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48話 ごめんなさい、実は

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 セレナーダさんとリュシエール様が、お付き合いしていた。
 ・・・恋人同士だったってこと?
 いったい、いつの話し・・・えっ、もしかして、今も、ってことはないよね???
 私は混乱してしまって、目も口も丸く開けてセレナーダさんを見つめていた。
 セレナーダさんは自嘲のような笑いを浮かべて、
「驚かせてしまって申し訳ありません。・・・実は、お付き合いしていた、というのは私が思っていただけでした。リュシエール様は私だけに優しかったのではなかったのに。私は勝手に思い込んでしまったんです」
 へ?思い込んで?
 あっ。
 私は『思い込み』という言葉で、思い出した。
 私がローマリウスに行く前にリュシエール様の部屋を訪ねて行った時、部屋から出てきた上級魔法使いの女性。私に「小汚いチビザル」と言った。
 あの女性も・・・自分はリュシエール様とお付き合いしている・・・って思ってた?
 じゃ、ちょっと、待って。
 え・・・っと、だったら
「あの・・・もしかして、セレナーダさんは・・・今でもリュシエール様が好き、だとか?」
 嫌な事を聞いた、と自分でも思った。
 セレナーダさんは、意に反して、即座に首を横に振った。
「もう。想ってはいません。私に向かって『許嫁の世話を頼むね』ってリュシエール様がおっしゃったときに・・・私の想いなど、リュシエール様には届いていなかった。眼中にさえなかったのだと、気がつきましたから」
 リュシエールさま~~~~~っ!!
 私はリュシエール様の名前を思いっきり叫びたくなった。
 あなたは、なんてことをしてくれてるんですかっ!
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 私はリュシエール様の代わりに何度も何度もセレナーダさんに謝った。
 赤いローブの美しい中級魔法使いは困ったような笑みを浮かべて「イリア様が謝ることではないです。リュシエール様の本心を見抜けなかった私が悪いのだから」
 うううううう~~~っ
 セレナーダさん、いい人だ。
 本当ならリュシエール様を張っ倒して、悪しざまに言ってもいいのに。
 あの上級魔法使いの女性みたいに私をののしってもいいのに。
「セレナーダさんが悪いんじゃないです。リュシエール様が、困った性格だから、だから・・・」
「でも、イリア様はリュシエール様がお好きなんでしょう?困った性格だと分かっていても」
 困った性格でも、好きなのか?
 そんなことを聞かれたことがなかったので、私は少し考えててから
「・・・はい。たぶん、そういうとこもまとめて、私はリュシエール様が好きなんだと思います」
 セレナーダさんには、本心を話してしまった。だって、セレナーダさんも自分のことを話してくれたから、そうしたほうがいいと思って。
 セレナーダさんはまるで母親が子供を慈しむような目をして、言った。 
「イリア様は、きっと、リュシエール様にとって特別な女性なのですね」
「えっ」
 ううん・・・そんなことない。
「私もみんなと同じ・・・かも・・・リュシエール様の心なんて分からないもの」
 私の言葉にセレナーダさんが優しく私の手を取って、契りの白い羽根のアザを見せた。
「いくらリュシエール様でも特別じゃない女性にこれは付けませんよ。それに、あの方はお優しいけれど、自分から誰かを助けるために動いたりはしません」
「え・・・」
 白い羽根のアザは特別なの?
 自分から誰かを助けるために動かない?
 そんなことは、ない・・・私はいつも助けられてて・・・
 えっ
 まさか、それって、特別なことなの?
 私の頭の中が混乱でぐちゃぐちゃに搔きまわされた。
 セレナーダさんの言葉を「そんなのあり得ない」って否定している。
 リュシエール様が私を特別に思ってるなんて、あり得ない。
 だって・・・
 だって?
 私はなんで、そう思っているんだろう。
 リュシエール様が私のことを『好きだ』って言うのは、本気にしちゃいけないことだって、私は思ってて。
 本気だって思ったら、絶対違ってて、自分が傷つくと思うから。
 だから。
 傷つきたくないから、本気にしないって決めてる。
 そうなんだ。たとえ、セレナーダさんに言われても、やっぱり私はリュシエール様が私を本気で好きだなんて思えない。
 傷つく勇気もないから、グズグズと悩んでいるだけなんだ。
 「リュシエール様は今、イリア様のために、マグノリアの司法省の探査部隊も動かしているみたいですよ」
 セレナーダさんの言葉で、私は思考の渦から抜け出した。
 司法・・・省?
 聞き慣れない言葉に私がキョトンとなると、セレナーダさんは「そうでしたね。マグノリアのは中級魔法使い以上じゃないと教えられませんから・・・でも、イリア様はリュシエール様の・・・いえ、次期魔教皇様の許嫁だから、話してもいいですよね。リュシエール様はああ見えて、マグノリアの司法機関を束ねておいでです。今は人間界で問題を起こした『逸れ魔導士』の調査をしているはずですが、さらに、なにか捜索を始めたみたいです」
 あっ。
 きっと、私のお父さんとお母さんのことだ。
 調べる・・・って、魔法国の上の機関を動かすってことだったんだ。
 ものすごく、大変なことをリュシエール様に頼んでしまったんだ、って思った。こんな大げさなことになるなんて、思わなくて。
 私の動揺を見て取ったセレナーダさんが「イリア様が気にかけることではないです。将来、魔教皇様の妻になられるお方のためなら、マグノリア国はどんな命令でも従います」
 う・・・ええええええっ!?
 国!?私の両親探しは国水準なの!?
 どうしよう・・・
 私はリュシエール様に頼まれたから、許嫁のフリをしているだけだ。
 自分の軽はずみな行動が、国を動かすほどの大騒動になっているなんて、全然思ってもみなかった。
 「ごめんなさい、実は『カリソメの許嫁』なんです」とか、もう、言えないよ。
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