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5章 開拓編

109話 経過報告

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「レイ様、18階層に黒い魔物が出たそうです」

「またぁー? ちょっと待っててこっちに指示出してから対処するから」

「畏まりました」

 最下層であるコア部屋には、ダンジョンマスターを除き五人。
 一人は、最近活性化により少しだけ若返り、念話による各所へ連絡兼指示統括を任され、下の者へ忙しく命令を下すヴァンパイア。
 その隣では同じく念話で各所で発見された黒い魔物について聞き取りをしているリューエル。
 発見された魔物の場所と規模を確認すると即座にヴァンパイアと意見を出し合い指示を出す。

 少し離れた場所には、クリティカとクロエがなにやら真面目な顔で雑談している。
 イベントの魔物が出現し始めの時、二人はちょうど件の魔物と出くわし戦闘になった。
 階層は十八階層、以前の侵蝕者騒ぎで被害を受けた場所で、今後また来ないとも限らないので調査をしてもらっている時にイベント魔物と遭遇したようだ。
 本人達によると大きさは人丈より大きく、全身灰色で長い角が二つ突きだし、硬そうな魔物だったらしい。

 もう一人はというと、腕を組みながら壁に背中を預け目を瞑る魔王様ことエスタ。
 その出で立ちは、壁にもたれているだけというのに威風堂々たる立ち姿だ。
 この中で唯一何も仕事をしていないと思われるかもしれないが、実はエスタには重要な役割があったりする。
 それはというと……。

「エスタちゃん、例の魔物でたよ! 結構強そうだから気を付けて!」

「うむ、承知した。我に任せるといい」

 そう言って壁から背を離しスタスタと入口に近づき、転移陣を起動すると次の瞬間には姿かかき消えた。

「うーん、今回の魔物は今まで遭遇した奴より強そうだね。見た感じ赤い鎧に銀色の剣しかもってないけど、もしかしたら隠し玉的なものがあるかも」

 管理画面越しに映るのは二十二階層の砂漠エリアで、その一角に赤い鎧を着た騎士風の魔物が銀色に光る剣を地面に突き差し、佇んでいるのが確認できる。
 直感で今まで出現した魔物と漂う雰囲気が違い、これは対処できる者がいないと判断して、仲間の中で一番強いエスタを向かわせることにした。
 このように対処できない魔物が出現した時は、エスタに任せようと皆で相談した結果、全員一で賛成したという経緯がある。

 そうこうしていると二十二階層へ転移陣が発動し、エスタが光に包まれ現れ辺りをきょろきょろ見渡した後、リューエルの指示の下移動を開始した。
 真っ直ぐ指示されは場所へ猛スピードで向かって行くエスタ。
 エリアの場所で言えば大体北側になる所で、東西南北にそれぞれ大きな岩のオブジェを設置している。
 これにより方角を見失った冒険者の目安にと親切設計な仕様にしてある。

 次第に赤い騎士を視界に捉えたのか、更に速度を上げ腰から剣を抜き放つと勢いよく飛び上がり頭上から切り掛かった。
 それと同時に赤騎士も素早く剣を構えこれを応戦する形で受け止め受流す。
 剣を受流されたエスタは体を空中で器用に捻り、反動で横薙ぎに振るう。
 これも受け止められ、一端距離を置き相手を観察する。

『こいつなかなか歯応えがありそうな魔物だな。あの横払いに対応するとは、面白い!』

 ニヤリと楽しそうに笑うエスタは、右手に持つ剣を再び構えると赤騎士に向け突進していく。
 それから暫く剣を互いに切り結んだ後、エスタが見えない剣捌きを披露して終局した。

「うはぁー、今の見えなかったよ!!」

 エスタは剣を払い素早く腰の鞘へ納めると転移陣を起動させ姿を消した。
 数秒後、視界の先に魔法陣が構築され、光の中からエスタが涼し気な表情で歩いてきた。

「エスタちゃん、お疲れ様ー。なかなか強そうな相手だったけど、最後のあれは何かの技なの? 凄い速さだったから見えなかったよ」

「いや、ただの切り上げだが見えなかったのか? 少しはやく剣を振っただけなのだがな」

「え!!」

 どうやら先ほどの剣戟は特に技らしきものは使ってはいなく、ただ単に剣を早く振っただけらしい。
 あれほどの剣捌きをして息一つ乱さず、軽い口調で返事をするエスタに流石魔王だけあると感心してしまった。
 寧ろ魔王でなくても一流なら当然なのだろうし、観察者がへっぽこでは確かにものさしも狭いだろう。
 そんなこんなで今回の赤騎士を討伐したことにより、イベントポイントが入っているかを確認し再びダンジョン内を索敵を再開する。
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