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記録ノ8 秋空のチューリップ~少年よ旗を振れ~

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年長の運動会、僕は年長全員で行うソーラン節で旗振りを担当することとなった。くじ引きで決まった大役である。

ここで僕の幼稚園の特殊なくじ引きのシステムについて説明せねばならない。
先生が教室の床にくじを無造作に並べ、特に引く順番も決めず園児たちが一斉に引いていくのだ。
僕が引こうとしたくじはクラスメイトの男子と相打ちになってしまったが、彼のほうから「いいよ」と譲ってくれた(感謝)。そのくじに当たりの星印が描いており、僕は大役をまかされることとなったのである。
年長のクラスは全部で7組。旗振りは各クラス一人ずつ、計7名しかいないまさに大役なのだ。
僕は今まで幼稚園においてくじ引きで何か決めるときにあたりを引いたことがなかったので子供心ながらに「ついにオレにも当たりがまわってきた!」と心の中で叫んでしまった。
もちろん家でも鼻高々に自慢げに家族に話した。くじ引きで決まったとはいえである。

本番では演武の前半は旗振り役もほかの園児と一緒に普通に踊り、後半にフォーメーションチェンジを行うのだが、ここでいよいよ旗を振って演武のクライマックスを盛り上げる。

…さて、その旗だが、ダンボールと工作用のビニールで作ったものであるが、サイズは本格的なソーラン節の演武で使用されるサイズと大差ない。故に自分の身長より圧倒的にデカい。重さも幼児が持つにはギリギリの重さ(絶妙にわかりにくいかもしれない表現で申し訳ない)であった。
練習で初めて旗を持った時、僕は今まで味わったことのない重さに衝撃を覚えた。あの当時の時点で今まで持ったものの中で一番の重さだったと思う。
重さに耐えながらも僕は練習を頑張った。すべては演武を成功させるため、大役としての使命を全うするため…

練習が始まって2週間ほど経過すると、旗に改良が施されたのか、重さが増した。
「リョーマくん、旗がちょっとおもくなるけど頑張って!」
先生からそういわれて渡された旗の重さったらありゃしない!ただでさえ幼児が持つにはギリギリの重さであったのに、今度は途中で足の上にでも落としたら大惨事になりかねない重さにパワーアップしていたのだ!
しかし、ちょうどその時期来ていた教育実習の若い先生(当時の僕は若い女性の前では赤面してしまう癖があった…)が応援してくれたこともあり、僕は頑張れた。

そして迎えた運動会当日。
いよいよソーラン節が始まる。みんなで踊った前半が終わり、先生たちの大迫力の太鼓を合図にフォーメーション転換。
いよいよクライマックスを飾る旗振りリョーマの真骨頂を魅せるとき。僕は必死に旗を大きく振った。
秋晴れの空に舞った旗に書かれたちゅうりっぷ(僕の年長のクラスはちゅうりっぷぐみ)の文字。
僕は演武が終わるまで力の限り振り続けた。

そして演武が終了。心配していた旗を落とすとか重さに耐えかねて倒れるとかといったトラブルはなく無事大役を成し遂げることができた。

決して運動が得意ではない僕が、運動会で輝いた奇跡の瞬間だった。
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