リョーマ的Y2K子供文化史考

一刀星リョーマ

文字の大きさ
49 / 311
第3部 アニメ・特撮総合史

生まれたて、新時代の映画ドラえもん~水田ドラ映画初期3作を分析する~

今回は水田ドラ映画初期3作品から新たな時代の映画ドラえもんの制作を分析してみよう。

声優交代のため2005年はシリーズ開始以来初めてお休みした映画ドラえもん。しかし前々回触れたように声優交代の発表前から第26作は2006年公開とアナウンスされていた。
予告通り水田ドラ開始から約1年を迎える2006年3月に水田ドラ最初の劇場版「のび太の恐竜2006」が公開された。ドラ映画としては史上初のリメイク。スタッフの中でも記念すべき新声優陣での映画1発目は第1作である「のび太の恐竜」のリメイクを置いてほか無かったのは間違いないだろう。
公開時のキャッチコピーのひとつが「うまれたて、映画ドラえもん」。予告編の冒頭でもこのキャッチコピーに合わせてピー助の卵から顔を出すドラえもんのアニメーションが挿入された。まさしく新時代のドラ映画を強くアピールしている。
スタッフにとってもリメイクとはいえ今までの25作の栄光にとらわれないまっさらな新規作品を作る気持ち、すなわち「うまれたて」の気持ちで挑んだのは間違いないだろう。

のび太の恐竜は当時の時点で公開から四半世紀以上が経過。当時の親世代には旧作を劇場で観た世代も多く、親子で劇場に足を運ぶ大きなきっかけ作りともなったであろう。
一方この四半世紀で恐竜や古代生物に関する研究は大きく進歩していった。恐竜たちの描写においては2006年当時の最新の学説が取り入れられ、より子供たちが恐竜に興味を持つ入り口としても機能している。
例えばティラノサウルスは旧作では二足歩行で立った姿勢のいわゆる「ゴジラ型」と言われる姿勢で歩いていたが、本作では背を曲げた近年の学説・イメージにもとづいた姿勢で歩行する。
旧作で「ブロントサウルス」と呼ばれていた恐竜は「アパトサウルス」に名称を統一。かつてはこの2種は同一種とされ、共にブロントサウルスと呼ばれていたのだが、後の研究で別種であることがわかったのだ。

一方で学術的に違うがあえて旧作のままにしている部分も存在する。
例えばピー助=フタバスズキリュウは「首長竜」であるのだが、よくある誤解であるが「首長竜」は「恐竜」ではない。一応作中では旧作含め「フタバスズキリュウは首長竜」という説明が登場しているが、本作でも旧作でものび太が恐竜の化石を探しているうちに見つけたのがピー助の卵であったため「首長竜は恐竜」との誤解を受けやすい演出となってしまっている。
2006の監督の渡辺歩氏も制作にあたって恐竜勉強会に参加し、当時の最新の学説を学ぶ中で最新学説と旧作の作品内容に齟齬があることを学んだうえで「ファンタジーにしたい」ということで一部の設定を旧作のままにしたと語った。そもそも首長竜をしっかり「恐竜ではない」と説明してしまえば「のび太の恐竜」というタイトルにも矛盾が生じる。「のび太の首長竜」にせねばならない。そういったやむを得ない事情もあったのだろう。現に作中には「恐竜」と定義されている生物が多数登場するので消してウソはついてないと言えるが。
だが藤子F先生は「子供たちにウソを教えてはいけない」という精神のもと、作品の中で恐竜を出すにしろ、昆虫を出すにしろ、図鑑で詳細に調べてから作品の中に出していた。そのことを思うと少し複雑な気持ちだ。あくまでもこの映画はエンタメであって学術的な発表の場ではないのですべてを学術的な面に従えとかって言うのは野暮だろうし監督を責めるつもりはないが、もう少しフタバスズキリュウの扱いを考えるべきだったかと思う。
だが僕はこの映画は水田ドラ映画のオープニングを飾る作品としては旧作の魅力を残しつつ、ところどころに新しい学説を取り入れ、「新時代のドラ映画」とは何かをしっかり大衆にアピールできた作品だと思う。
実際監督の話によると旧作を見た世代からも満足度が93%という高い数字だったそう。映画ドラえもんが「親子二代で楽しめる作品」となったことがあらためて証明された。

