異之国奇譚3~平凡OL女王のいと愛し~

月乃 影

文字の大きさ
16 / 16

女王陛下の侍従

しおりを挟む
 私とキリウスが戻って、ローマリウスは一時騒然となった。
 意識が戻ったキリウスが、お風呂に入って、食事をして、大臣たちに事情を説明して。
 国王拉致が王女の独断だったことで、開戦まではいかなかったけれど、ヨークトリア国に対して大臣たちはかなり怒ってたり。
 キリウスはヨークトリアに使者を派遣して、牢獄にいるはずのフランという側近をローマリウスに寄こすように要請したり。
 魔法国マグノリアからリュシエールに依頼した魔法の報酬請求が来て、財務担当大臣が重い溜息を吐いたり。
 身重なのに無茶なことをした私に侍従のレオナードが端正な顔をしかめて、もう2度と侍従を心配させるようなことはしない、と誓わせられたり。 
 色んなことがあって目まぐるしく1日が過ぎて、私とキリウスが二人きりになれたのは深夜だった。
 「レーナ、愛してる・・・ずっと、ずっと、逢いたかった。抱きしめたかった」
 やっと、半身が戻ってきたような感覚。
「私も、寂しかった。逢いたかった」
 そう言う私の唇は彼の唇で塞がれた。
 心臓が止まるんじゃないかと思うほどの長いキスと、熱い抱擁と、溶けるような愛撫と、絶え間ない恍惚と・・・
 ベッドの中で抱き合い、火照った体が冷めたころ、ようやく満足できたらしいキリウスが私の肩の線を指でたどりながら思い出したように尋ねた。
「そういえば・・・あの・・・あの時のアレは、本当なのか?」
 何だろう?私は高揚した後の気怠さの中で聞き返した。
「アレ?」
「その・・・ヨークトリアで言った・・・赤ちゃんが・・・ってやつ」
 あ、そう言えば、話してしまったんだっけ。と私は今さらながら気がついて
「そう、本当、だけど・・・もしかして、キリウスは嬉しくない?子供は好きじゃない?」
 不安げに尋ねた私にキリウスは「どう言ったらいいのかわからない」と答えた。
 嬉しくないのか、と唇を噛んだ私にキリウスが慌てて
「嬉しくない、とかじゃないんだ。ただ・・・実感がわかないんだ。俺には家族がいた経験がないから」
「え?」
 初めて聞く、キリウスの家庭の話。
 今までキリウスは自分の家のこと話したがらなかったから、私も聞かないようにしてたけど。
 私が知ってるのは、父母もすでに亡くなって、兄弟もいないってことだけ。
「母は俺を産んですぐに亡くなったし、父は家にめったにいない人で、亡くなるまでほとんど顔を合わせたこともなかった。俺は乳母と召使いに育てられた。乳母は厳しい女性で俺を甘やかすこともなく、俺も距離をおいてたと思う。16になったら乳母の代わりに侍従のレオナードをあてがわれた」
「レオナードはいい人よ?」
 そう、誰よりもキリウスこと分かってるし、私にも優しくしてくれる。
「でも、家族じゃない。忠実だが、それは俺が主君だからだ。同じテーブルで食事もしないような人間は家族じゃないだろう?」
 そうか、私も侍女をしていたサラさんが私に誘われても「恐れ多い」と言って絶対いっしょの席に着かないことを思い出した。サラさんのことは好きだけど、家族とまでは思ったことはなかった。
「俺はレーナに抱きしめられるまで他人に抱きしめられたことがなかった。レーナを抱きしめて、初めて人は温かいって知ったんだ」
 そこまで言ってしまうとキリウスは困惑した表情になり
「家庭も家族がどんなものかも知らない俺が、いい父親になれると思うか?」
 そうか、キリウスは不安なんだ。私だって不安だけど、私は両親との思い出もあるし、親がどんなものかも知ってる。
「あのね、キリウス。いい父親ってどんなものかは私もわからない。でも、私はこう思う。キリウスが子供の頃、お父さまにしてもらいたかったことを自分の子供にしてあげればいいんじゃないかって」
「俺が・・・してもらいたかったこと?」
 私は頷いた。
 キリウスは子供の頃の記憶をたどっているようにしばらく遠い目になっていたけど、私を見て温かい笑顔なった。
「そうだな、レーナもいるし、きっと大丈夫だ」
 新米ママになる私のことを過大評価されても困るけど、キリウスなら絶対いいパパになれると私は確信してる。
「いっしょに家族をつくろうね、キリウス」
 そう言って微笑んだ私を見るキリウスの眼差しは今まで見たことがないほど優しかった。


   

 「女王陛下、こちらも召し上がってください。栄養たっぷりの牛のお乳です」
 お腹の大きさが目立ってきた私に侍従のフランがグラスにたっぷり入ったミルクを勧めた。
「ありがとう、フラン。でももうお腹いっぱい」
「では、後で国王陛下と庭園を散歩なさったらいかがでしょう。お体を動かしたほうがよろしいかと思いますので」
 フランは許可を求めるように切り分けた肉をフォークで口に運んでるキリウスを見た。
「わかった、レーナの散歩に付き合おう。レオナードもどうだ?」
 陶磁器のカップに温かいお茶を注いでいたレオナードが「お供します」と答えた。
 キリウスがヨークトリア国から招いた、マーガレッタ王女の元側近が私の侍従になって数ヶ月が立った。
 まだ20代前半だけど、フランには幼い弟妹が5人もいるおかげで、妊婦や出産に詳しくて頼もしい。
 なによりもキリウスがフランを気に入ってるし。
「フランが私の侍従になってくれてよかったわ。今まで私のお守りまで大変だったでしょう、レオナード」
 私はレオナードに感謝を伝えたつもりだったけれど、彼はなぜか寂しそうな笑顔になった。
「いいえ、少しも大変ではありませんでしたよ、レーナ様。でも、よい侍従が見つかって安心しました」
 昼食をとっていたバルコニーに私の巻き毛を揺らすほどの風が吹き渡った。
「レーナ、お腹の子供が寒がるといけないから、部屋に入ろう」
 キリウスが立ち上がって、私の手を取った。

 うん、きっと、キリウスはいいパパになる。

 私はキリウスの温かい手を握りしめた。




   完 


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。 絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。 王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。 最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。 私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。 えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない? 私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。 というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。 小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。 pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。 【改稿版について】   コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。  ですが……改稿する必要はなかったようです。   おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。  なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。  小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。  よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。   ※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。 ・一人目(ヒロイン) ✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前) ◯リアーナ・ニクラス(変更後) ・二人目(鍛冶屋) ✕デリー(変更前) ◯ドミニク(変更後) ・三人目(お針子) ✕ゲレ(変更前) ◯ゲルダ(変更後) ※下記二人の一人称を変更 へーウィットの一人称→✕僕◯俺 アルドリックの一人称→✕私◯僕 ※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。

処理中です...