情欲王子のゼロから始める領地経営

雨霧つゆは

文字の大きさ
4 / 5

04話 出立

しおりを挟む
 新人騎士を採用してからさほど時間は経っていなかったはず。経っていても三カ月……ほどだろうか。そうだオルガノへ聞いてみるか。

「オルガ、新人騎士は採用してからどのくらい経ってる?」
「もうじき三カ月になります」

 三カ月でこの錬度とはなかなか新人騎士は優秀だ。一般騎士とそん色ないくらい戦えている者が数人いる。それ以外にも才能の片鱗をちらちら感じる者達が大多数だ。
 その中でも飛びぬけて才能を持っている者が一人いる。女騎士ではあるが騎士の剣術と魔法を独自に組み合わせ、技として昇華している何とも器用な騎士がいた。

「あの騎士は何という名前だ?」
「あの者はアネモネといいます。今年採用された騎士の中で一位二位を争う実力の持ち主です」

 なるほど、あの女騎士はアネモネというのか。それにしてもアネモネの戦い方は騎士のそれとは全く違った印象を受ける。普通、騎士の戦い方といったら相手の攻撃パターンを探って隙を見て反撃するスタイルが一般的だ。だが、アネモネの戦い方は相手の攻撃を起点に反撃する感じだ。あまり俺自身がそこまで詳しくないので何とも言いにくいが敢えて言うとしたら反撃、に近いようなイメージだろうか。
 兎に角、不思議な戦い方だ。フェイントに魔法を使ったり、剣を空振ったように隙をつくって相手を誘ったりとトリッキーな騎士だ。

 アネモネ以外にもいい動きをする騎士はいたがやはり彼女の不思議な戦い方に目を奪われた。そして試合も終盤に差し掛かり、最後まで勝ち残ったのは案の定アネモネだった。

「そこまで! 勝者アネモネ!」
「「ありがとうございました!!」」
「なかなか面白い試合だった」

 全試合は半刻ほどで終わった。試合を見た限り、目ぼしい騎士は今のところアネモネとその他数人くらいか。それ以外も実戦投入できるレベルの実力を持った騎士が数名いて、今年採用された騎士は優秀なのが揃ってるなといった感想だ。新人騎士の実力や目ぼしい奴なんかも見れたから今日はこれで帰るか。

 エレノアに会う目的で騎士宿舎に寄ったが思いのほか収穫があった。新人たちの実力も拝めたし、オルガノが新人騎士を解散させあと俺は宿舎を出た。すると運の良いことに巡回警備中のエレノアが帰ってきた。

「ら、ライナス殿下!!」
「おっナイスタイミング」
「このような場所に、どうなさったんですか?」
「お前にちょっと用事があってな」
「そ、それでしたら言って下されば直ぐに戻りましたのに!」

 そう凛とした声音で話すのはエレノア・アプリコット。アプリコット伯爵は騎士家系の貴族で武術一つでのし上がった強者だ。故に、武術に秀でた家系に生まれたエレノアは幼少期から騎士の訓練を受けていたようだ。そしてある日、二つの選択肢を迫られたという。女を捨て騎士として生きていくか、あるいは騎士を捨て他の貴族の下へ嫁ぐか。

 まぁ、下級貴族ではありがちな話だ。長男、次男に生まれれば家督を継ぐ者として扱われ、女は何れも他へ嫁ぐのが一般的だ。伯爵というと上から数えた方が早いくらいには地位が高い。だが俺からして見れば大して変わらない。俺の前で頭を下げない人間はこの国において片手で数えるくらいしかいないからな。

 それよりもだ、相変わらずこうしてまじかで見るエレノアは実に美しい。整った顔にキリッとした細眉、綺麗な青い瞳にぷっくり膨れた唇。美しい顔を艶と光沢のある長く青い髪が包み、筋肉質過ぎなくそれでいて包容感のある体。対面にいる俺の胸を騒めかせるほど良い女だ。胸の膨らみや形、尻の肉付きのよさ、軽鎧に押しつぶされるように時には張り出すように形を変える様は情欲をこれでもかと掻き立てる。今すぐにでも抱きたい、そんな見えない欲情が内で渦巻き始めた。

「相変わらず、美しいなエレノアは」
「そ、そんな、美しいだなんて……」

 頬を赤く染め恥じらうそぶりを見せたエレノア。そんな姿を鑑賞しつつ、本題を切り出すことにした。

「エレノア、今日からお前は俺専属の騎士になるからそのつもりでな」
「専属、ですか?」
「嫌か?」
「いえ!! とても嬉しいです! そうなると三日後の遠征は……私の代わりを用意しないといけないですね」
「ああ、そうだな。今回の遠征の指揮はライオットに任せる予定だ」

