。
ミツルヅキは言葉を多く交わさないため、ココウはなんとも気まずい思いをしながら過ごしていた。
酒瓶がひとつ空く頃、ココウは瞼を閉じかけていた。完全に酔いがまわり、静けさも相まって眠くなっている。
「眠いのなら横になりなさい」
「ふあ……? あ、はぃ……」
寝所に呼ばれたときから、ふたつ並んだ寝床は見えていたため、ココウは意識せずとも向かう場所を理解していた。にも関わらずだ、立ち上がろうとしたときにフラつき、かくんと膝を折るはめになった。「いけない、立て直さなければ」と神経を尖らせるも、既に身体が言うことを聞かない。
「あっ」
ココウは伸びて来た両腕に迎えられるかたちで、ミツルヅキの膝元に尻をついた。そのまま温かな胸に頭を打ちつける。
(ああ、あの香りだ。それに温かい……なんと心地良い)
大変な無礼を働いているとは思いつつも、酒に酔った頭では、いくらも理性が利かない。
「申し訳ございません……すぐに、はなれ……」
振り仰いだ先にある顔に見惚れ、声が消えていく。冷艶清美とした見目でありながら、武神としての精悍さも漂っている。肩を抱く両手もがっしりとしており、剣を握る者の手だとわかる。
(この方の戦う姿を見てみたい。戦う姿もさぞ美しいことだろうな)
ミツルヅキはふっと目をそらし、膝を立てるとココウの身体を横抱きにして立ち上がった。
この行動にはさすがに目が覚める思いがして、ココウは唇を震わせた。
「そんな、自分の足で立てます……!」
「じっとしていなさい」
短く言い諭され、口を噤むほかなかった。
身体を下された白い寝床は驚くほど柔らかかった。ひんやりとした布が熱を持った全身を冷やしていく。
ミツルヅキは何かに気付くように顔を上げ、襖の方に歩いて行った。襖を開け、伸びてきた両手から着物を受け取って戻ってくる。
「着替えを」
「は、はい」
身体を起こして帯紐を解こうとするが、酔っているせいか指に力が入らない。それにきつく結び過ぎたようだ。ミツルヅキに見られているせいで気持ちが焦る。
「外れないのか」
「はは……固く結んでしまったようです」
「私がやろう」
「なっ、はっ? そこまでしていただくわけには」
「妻の介抱は夫の役目だ」
(そんなの聞いたことないけど……)
強く言われたわけでも、威圧されたわけでもないのに、それ以上の抵抗は憚られた。
妻という響きに複雑な気分になる。子を成す必要もなければ、家を守り子を育てる必要もない。ならば、自分の役目とはなんなのだろうか。
(あの女人は確か、慰みに男を選ぶと言っていたような……。まさか、そういう行為をするのか? だがしかし、どこを使うんだ? せいぜい手で慰めるくらいで)
「身構えられては解けない」
「えっ、あ、申し訳ございません……」
ココウはたじろぎながらも両手を後ろにつき、ミツルヅキが帯を解いてくれるのを見守った。
あれほど固かった結び目はあっけなくほどけ、自分の非力さに羞恥心が込み上げてくる。
「ありがとうございます。あとは自分で」
ミツルヅキは目で返事をして静かに手を引いた。
(なぜじっと見てくるのだろう。心配してくださっているだけだと思いたいが……男同士なのだから、なにも気にする必要はないか)
自分に言い聞かせるが、穿き物に手をかけた瞬間だけは脱ぐのを躊躇った。脱げば大事な部分を神に見せることになる。
「あの、すこし失礼致します」
神に尻と足を向けるという不敬を働いてしまうが、あれを見せるより良いだろう。
背を向けて膝立ちになり、ミツルヅキが怒らないことを確認して穿き物を下ろした。上衣の裾に隠れて尻は隠せている。ここまでは良い。さて、ここからだ。ミツルヅキに裸体を見せずに、いかにして着替えるか。考えに考え、用意してもらった着物を広げて肩がけにし、その中で着ている衣を脱ごうとした。だが、衣を肩がけにした途端にそれを持ち上げられた。
「これは、そのように着るものではない」
(存じておりますっ!)
「やはり酔っておるな」
「ち、ちがっ――」
二枚の衣を取り上げられ、ココウは堪らず座り込み、腕で身体を隠して丸くなった。見た目だけでなく、ますます女の態度のようで嫌だと思ったが、神に見苦しいものを晒すわけにはいかない。
(早く着なければ!)
そうは思うものの、肝心な衣はミツルヅキが持っている。
ココウは目の端まで赤くして頭を巡らせた。
「申し訳ございません……あの、着物を」
ミツルヅキはやはり目だけで頷き、着物をそっとココウの肩に掛け、袖を広げて腕を通しやすくした。
ココウは素早く腕を通し、片方の袖で前を隠す。
「良き身体をしている」
「え……!?」
「戦いに長けているように見えるが」
「狩りをしておりました。一日中走り回って獲物を見つけ、弓で射て」
ココウが動揺から目を瞬いているうちに、ミツルヅキが前に回ってきて襟を合わせた。
「弓の腕に自信は?」
「ございます。村で一番だと言われてきました」
「そうか。……腕を上げなさい」
「やっ、あの、ですが……あなた様にみ、見苦しいものをお見せすることに」
「構わない」
「ええっ?!」
「構わない。このままでは正しく着せることができない。腕を上げなさい」
「う……っ……」
仕方なく腕を上げると、着物を整えられ、衣の隙間からココウの素肌や陽物が見え隠れする。ミツルヅキの指が肌をかすめるたび、身体に緊張が走った。
「帯は苦しくないか」
「はい」
「ならばもう寝なさい」
結局、最後までミツルヅキに甲斐甲斐しく世話を焼かれ、促されるまま寝床に入った。
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