続いて2007年の「のび太の新魔界大冒険~7人の魔法使い~」。第5作「のび太の魔界大冒険」のリメイクだ。
こちらも旧作公開から当時の時点で23年経過しており、当時の子供たちにとっては親世代の作品だ。のび太の恐竜と同じく親子で劇場に足を運んでもらうためのセレクトだ。
脚本に元シンエイ動画社員でもあり、小説家として江戸川乱歩賞をはじめ数々の賞を受賞している真保裕一氏を迎え、監督はドラ長編映画では初の女性監督である寺本幸代氏、作画監督も女性の金子志津枝氏を起用するなどさらに新しい風を吹かせた。
初の女性監督を起用したのも、この映画が「少女の物語」であることが少なからず影響しているだろう。
「少女」とはもちろん「美夜子」のこと。大山ドラ映画においても、水田ドラ映画においても、ドラえもんたちに同行して共闘する史上初の本格的な味方ヒロインとなった彼女は旧作同様ドラえもんとのび太に次ぐ「もうひとりの主人公」というべきポジション。旧作になかった「7人の魔法使い」という副題もドラえもんたちいつもの5人にドラミと彼女を加えての7人という意味。それほど本作において彼女の存在が大きいということだ。
本作では旧作になかった設定として美夜子の母の存在が触れられる。彼女は美夜子を病から救うために悪魔と契約して命を落としたという、回想シーンで語られるとはいえ水田ドラ映画では2作目にして初の物故者である。こういった美夜子の暗い過去というバックグラウンドを描くことによってより「もうひとりの主人公」である美夜子への感情移入がしやすくなっている。

新たな描写が追加されたのは味方だけではない。この映画を語るうえで欠かせないもう一つのポイントが女性悪役の「メジューサ」の存在だ。
旧作では単なる悪役のひとりにすぎなかったのだが、本作ではラスボスのデマオンに次ぐ強敵として描かれ、デザインも旧作のモンスター然としたものから人型の不気味さと美しさを兼ね備えたデザインに180度大きく方向転換。例えるなら原作と2112年ドラえもん誕生のノラミャー子さんぐらいの違いがある。
ストーリーにおいてもニセ美夜子に化けるなど重要な役回りを持つ。
そして彼女の正体は前述の美夜子の母の魂。契約の代償としてデマオンに洗脳されていたのだ。
原作の一悪役をここまで発展させ、さらに新たな設定である美夜子の母に組み込むことができたスタッフの発想力には脱帽だ。
こうしてみると旧作にはなかった「家族の物語」が一つの裏テーマとして描かれていることが見て取れる。「家族の物語」はやはりファミリー向けの映画にはもってこいの設定。一緒に来た両親にとっても感情移入がしやすいからだ。家族でしんみりしながら劇場で同じ時を過ごすという子供時代においてかけがえのない経験のきっかけとして考えてもとても良いことだ。ひとりのゲストキャラに家族のバックグラウンドを描くことによって魅力をより際立てている。

個人的には新魔界大冒険を2作目に持ってきたのは「女児層を狙ったもの」と考える。
もちろんドラえもん自体は両性向けの作品だが、「のび太の恐竜」は「恐竜」というテーマ上、男児ウケが強い作品だったので女児層の中には敬遠した子もいたかもしれない。そこで女児層に足を運んでもらうべく「魔法」という女児ウケが強いテーマで、かつ女性キャラの活躍が多い本作を2作目に持ってきたのだろう。
新魔界大冒険は興行収入35.4億円という当時のシリーズ歴代最高記録を更新。新時代のドラ映画の方向性がこの時点で大きく完成していたといっても過言ではないだろう。