 それと先ほどオルガノと話した事や親父から言われたことを掻い摘んで話した。これから領地を任せられることや今後の課題などだ。若干、説明不足だと自分でも思ったがだいたい伝えられたはず。
 兎も角、これで今日からエレノアは俺の専属騎士だ。信頼のおける騎士に身辺警護を任せられるのは俺にとってかなり重要なことだし、安心して任せられる。多少、下心がないと言えば嘘になるがかねがね問題ないだろう。

「あとで親父から一報あると思うがそのつもりで」
「はい!」

 騎士宿舎をあとにした俺はそのまま部屋へ戻った。数日後に迫った遠征に向けての準備をメイド長であるレイアに任せてその日は終了した。

 翌日。父親であるガイアスから遠征の変更やら所属の変更などが言い渡されたとレイアから聞いた。それぞれ領地を任されれることになったセルシオ、ウォービス、そして俺。各所属する配下は慌ただしく動き始めたようだ、俺を除いて。

 ベットから起きた俺は日課である湯船を浴び、腹心であるベイルスの下へ向かった。ベイルスは普段から創作物を作成する趣味があるらしく、よく工房に入り浸っている。
 敷地の隅に追いやられたような工房の煙突から煙が上っていた。今日も何かしらの物を作っているのだろうか。そんな建物の中は職人連中が忙しそうに動き回っていた。その内、見知った背中へ声を掛ける。

「よう、ベイルス。相変わらず趣味で忙しそうだな」
「これはライナス殿下!! ささこちらへ」

 ささっと身なりを整えたベイルスに案内され一旦建物の外へ。工房の応接室に入り、メイドが用意した紅茶で一服した。
 この屋敷に取り揃えられている物は全てが最高級の品物だ。現に口にした紅茶もどこの産地か忘れたが有名な茶葉だ。最高級の紅茶とクッキーを一通り堪能した俺はベイルスに視線を向けた。

「既に知っていると思うが親父から領地を任せられた」
「はい、伺っております。なんでもクロムウェルを任されたとか」
「ああそうだ。ついでに数日後、遠征へと向かう騎士団を率いることになった」
「トロールを討伐する遠征部隊ですね。確か行先はクロムウェル……なるほど。ライナス殿下は遠征部隊と共に向かわれるのですか?」
「いや、いろいと準備とかあるからな、数日遅れて出発する予定だ。お前も用意しておけよ」
「畏まりました。それはそうと私の他に誰がお供するのでしょうか?」
「メイド長のレイヤは当然として、俺の専属騎士になったエレノア……くらいか? 意外と少ないな」

 俺の専属メイドで尚且つメイド長であるレイアと他数人メイドを連れていくのは当然として、今日付けで正式に専属騎士になったエレノアに派閥の連中が何人か付いてくるだろう。それと武力・戦略・諜報からなる三部隊を率いている三武将も入れると……少ないと思ったがそこそこいるな。

 ベイルスとはその後も世間話や軽い打ち合わせを行い、工房を出るときに念押しするように『支度はしておけよ』とベイルスに言いつけ自室へ戻った。

 その日を境に俺以外の周囲の人間は慌ただしさを極め、クロムウェルに出現したというトロールを討伐するための遠征隊が出発した後も続いた。遠征隊が出発してから一週間が経った頃、ついに俺も城を発った。
 正直、いろいろと名残惜しく後ろ髪を引かれる思いだが気持ちを切り替え、俺を含め総勢百人ほどで西に位置するクロムウェルに旅立った。

 マルドゥーク本城からクロムウェルまでは馬車でだいたい十日くらいの距離だ。途中、険しい山脈を抜けなければならないが何とかなるだろう。

 俺を乗せた馬車を中心に馬に騎乗した騎士を率いるエレノアが前方、腹心でこの隊の指揮権を預かるベイルスが後方という布陣だ。戦闘に不向きな奴らも中心に固まって行軍する。
 一週間前に出発した遠征隊に少しでも追いつこうと行軍速度がやや速い気もするが……。

「前方にホブゴブリンを確認! 数は十前後だ!」

 本日何度目かの魔物との戦闘。たいがいゴブリンやら上位種のホブゴブリンが出現する。どちらも低級の魔物だが油断すると手傷を負わしてくる厄介な生き物だ。特にこのゴブリン種の魔物は繁殖力が高く定期的に間引いてやらないと後々大変なことになる。
 殆どは管轄のギルドから派遣される冒険者が間引くのだが如何せん、マルドゥーク本城とクロムウェルのちょうど中間に位置しているこの場所は彼のサタナキアス神が眠るとされている霊峰がそびえている。天高くどこまでも伸びる霊峰サタナキアの頂きは地上から窺うこと叶わず、噂によるとサタナキアス神の加護を受けた竜が住んでいるらしい。
 そんな霊峰から流れ込んでくる魔力を帯びた風が魔物を通常固体より遥かに強くする。ギルドからの距離的な問題もあるが個体値が高い魔物を討伐できる冒険者の数も限りがあるため、必然的に霊峰周辺は魔物の出現頻度がかなり高い。

