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戻ってきたかもしれない、この世界

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 朝のホームルーム前、そして学校。
 僕はいつもの面子のところにたむろっていた。
 教室の隅っこだけどね。


「 ────なに!? ゆさちーに会っただと!?」

 昨日の出来事を時雨からあらいざらい聞いた。そしたらこの有り様だ。すごい形相で孜と大志が時雨に迫っていた。時雨はひきぎみである。

「いや、あったけどそこまで話してないから。...それにチンピラに絡まれたから厄日だったよ...はは」
 
 迫る孜、大志に苦笑いで時雨は頬に張った湿布をさすりながら答える。
 
「きさま! それでもゆさちー親衛隊の一員か!? 厄日だと? 天赦日(てんしゃび)だよ!」

 いずれも孜はそう叫んだ。てんしゃびってなんだよ。

「ちょ、うるさい。てか、てんしゃびってなんだよ。...はぁ、ぼこぼこにされたんだぞ?」

 理不尽な孜に言い返す時雨。とまぁ、今日も今日で平和である。

「くそぅ。ずっといれば良かった」

「右に同じくっ...!」

 孜、大志の順で悔しがる。

「またいけばいいじゃん」

 僕はもっともらしい意見を述べた。 
 そうすると孜と大志は雷電にうたれたように、図星顔になって、納得していた。
 と、ここで先生が教室に入ってきた。
 
「ほらー、早く座れーホームルーム始めっぞ」

 先生はめんどくさげに注意をかける。その注意で他の生徒たちはウィ~と言った感じで席に戻り始めた。無論、僕もだ。
 僕たち生徒がみんな席に座ると、先生は教卓の前に出てきた。ホームルームの始まりだ。
 
「んじゃ、ホームルーム始めっぞ」

 先生の言葉に中央委員の相月さんが号令をかけようとした瞬間、先生がそれを遮る。

「っの前に、今日は転入生がいるからまずはそいつを紹介するわ」

 先生の言葉にざわつく教室。どうやら転入生に余程、興味があるようだ。
   
「んじゃ、入ってこい!」

 先生が教室のドアに向かって掛け声した。
 その声に反応するかのように開くドア。
 入ってくる転入生。
 その刹那。
 ざわつきは風が強くなり森がことさら大きくなる感じで、更に大きくなった。
 その理由は沢山あるだろう。まぁ、そのなかでも二つあげるとするなら。
 まず一つ。
 彼女が可愛いからだ。
 そして、二つ。
 彼女が、あのかの有名なゆさちーだからだ。

 あまりの驚きで僕は固唾をのんでしまっていた。しかし、我が友である孜をふと見てみると白目を向いてぴくぴく痙攣しながら昇天している程だ。僕の反応なんて孜をレベル100にするなら僕は1だ。それぐらい差があった。
 ま、まじかよ...あ、大志もだ。
 時雨は.....目を見開いていた。まぁ、周りと同じ反応だな。僕も含めてね。

「あ、あの。知ってる人もいるかも知れませんが川崎 遊佐(かわさき ゆさ)です。あ、普通に接してくれたら嬉しいです。気軽に話してくれるとかも嬉しいです。...よ、よろしくお願いします!」

 ペコリと彼女はお辞儀をし、未だに緊張ぎみだが爽やかな微笑みを浮かべていた。アイドルといえど彼女も高校生。どうやら馴れていない環境に心もとないようだ。
 まわりからは、

「まじかよ」
「うぉっほ、まじもんのりさちーじゃん」
「ひゃー、やっぱり可愛いな」
「あれだったらSランクいくんじゃね」
「確実にランクインだろうな」
「サイン、もらお。ぐへへへへ」

 このような雑多音をキャッチできてしまう。おいおいぐへへへへみたいな変態的笑いはやめろ! 大志! 友達として恥ずかしいわ!     

 まぁ、これはおいといて。 
 まさかアイドルがここの学校に引っ越してくるとは。人生なにがおこるか分かったもんじゃないな。
  
 刹那、彼女────りさちー、いや川崎さんと呼ぼう。川崎さんはあるやつを見て目を見開いた。
 まるで青天の霹靂レベルでだ。

「ああ! 助けてくれた人!」

 そう時雨を見て...だ。しかも、時雨に指差したし。
 いや、まぁこうなるのではないかとは察しがついていた。これがいわゆるフラグってやつか? 
 とまぁ、なにはともあれ災難である時雨よ。

 瞬く間に時雨に視線が集う。
 教室の大半の人は理解が追い付いていない状態だ。「え、なにがあったの?」みたいな顔のやつが沢山いる。

 ふぅ、だがしかしあれだなぁ。今日はなにかと騒がしい。と言うよりにぎやかしい。なんだか非日常と言うものをじかに体感した気がする。

 だがこれも、まだまだ序章に過ぎなかったのかもしれない。いや、もしかしたら序章よりまえの表紙だ。

 まだまだ騒動は終わりを見せない。

 いきなり光だす教室。何事かと思い、光ってる地面を見れば生徒全員(教師一人も含め)が、すっぽり入るようなどでかい魔方陣が出現した。

 まわりの生徒たちは皆驚きおののいていた。なにが起こっているかもわからない奴が相当いる。

「て、テロか!!?」
「はぁ、なんでテロが!?」
「キャーーー!!!」
「ちょ、暴れるなって!!!」
「なにがどうなってんの!?!?」 
「みんな冷静になれ!!」

 もうクラスは混乱状態だ。錯乱は生徒の安心を奪っていき、次第には僕にまで被害が出るほどだ。まわりから殴られたというか、錯乱状態になっている生徒の手があたった。と、言うことだ。
 それより、これはなんなんだ? なぜ魔方陣がここに? 
 何かのいたずらか? いや僕にはこれが何らかの悪ふざけには感じられなかった。キシカンとでも言うべきか。いや、僕はこの光景を実際に知っている。覚えている。
 これは、この魔方陣から感じられるものは、魔力だ。
 と、いきなり出た魔方陣からこれも唐突。光が、まばゆい程の目をつむらなけらばならぬ程の光が僕たちを包みだす。
 
 僕は激しい光に闇を望み、ひとみを閉じている。

 いつしか止む光。

 次第にだんだんとみえだす視界。

 そして、目に入ったのは、キョドっているクラスメートたちと、それに王宮の間みたいな部屋が広がっている。王座には勿論王様のような人。
 そして、僕らを囲うようにいる、白装束の人たち。

「おぉ、おぉ、やっと成功した。 勇者を、やっと召喚できたぞ!! これでこの王国にも一縷の望みがでたぞぉ!」

 誰かはわからぬが白装束の人たちの中の誰かがそう歓喜に叫んだ。

 もう、僕はあっけにとるしかない。

 そして、クラスメートたちもただ呆然としていた。

 この、目の前で起きている現象を頭で全て理解するには些か時間がいりそうだ。そんな間抜けな事をかんがえながら、未だに僕は釈然としない心持ちを抱え込んでいた。



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