リョーマ的Y2K子供文化史考

一刀星リョーマ

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第1部 アーケードカードゲーム史

戦国乱世を生き延びれなかったおとぎ話~王者セガの敗北~

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ここまで語ってきたアーケードカード栄光の歴史と王者たちの栄枯。しかし歴史の隅には王者にも届かずに戦場に散っていった敗者も多数存在する。
ムシキング・ラブ&ベリー・恐竜キングとヒットを飛ばしたパイオニアであるあのセガもこれらの作品が低迷・終了した2009年ごろからこれらにかわる新たな作品を生み出していったが、残念ながらバンダイをはじめとする他者からシェアを奪い返すことはできず、2011年ごろには一旦この業界から退くこととなる。
今回はそんなセガが2009年に生み出した2作品を分析してみよう。

まずは男児向けの「歴史大戦ゲッテンカ」。
タイトルからわかる通り、歴史、その中でも戦国武将をメインテーマにした作品だ。当時は「歴女」なる言葉が生まれるなど歴史・戦国武将ブームが巻き起こっていたさなかでの登場だった。
ただ、戦国武将となるとムシや恐竜に比べてタレントが少ないといったアーケードカードにして致命的な問題があるためか、途中から新選組やペリー、坂本龍馬などといった江戸~幕末以降の人物も登場する。
このゲームの特徴は、デフォルメされた武将たちと透明なカードを組み合わせるシステム。
本作のデッキは「キャラカード」「アイテムカード」「武器カード」の三種を組み合わせることで成立。これらのカードは透明になっており、カードを重ねることでゲーム上だけでなくカード上でもキャラが装備を装着する姿を見ることができるのだ。これは子供たちにとってはテンションが上がるだろう。
武将たちのデザインは「ビックリマン」を彷彿とさせる2頭身のコミカルなデザイン。カードのレイアウトもどことなくビックリマン風。当時の親世代にとってはどこか懐かしさを感じさせるデザイン、さらに「戦国武将」という親御さんの理解も得やすい(=歴史の勉強になるから親のほうから子供に勧めるパターンも考えうる)テーマで「親世代にも受け入れられるコンテンツ」を目指し、親子で筐体に並んでいただこうとセガが考えていたのが見て取れる。
だがゲッテンカは稼働から2年で戦場に散っていくこととなる。

ではこれだけ魅力的と思わしき要素がそろっているのになぜゲッテンカは名前負け…すなわち天下をゲットできなかったのか?理由を二つ考えてみた。
ひとつは「デフォルメが子供に受け入れられなかった」。
当時はすでに「戦国無双」や「戦国BASARA」といったリアル頭身の武将が登場するゲームが多数あった。
ターゲット層がかぶらないとはいえ、子供たちもどこかでこういったリアル頭身の武将キャラには触れている機会があるはずであり、そっちのほうがカッコイイと感じるようになってしまった可能性も考えうる。
おそらく当時の子供たちが求めていたのは「完全にデフォルメされた戦い」より「リアルな武将のド派手な戦い」だったに違いない。
ムシキングや恐竜キングがリアルキャラがド派手な必殺技をかます作品だったように、子供たちは「リアルな武将がド派手な技をかます作品」を欲してたにちがいない。

もうひとつは「メディア露出に積極的ではなかった」。
本作はムシキングや恐竜キングと同じく、コロコロコミックでタイアップが組まれるという従来の男児向けアーケードカードと同じ戦略をとったのだが、月刊コロコロでは記事やカードふろくこそ組まれたものの記事の扱いはかつてのムシキングほど目立ってるとはいえず漫画版は別冊コロコロのみの連載。アニメ化とかもされることはなく、DSソフトやグッズは発売されたがムシキングや恐竜キングに比べてメディア露出は控えめだった。
当時の月刊コロコロはメタルファイトベイブレードやイナズマイレブン、ペンギンの問題など他に人気ゲーム・ホビーが多数あったから枠がなかったというのもあるかもしれないし、ムシキングや恐竜キングはバンバン露出したのが寿命を縮めてしまった原因のひとつだろうから露出を控えめにして草の根レベルから徐々に人気を広め、人気を長期化していこうという思惑もあったのかもしれないが、そうなる前に合戦の跡の焼け野原に散ってしまった。「鳴かぬなら 鳴かせられなかったよ ホトトギス」(字余り)である。

