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5章 開拓編

119話 楽園

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「へぇー、ここが楽園かぁ」

 クリティカがが管理する階層、通称『楽園』。
 本来のフロアを複数統合して拡張したここは、まさに楽園と呼ぶに相応しいだろう。
 前面に広がる緑は何というか圧巻で、口では表現できないほど神秘的で素晴らしい場所だ。
 果物や木の実が生っている木が一体に生えており、クリティカの許可を貰って幾つかもぎ取って食べてみた。

「うんまっ!? 何これ、こんなに美味しいの始めて食べたかも」

 それからは手が止まらず、お腹いっぱいになるまで手当たり次第に口へ放り込んでいく。
 ひとしきり満足した後、安物の革袋をDPで購入してタマちゃんとクロエにお土産として詰め込んでいく。

「気に入ってもらえて良かったわ」

「大満足!! 定期的に来てもいい?」

「もちろん大歓迎よ」

「やったぁー!! よしよし、これで美味しい果物が確保できた……この件はこれくらいにして、本題は……これに書いてある薬草何だけど」

「拝見いたします」

 懐から今回受けた依頼書を取り出してクリティカに見てもらう。
 内容は治癒促進剤と解毒薬に使われる薬草だとか。
 一応受付には初心者にオススメと言われたが、はっきり言って薬草の知識がある前提で初心者向けと勧められているという事はそれだけ冒険者の質が高い証拠だろう。
 だが知識を持っていなくても、此方には精霊女王であるクリティカが居るのでその辺は問題ないだろう。

「なるほど分かりました。少々お待ちください。今から持って参りますので」

 そう言って木々を抜け何処かに行ってしまった。
 クリティカが薬草を持って来るまで、あちこち見て回ることにした。
 興味をそそられる植物達が植えられているが、迂闊に触らないように心掛ける。
 所々、人食い草的な植物が動いているところを見たので、下手に触ったりしたら痛い目を見るかもしれない。

 テラスっぽい置物が最初の位置だとすると、そこから左側へ逸れて進んで行くと小高い丘が見えてきた。
 丘の上には一本の巨木がある。
 青い空の下、美しい虹色の果実を数個生らせ、真っ白い木肌が美しい。
 丘を少し登り、真っ白な樹を眺めていると声を掛けられた。

「それは世界樹という植物ですね。以前、世界樹の種を頂いたことがありまして、丁度いい機会だったので植えさせてもらいました」

 そうクリティカが説明を挟み、世界樹という木について詳しく教えてもらった。
 曰く、精霊王が宿る木或いは神気が宿るとされているとか。
 曰く、精霊が管理している為、滅多に見れるものではないとか。

「この虹色の実は何? 何か凄そうだけど……」

「この実を食べれば不老になれます」

「へぇー、不老になるのか。不死にはならないんだね」

「流石に、それは理に反しているので無理かと思いますよ。大昔はそう言った事を試す人はいましたけど、結局は無駄な努力でした……不死とは世界の理に反している以上、獲得することはできないのです。寿命を先延ばしにする事はできるかもしれませんけどね。無論例外として、そう言った存在になれば別なんでしょうが」

「不死の存在って……あぁー何となくわかったは。流石にそんな存在には万が一にもなれそうにないしね」

 恐らくクリティカが言っているのはこの世界を管理している存在の事を指しているのだろう。
 そこまでして興味があることでもないので何となく記憶の片隅に置いておくことにした。

「取り敢えず、依頼書に書かれていた薬草はこの中にありますのでお持ちください」

「おっ! ありがとね。多分また来ると思うけど」

「何時でもいらしてください」

 クリティカから薬草の詰まった袋を受け取り、都市へ戻る為に転移装置を設置している場所までクリティカと雑談をしながら戻った。
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