最後に分析するのは2008年公開の「のび太と緑の巨人伝」。水田ドラ映画初のオリジナル作品。制作発表時のコロコロの記事では「お父さんお母さんが知らない感動に会える」と完全新作をアピール。僕も「今までになかったドラえもん映画が観れる」と情報解禁の時点から公開が待ち遠しくて仕方なかった。
ストーリーの元となったのは原作屈指の感動エピソードのひとつ「さらばキー坊」。原作の既存の中~短編エピソードから発展させて物語を作るという手法はのび太の恐竜やワンニャン時空伝など大山ドラ映画でもたびたび使われてきた手法だ。元のエピソードは原作の中でも人気、知名度ともに高いエピソードで、大山時代にもアニメ化されていることから新作とはいえ親世代もを狙っていることは前2作と変わりはない。
とはいえ、のび太の恐竜やワンニャン時空伝がそうであったように元のエピソードをそのまま引き延ばすのではなく、大胆なアレンジが施されており、全くの別作品と言えるので原作の予備知識が無くても楽しめるし、原作を何度も読んだ人も新鮮な気持ちで楽しめる。

原作におけるキー坊のデザインは細い体に簡単な顔を描いた「木をストレートにキャラ化」したようなデザインだったが、本作では180度違ったデザインに変更。胴体の横幅が広くなり、妖精をも彷彿とさせるデザインとなった。
現代(当時)の子供たちの趣向にあわせて抱きしめたくなるようなよりマスコット的なデザインとなっている。
僕も原作版のキー坊と見比べて「こっち(巨人伝)のキー坊のほうがグッズとか欲しくなるよな。ぬいぐるみ出たらみんな買いたくなると思う」なんて子供心に思ったものだ(もちろん藤子F先生のデザインも木が動き出す感が強くて夢があっていいけどね)。

ストーリーとしても「緑」がテーマなだけあって「環境問題」が大きなテーマとして描かれている。折しもこの年は洞爺湖サミットが開催された年でもあり、環境問題に関する世間の関心の目はより強く向けられていた時期だ。
原作のさらばキー坊においても環境問題が同じくテーマとして描かれており、終盤では緑が失われつつある地球から
植物を救おうと地球上の植物を奪って自分たちの星に移植しようと企む植物型宇宙人とそれを食い止めようと説得するキー坊とのやり取りが描かれた。
しかし巨人伝における「緑の星」の政府は緑を汚す地球人により強固な制裁を計画。地球上の植物すべてを緑の星に移植させるために地球上の人類と動物たちを根絶やしにしようと企むのだ。
度重なる開発によって自らの永遠の故郷である地球を汚していく地球人に対する警鐘というテーマは原作からそのまま踏襲されているが、「人類を消さねば地球の緑は救えない」と極端な思想を持つ敵を用意することによって子供たちにとっても「自分たちは大切な地球をこのままにしておいて良いのか」と考えさせるきっかけ作りとなっている。
原作の植物型宇宙人も「人類許すまじ」な考えを持っているが、緑の星と違って人類の絶滅までは考えていなかった。だがどちらも「人類に失望した」ことに変わりはない。「自分たちが環境に対する考えを改めなければ映画のようになってしまうかも」と子供たちにとっては恐怖を覚えるリアルな悪役である。
緑の星の政府は宇宙人とはいえ、人類を狙う理由は「環境・自然破壊に対する怒り」というリアルな理由。子供たちに環境保護の大切さを訴えるのにこれほど効果的な悪役はいないだろう。

…以上水田ドラ映画初期3作を分析してみた。リメイクである初期2作は旧作の良さをそのままに現代的なエッセンスを取り入れ、新作の巨人伝も元となった短編の「環境問題」というテーマがより注目された時期にそれを発展させてよりエンタメとして昇華させた。どれも「新時代のドラ映画」というフレーズに差し支えないであろう。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…