もうひとつ分析する作品は前回チラッと触れたラブ&ベリーの実質後継機である女児向けの「リルぷりっ」。小学館との合同企画である。
キャラデザ面ではリアル調だったラブ&ベリーとは方向性を180度変えて絵柄は少女漫画調になり、主人公のデザインも大人っぽさが出たラブ&ベリーとは打って変わって頭身が低く幼いイメージに。一方でライブ時には頭身が上がるなど「変身」という定番要素も入れ込んでいる。さらに筐体もタッチパネル2画面式になり、振動機能を搭載するなど新世代の女児向けゲームを目指し様々な新機軸が取り入れられた。
キャラのモチーフは「おとぎ話」。主人公チーム3人はそれぞれ「白雪姫」「シンデレラ」「かぐや姫」がモチーフになっている。ファンタジーを演出するのにおとぎ話はわかりやすいし、誰もが知ってるから親しみやすさもある。
宣伝面でも漫画連載は学年誌の「小学一年生」ではこの年の12月の稼働開始に先立つこと9カ月以上も先の2009年4月号(2009年3月発売)に開始。さらに同じ小学館の「ぷっちぐみ」ではこれより早く2009年2月号より開始している。
稼働開始から4か月後の2010年4月にはアニメ化し、2年間放送された。1年目は単独30分番組、2年目はのりスタ内での10分作品である。
アニメではハロプロのスマイレージ(現・アンジュルム)のメンバー3人を主人公チームの声優に起用し、キャラクターとしてアーティスト活動を行うなどかつてのきらレボや同時期のめちゃモテ委員長で試みられた小学館お得意の手法でアイドルファンにもアピールした。
しかしそのアニメ放送期間中の2011年11月をもってアーケード版は稼働終了。だがアニメ2年目は打ち切られることなく予定どおり1年の放送を全うし、2012年3月に完結した。ちょうどアニメが10分に短縮したタイミングでプリリズがアニメ開始で台頭してきたのも大きなダメージになったはずだ。生き残りの厳しい女児アニメ界で2年間走り抜けたのは立派と言えるが。それでも敗北は敗北だ。

ではこれまた女児のハートをつかむ要素がいっぱいあるリルぷりっもなぜ敗北に終わってしまったのか?
ひとつ目は「いくら何でも漫画連載開始が早すぎた」
前述の通り、本作の漫画連載は稼働から実に9カ月以上も先立って開始。出版社も企画にかかわっているからこそここまで早く連載を始めることができただろうし、早めに漫画を始めてそこから人気を高めて12月にはすぐ筐体に並んでいただこうと考えていたのかもしれない。だが漫画連載されたのが幼児~小学校低学年向けの雑誌であったことを考えると、その年代の子供からしてみれば「待ちくたびれたよ」だったのかもしれない。子供は何かにハマりだすと抜け出せなくなるが、同時に興味の移り変わりも早い。男児より成長が早いと言われる女児ならなおさらだ。なかなかゲームが出ないからその間に離れてしまった子も少なからずいたに違いない。
それでも早めに宣伝するのはこの業界に限らず商売の世界では重要な事。「ゲームの発売日近くまでマンガは載せるな」とは言わないが、せめて始めるなら稼働6~3か月前ぐらいにすべきだったかと思う。宣伝を始めるタイミングも商売の世界ではとても重要だ。

