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ダルい女と場違いな男
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――八月三日。深夜一時のこと。
(あー、マジでダリィ……)
連日連夜、目の前で繰り広げられる乱交パーティ。
一流大企業『羽山不動産』のボンボン坊ちゃんこと、羽山光司(二十歳)の坊やは、今日も今日とてオトモダチを大豪邸に呼び、酒にタバコにセックスに、と遊びまくっていた。
クーラーがガンガンに効いた室内で、男も女も全裸で過ごしている。
そんな所で、私はなにをしているかって?
「立木さん! ビール取って!」
――パシリ。あと、乱交会場の清掃。
氷がきっしり詰まったクーラーボックスから、瓶ビールを二本取り出し、栓を抜いて羽山光司の元へ行く。
もちろん、私は全裸じゃない。安い黒ジャージに、三百円で買った無地の赤エプロンをつけている。
「あんっ、もう、抜いてよ~。私もビール飲むぅ」
「分かった、分かった。待ってろ」
羽山光司はビール瓶をあおると、そのまま女に口移しで飲ませた。女は顔をしかめながらも、羽山光司の首に腕を回して腰をくねらせた。
(うわ、不味そ)
私が住むワンルームの三倍はあろうかというこの部屋で、ほぼ毎日、乱交パーティが行われていた。
時には屋内プールで、時には庭で、飽きもせずヤりまくっている。
親である羽山夫妻が終日不在の時に、決まって乱交パーティが開かれる。パーティ開催日に私は家事代行として呼ばれ、何事もなかったかのように部屋を綺麗な状態に戻さなければならないのだ。
拘束時間は、深夜十二時から三時まで。期間は、羽山光司が通う大学の夏休み期間中。
約一ヶ月の勤務で、三十万円が貰える。しかも、自宅から羽山邸までタクシーの送迎付き。
ただし、乱交パーティのことを口外すれば、私は羽山家によって社会的に抹殺されるが。
つまり口止め料込みの給料だった。
なんでこんな仕事をしているかと言うと、金が必要だったから。
いつも通う居酒屋の常連客に、家事代行サービスの会社を営む社長がいて、効率よく短期間で金を稼ぎたいことを話したら――。
『うちのお得意からの依頼で断れなくて。割は良いんだけど、内容が内容なだけに表に出せなくってさ。梢ちゃん、困ってるならやってみない?』
と、言われ、よく考えもせず引き受けたのだ。
仕事を始めて今日で一週間くらいだろうか。
何度か乱交に誘われたが、すべて丁重にお断りをしている。一度、一人の男からしつこく絡まれたことがあったが、柔道の寝技をかけて締め落とした。
それからは、声がかからなくなった。いや、パシリに使いたい時は声がかかる。
「お兄さ~ん、そろそろエッチしたくなってきたんじゃな~い? 向こうで私としようよ~」
「結構だ」
定位置に戻った私とは反対側、部屋の隅で待機している男性に、全裸の女の子が絡んだ。
女の子はずいぶん酔っ払っているようだった。
女の子が笑うたびに長い黒髪がサラサラと揺れ、日サロで焼いた肌はローションプレイでテカテカと輝いていた。
男性はシルバーフレームの眼鏡をかけ、白い半袖シャツにスーツのズボンを着用している。涼しげな目元と、いかにも真面目そうな顔つき。整った顔立ちをしているので、眼鏡を外せばもっと良い男になるはずだ。
乙津陽道、三十歳は羽山家の執事――ではなく、その執事の弟さんとのこと。
羽山家に乙津父アンド兄が執事として働いており、兄の方が、昨日の夜から自分の奥さんの出産に立ち会うために不在にしていた。乙津父はギックリ腰で自宅療養中とのこと。
そこで、代わりに現れたのが弟さんだった。
昨日はこの光景に、始終しかめ面をしていたが、今日は無表情というか、冷ややかな眼差しを向けている。まぁ、余裕が出てきた証拠だろう。
乙津さんから視線を外して、流れっぱなしのアダルトビデオを眺める。今日は、若い人妻が、夫の部下から迫られて快楽に屈服していた。
(そんなに気持ち良いものなのかね、セックスってやつは。ま、考えてもムダムダ。不感症の私には一生分かんねーって。にしても、暇だ)
空の瓶ビールを回収して、裏面の成分表を読んでしまう程度には暇だ。
「立木さん」
「ん? あ、はい。どうされました」
三つも年下の私に彼は敬語を使ってくれる。タメ口きいてくる羽山光司とは大違い。
「産まれたようです。女の子だそうです」
「連絡来たんですね。おめでとうございます」
「兄に代わり、ありがとうございます」
きっちりかっちり。
律儀に教えてくれて、頭まで下げてくる。
「じゃあ、今日で執事代行は終わるんですね」
「はい。二日間、お世話になりました」
「こちらこそ。お世話になりました」
それから、盆休みにさしかかった頃に、私は乙津さんと再会した。この、乱交パーティ部屋で。
「乙津さん、なんでまたここに」
喘ぎ声やベッドの軋む音が飛び交う中、私は乙津さんの耳元で問いかけた。
「産まれたばかりの子供と過ごせないのは気の毒で。一週間、夜間だけ執事代行を引き受けたんです。産後の奥さんのサポートも必要でしょうし」
「でも、お仕事に影響でませんか?」
どんな仕事をしているかは知らないが、おそらく昼職だろう。
「土日祝日と盆休みを合わせて、ちょうど一週間の休暇があるんです。なので、ご心配には及びません」
一流企業にでも勤めているのだろうか。
きっと給料も良いに違いない。羨ましい。
「そうでしたか。あ、あー、じゃあまた一週間、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
(あー、マジでダリィ……)
連日連夜、目の前で繰り広げられる乱交パーティ。
一流大企業『羽山不動産』のボンボン坊ちゃんこと、羽山光司(二十歳)の坊やは、今日も今日とてオトモダチを大豪邸に呼び、酒にタバコにセックスに、と遊びまくっていた。
クーラーがガンガンに効いた室内で、男も女も全裸で過ごしている。
そんな所で、私はなにをしているかって?
