ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第1部

フェーズ3-8

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 誕生日前の日曜日、涼の車でショッピングモールに向かった。結局、今日まで欲しいものは決まらなかった。それでも希望通りにショッピングデートができることになったのは涼の提案による。彼が担当している入院患者に高校一年生の女の子がいて、回診のときにその子がルームウェアのカタログを見ていたらしい。見せてもらったら私に似合いそうと思ったみたいで、私のほうで何も思いつかなかったこともあって、買ってくれることになった。
「カタログ、その子になんて言って見せてもらったの?」
 信号待ち中、ハンドルを握る涼に訊ねてみた。女の子が見ていたのなら、当然女性向けのカタログか少なくともそのページだったはずだ。
「彼女用」
 彼女という響きがなんだか新鮮で照れる。きっと彼女という実感があまりないままに婚約したからだ。そうよね、私は婚約者である前に涼の彼女なのよね。
「何にやにやしてんの」
 口元をムズムズさせていた私を見て、涼が言った。
「彼女って、うれしいなって。婚約者よりそっちのほうがいいかも」
「じゃあ、彼女に降格で」
「降格!? 婚約解消?」
 焦ると涼が笑った。
「まさか。人に紹介するときなんかは婚約者だけど、普段の心持ちとしては彼女でいいんじゃないの。実際にそうだし」
 なんだ、焦った。そうだよね。一生ものの指輪をもらったばかりで、あっさり婚約解消しないよね。「彼女」でいられる期間は限られている。今を満喫したい。
 ところでルームウェアってどんなのだろう。部屋で涼しか見ないからって、エッチな下着みたいなのだったらどうしよう。露出が多かったり、透け透けなデザインは困る。高校一年生の女の子が見ていたんだから、きっと大丈夫だよね。
 よからぬ想像をしてしまっていたけれど、モール内にあるその店の前に連れてこられたとき、それらはすべて吹き飛んだ。そこは有名なルームウェアブランドの直営店だった。デザインがかわいいのはもちろん、最大の特徴は、さらさら、もこもこなどのそれぞれ肌触り抜群といわれる素材だ。メンズやファミリー向けの商品も展開されている中、やはり女性からの人気が圧倒的に高い。
 感激している私をよそに、涼はすたすたと入店していく。私も慌ててあとに続いた。
「俺の家に服置いといたほうが楽だろ。また泊まるかもしれないし、いつだかみたいにずぶ濡れになって透け透けの状態でうろつかれても刺激的だし」
「透けてた!?」
 梅雨に急に降られてシャワーと着替えを借りたときのことだろう。透けてたなんて気づかなかった。どのあたりがどれくらい透けてたのか気になる。とはいっても、もう完全にあとの祭りだ。
 ハンガーにかかった状態の商品を、涼が次々と私の身に当てていく。着たときのイメージをしてるみたいだ。はたから見れば、私が彼氏を連れてきて買い物に付き合わせていると思うだろう。実際は選んでるのはほとんど涼で、私は着せ替え人形になった気分だ。私自身も「これがいい」と言ってみたり、「これは?」と訊いてみたりするけれど、選ぶスピードは涼のほうが断然早い。
 いったい何着買うのか。いつの間にかカゴの中がいっぱいになっている。メンズ商品も売られてはいるものの、さっきから売り場は移動していないから、すべて私のものだろう。色も白やピンク系ばかりだ。
「こんなにいいよ。ここけっこう高いよ?」
「お前、普段何も欲しがらないから、まとめ買い」
 まとめ買いって、食料品や消耗品のことだけじゃないんだ。
 最終的に、私はあたたかそうなもこもこ素材のセットアップを一着選ばせてもらった。涼が選んだのは、白いロングワンピース二着、パジャマ、さらにパーカーやら靴下やら、なぜかエプロンも。爆買いだ。すごいのはこの数をたったの三十分で選んでしまったことだ。私だったら迷いに迷って一時間以上はかかりそう。男の人の買い物は早い。

 大きな荷物を抱えてマンションに帰ってきた。寝室でさっそく、買ってもらった服に袖を通してみる。たくさんある中から私が選んだのは、涼が一番最初に選んでくれたロングワンピースだ。さらさらとした心地よい生地に全身が包まれる。真っ白で清楚で可憐で、私にはかわいすぎる気がする。
 着替えて寝室を出た。リビングにいた涼がすぐに気がついて、こちらに目を向けた。
「似合うよ。思った通りだ」
 褒められてちょっとくすぐったい。私に似合うと思って涼が選んでくれたんだから、間違いないよね。
「涼が選んでくれたの、両方ともこういうデザインだね」
 両手を広げて全身を見せる。今着ているのも、もう一着のワンピースも、どちらもボタンつきの前開きのデザインだ。かぶるタイプのワンピースも店には並んでいた。こういうのが好きなのかなと思っていると、涼がしれっと答えた。
「脱がせやすいから」
 そういうことか。私は顔をしかめた。愛音さん、全然ギラギラしてなくないです。
「とにかくありがとう。あんなにいっぱい。どれもすごくうれしい」
「うん」
 たくさん買い物をして疲れた。コーヒーを淹れてソファで休憩する。一息ついたところで涼が言った。
「誕生日当日は家で過ごしたほうがいい」
 今年の私の誕生日は平日だ。残念だけど仕方がない。涼は疲れて帰ってくるんだから一緒には過ごせない。最初からわかっていた。でも彼が言っているのはそういうことではないみたい。
「今年で最後だろ、今の家で過ごせる誕生日は」
「あ……」
 来年は結婚してるからだ。
「子どもの誕生日は親にとっても特別なはずだ。だから最後くらいは。な?」
 私は頷いた。
「俺は来年からずっと祝える。一生一緒なんだろ?」
「うん」
 この間、私が言った言葉だ。涼も同じ気持ちでいてくれてるの? 親よりも誰よりも長い年月をこの人と一緒に過ごしたい。
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