ふたつ目は「女児向け業界自体が戦国時代だった」
前回触れたとおり、当時は女児向けアーケードカード界は絶対女王不在の冬の時代と言える状況であったが、アーケードカードに限らず見れば女児向けの作品は多数存在し、むしろ戦国時代と言える状況であった。
2009年~2010年の女児向け作品を振り返ってみると、プリキュアシリーズは2009年の「フレッシュプリキュア!」はバンダイの関連商品売り上げがプリキュアシリーズ当時歴代2位の119億円を達成。翌年の「ハートキャッチプリキュア!」ではさらに伸ばして2024年現在も破られていない歴代最高の125億円の売り上げを達成。女児向けチャンピオンここにありといったところだ。
リルぷりっ稼働と同年にサンリオからアニメ化されたジュエルペットも初年度の売上高は目標額を達成し、以降7年にわたって続く長期シリーズとなる。
そのほかに同時期の作品ではきらレボの実質後継作として同じちゃおからアニメ化された「極上!めちゃモテ委員長」、2004年の玩具の復活から実に5年でアニメ化(TVシリーズ)を果たした「たまごっち」、りぼんからアニメ化した「夢色パティシエール」、今や国民的女優となった福原遥の出世作・Eテレの「クッキンアイドルアイ!マイ!まいん」などがあり、なかよしの看板作品であった「しゅごキャラ!」もリルぷりっ稼働時点ではアニメ・原作ともに継続中であった。
これだけの作品がひしめき合って、それぞれの作品がかなりの人気を持っていたのだからその中で飲み込まれてしまった感は否めない。

3つ目は「早すぎた2.5次元路線」
これはゲームというかメディアミックスの問題ではあるが、上記の通り本作のアニメ版では主人公チームの声優陣にアイドルを起用し、彼女たちがキャラクター名義でアーティスト活動を行った。これは先述の通りきらレボやめちゃモテ委員長ですでに行われており、特にきらレボではCD売り上げでチャート10位以内に何度も顔を出すなど結果を残していた。
ここで特筆すべきはきらレボやめちゃモテでは演者が地毛でキャラクターを演じていたことである。きらレボのきらりはアニメでは茶髪だが、演じた久住小春は黒髪のままきらりにあわせた髪型で演じていた。めちゃモテも同様だ。こちらも主人公が茶髪だがアーティスト活動では小川真奈が黒髪で演じていた。それでも当時の子供たちはきらりや未海が現実に飛びだしたみたいで大興奮だったのだ。
一方リルぷりっはというと演者3人はアニメキャラの髪色に合わせたウィッグを着用。きらレボやめちゃモテが「声優がキャラに寄せた髪型と衣装で歌ってる」といった感じであるのに対しリルぷりっは「完全なコスプレ」であった。髪色も合わせたリルぷりっのほうが「アニメのキャラが現実世界に飛びだした」感はあるのだが、逆に黒髪でキャラを演じるきらり等に慣れた子供たちにとってはかえって違和感だったのかもしれない。
当時でこそすでにテニミュのように漫画原作のミュージカルは多数存在し、人気を博していたが、まだ「2.5次元ミュージカル」なる言葉は存在しない時代でアニメに興味のない一般層にその文化が浸透しているとは言い難い時代。リルぷりっは早すぎた「2.5次元アーティスト」であった。きらレボやめちゃモテも「2.5次元アーティストのはしり」と言われることもあるが、それ以上にその路線を突き進んだリルぷりっ。天下はとれなかったが当時のセガの先見の明を忘れてはいけない。

リルぷりっとゲッテンカの終了後、セガはいったんキッズ向けアーケードカードから撤退し、その後男児向けでは「新ムシキング」など数作品を断続的に送り出すが、女児向けにいたってはリルぷりっを最後に2024年現在その歴史が止まったままである。
…これにてキッズ向けアーケードカードの繁栄と栄枯の歴史はおしまい。ゲーム業界全体の分析もこの先していくつもりだが、ゲームのお話はいったん休んで次回からはアニメ、それも女児向けアニメの分析をしていこう。
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