「立木さん! ビール取って!」
――パシリ。あと、乱交会場の清掃。
氷がきっしり詰まったクーラーボックスから、瓶ビールを二本取り出し、栓を抜いて羽山光司の元へ行く。
もちろん、私は全裸じゃない。安い黒ジャージに、三百円で買った無地の赤エプロンをつけている。
「あんっ、もう、抜いてよ~。私もビール飲むぅ」
「分かった、分かった。待ってろ」
羽山光司はビール瓶をあおると、そのまま女に口移しで飲ませた。女は顔をしかめながらも、羽山光司の首に腕を回して腰をくねらせた。
(うわ、不味そ)
私が住むワンルームの三倍はあろうかというこの部屋で、ほぼ毎日、乱交パーティが行われていた。
時には屋内プールで、時には庭で、飽きもせずヤりまくっている。
親である羽山夫妻が終日不在の時に、決まって乱交パーティが開かれる。パーティ開催日に私は家事代行として呼ばれ、何事もなかったかのように部屋を綺麗な状態に戻さなければならないのだ。
拘束時間は、深夜十二時から三時まで。期間は、羽山光司が通う大学の夏休み期間中。
約一ヶ月の勤務で、三十万円が貰える。しかも、自宅から羽山邸までタクシーの送迎付き。
ただし、乱交パーティのことを口外すれば、私は羽山家によって社会的に抹殺されるが。
つまり口止め料込みの給料だった。
なんでこんな仕事をしているかと言うと、金が必要だったから。
いつも通う居酒屋の常連客に、家事代行サービスの会社を営む社長がいて、効率よく短期間で金を稼ぎたいことを話したら――。
『うちのお得意からの依頼で断れなくて。割は良いんだけど、内容が内容なだけに表に出せなくってさ。梢ちゃん、困ってるならやってみない?』
と、言われ、よく考えもせず引き受けたのだ。
仕事を始めて今日で一週間くらいだろうか。
何度か乱交に誘われたが、すべて丁重にお断りをしている。一度、一人の男からしつこく絡まれたことがあったが、柔道の寝技をかけて締め落とした。
それからは、声がかからなくなった。いや、パシリに使いたい時は声がかかる。
「お兄さ~ん、そろそろエッチしたくなってきたんじゃな~い? 向こうで私としようよ~」
「結構だ」
定位置に戻った私とは反対側、部屋の隅で待機している男性に、全裸の女の子が絡んだ。
女の子はずいぶん酔っ払っているようだった。
女の子が笑うたびに長い黒髪がサラサラと揺れ、日サロで焼いた肌はローションプレイでテカテカと輝いていた。
男性はシルバーフレームの眼鏡をかけ、白い半袖シャツにスーツのズボンを着用している。涼しげな目元と、いかにも真面目そうな顔つき。整った顔立ちをしているので、眼鏡を外せばもっと良い男になるはずだ。
乙津陽道、三十歳は羽山家の執事――ではなく、その執事の弟さんとのこと。
羽山家に乙津父アンド兄が執事として働いており、兄の方が、昨日の夜から自分の奥さんの出産に立ち会うために不在にしていた。乙津父はギックリ腰で自宅療養中とのこと。
そこで、代わりに現れたのが弟さんだった。
昨日はこの光景に、始終しかめ面をしていたが、今日は無表情というか、冷ややかな眼差しを向けている。まぁ、余裕が出てきた証拠だろう。
乙津さんから視線を外して、流れっぱなしのアダルトビデオを眺める。今日は、若い人妻が、夫の部下から迫られて快楽に屈服していた。
(そんなに気持ち良いものなのかね、セックスってやつは。ま、考えてもムダムダ。不感症の私には一生分かんねーって。にしても、暇だ)
空の瓶ビールを回収して、裏面の成分表を読んでしまう程度には暇だ。
「立木さん」
「ん? あ、はい。どうされました」
三つも年下の私に彼は敬語を使ってくれる。タメ口きいてくる羽山光司とは大違い。
「産まれたようです。女の子だそうです」
「連絡来たんですね。おめでとうございます」
「兄に代わり、ありがとうございます」
きっちりかっちり。
律儀に教えてくれて、頭まで下げてくる。
「じゃあ、今日で執事代行は終わるんですね」
「はい。二日間、お世話になりました」
「こちらこそ。お世話になりました」
それから、盆休みにさしかかった頃に、私は乙津さんと再会した。この、乱交パーティ部屋で。
「乙津さん、なんでまたここに」
喘ぎ声やベッドの軋む音が飛び交う中、私は乙津さんの耳元で問いかけた。
「産まれたばかりの子供と過ごせないのは気の毒で。一週間、夜間だけ執事代行を引き受けたんです。産後の奥さんのサポートも必要でしょうし」
「でも、お仕事に影響でませんか?」
どんな仕事をしているかは知らないが、おそらく昼職だろう。
「土日祝日と盆休みを合わせて、ちょうど一週間の休暇があるんです。なので、ご心配には及びません」
一流企業にでも勤めているのだろうか。
きっと給料も良いに違いない。羨ましい。
「そうでしたか。あ、あー、じゃあまた一週間、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
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