「そっちに行ったぞ! まわり込め!」

 魔力風により強化された十体前後のホブゴブリンだったが統率のとれたエレノアの部隊を前に苦戦を強いられ、次第に数を減らしていった。最後のホブゴブリンを討伐し終え負傷者がいないか確認したあと再び行軍を再開した。

 霊峰の麓に近づくにつれて魔物が現れる頻度も比例して高くなる。日も沈み始めた頃合で開けた場所に陣を取って一晩を明かすことになった。その間も寝ずの番をするのは当然俺の部下たちだ。主人を守るのは配下の務めと言えよう。

「そう言えば、三武将は何してるんだっけか……ベイルス」
「はっここに」
「三武将は今なにしてる? 寝ずの番か?」
「ライカ殿には陣の警備を、ルビア殿には今後の方針の検討を、リー殿には先行偵察をそれぞれお願いしております」

 なるほど、それぞれの役割を全うしている最中というわけか。ちなみにだが、俺の配下の中でも特に優秀な部隊が三つある。それが三武将と呼ばれる、というか俺個人が勝手に呼んでいるうちに定着したのだが、武力・戦略・諜報を中心とした配下たちのことを指す。
 それぞれ簡単に説明すると、武力に秀でた部隊の隊長がライカ。見た目は姉御のような世話焼きタイプで美人、そして剣術が卓越している。何でもどこかの武闘会で優勝した経験があるらしい。頭の回転も良く剣術も上手い、この陣営ではエレノアの次に強いといっていいだろう。
 お次は戦術部隊の隊長ルビアだ。青髪の美しい女でここら辺では珍しいエルフ族。少女に近い見た目をしているが年齢は俺より上、エルフ族は長寿の種族なため年齢はさほど問題にならない。少女のような見た目をしているが知才の持ち主で、個人的なことをえ言えばニルバーナ王国内でも屈指の知恵者だと思っている。ルビアの手腕に掛かれば大概のことは何とかなる。
 三部隊中、汚れ仕事をまあまあ引き受けることが多い諜報部隊の隊長はリー。獣人族特有の耳が頭に二つ付いていて、獣人族の中の狼種らしく手に収まるほどの可愛らしい耳が何とも俺の性癖をくすぐる。口数が少ない奴ではあるが俺に対して忠誠的で、一度任せた仕事は必ず何かしらの成果を持ってくる実力者だ。諜報活動が主ではあるが暗殺や情報を聞き出すための拷問なんかも得意としている部隊だ。一度、その技術をどこで習得したのか聞いたことがあったが曖昧な答えではぐらかされたことがあった。過去に何かあったような風にも見受けられたので深く詮索しないが、少々心配なところではある。

「なるほどな、リー以外はここにいるわけか。それで首尾はどうだ?」
「はい、リー殿の話によると馬車で二日ほどの距離に遠征部隊が陣を張っているようです。道中数々の魔物の死体が転がっていたとのことなので、ルビア殿と相談し明日から行軍速度を上げて遠征部隊と合流する流れになっております」
「そうか……ルビアは他に何か言ってなかったか?」
「いえ、特には」
「わかった、下がれ」

 首尾は上々、明日の予定もルビアの計画のもと進行しているようなのでベイルスを下がらせた。お辞儀をして下がっていくベイルスを横目に、クロムウェルに到着した後のことを考えておく必要がある。

 遠征部隊と途中で合流することは既定路線だとして、クロムウェルに着いたらまず討伐対象であるトロールの情報を集めることからだろう。その辺に関してはリーに一任するとして、遠征部隊を率いているライオットを副官にして全指揮権をエレノアに引き継がせトロールを討伐させるとしよう。それに関してもルビアの意見を聞いてから決めるとしてだ。

「問題はクロムウェルの現状だよな……、何だったかなぁー確かロウ、ロノウかロノウェかそんな名前の領主だったか」

 有力な情報によると、このクロムウェルの領主が隣国のツバイヤ皇国と繋がっているとの情報が入ってきている。魔石の産出都市で知られるクロムウェルを裏で皇国が手を引いている……考えただけで頭が痛くなる事案だ。
 領主と皇国が繋がっているのは確かな情報なので間違い、ということはなさそうだ。

「こっちの問題を片付けさせる為に俺を送り込んだなぁ、あのオヤジ」

 何となく父親の考えそうなことをいろいろと想像してしまったが、詰まるところトロールを討伐して領主も討伐して一件落着というわけだ。

「かぁー頭がいてぇ。領主の件はルビアに丸投げするか……しかし、俺のメンツが」

 陣の天幕の中、俺は今後襲い掛かってくるであろう面倒事に苛まれる事実に溜息がついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...