Re;Birth

波多見錘

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欲望の怨嗟

side02 零蘭颯二という男

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 あれから1週間、僕は紀里谷花音とよく話すようになっていた。

 「そ、それで!あのギャグだろってくらいの言い間違えが伏線になっていて……!」
 「確かにそれは僕も驚いたね。シリーズが10以上も続いているというのに、第1巻からのギャグ的要素をあんな重要な展開にもっていくとは思わなかったな」
 「そうなの!少し、読者層を増やしたいと思って、無理矢理ねじこんだギャグかと思ったら―――本当、シュピーゲルってすごいよね!」
 「ああ、この本の作者は素晴らしい。どんな話でも、驚きを与えてくれる。やはり、あの時1巻を見ただけで読むのをやめるなんてことをしなくて正解だった」
 「だよね。私は、シュピーゲルが面白いことを知ってたからよかったけど、所見の人は脱落した人も多かったみたいだから」

 僕も少しは砕けて話せるようになったし、彼女のほうも言葉に詰まることがなくなっていた。
 最近では彼女と読書のことを話すことが多いし、人と話す機会がこれだけのような気がする。まあ、授業が授業なので、凡人などを相手にする意味もないのだが。

 彼女はシュピーゲルの良さをわかっている。それだけで、ともに会話をする意味がある。

 二人で読書をしながら互いに感想を言い合う。そんな本の中でしか知らなかった情景が目の前に広がっているのが素晴らしかった。
 だからなのだろうか。僕にとって、放課後にこの教室いる時間がとても短く感じる。

 そう思いながら彼女を見ていると、その視線に気づいたのか顔をそらして頬を赤くされた。

 「どうして頬を赤くするんだい?見ていただけだろう?」
 「い、いや……その……そんなに見られると……」

 どうしてだろう?なぜか彼女の口角が少しだけ上がっているように―――ニヤけているように見える。なぜだ?その感情の機微は、僕にはわからない。

 知りたい―――なぜそんな表情をするのか。

 「君は今どんな気持ちなんだい?なぜそんな顔をするんだい?」
 「そ、そんなに見ないで……は、恥ずかしい」
 「そうか―――人は恥ずかしいと、ニヤけるのか。新しい発見だ」
 「そ、その……それは違うと、思います……」

 僕にニヤけていたと指摘されると、今度は顔を伏せてしまう。
 なぜ隠す?人は、表情と言葉を会話するのではないのか?僕の知っている男は、少なくともそう教えてくれた。

 それでは顔が見えない―――表情が見えない……
 なにもわからない。悲しんでいるのか、辛いのか、楽しいのか。わからない……

 「あ、あの……零蘭君?」
 「……あ、ああ。なんだい?」
 「そ、その……零蘭君がよかったらだけど、明日のお昼ご飯一緒に食べない?ほら、私、誰も使ってない空き教室を見つけたの。だから、一緒にご飯を食べながら本の感想でも……」
 「いいけど……僕は食事の時間なんてないに等しいけど、大丈夫?」
 「う、うん……?大丈夫。昼休みの時間だけでも、語り合える時間が増えるとうれしいかなー、って」

 僕と本を語らう時間が欲しい?

 「君、友達いないのかい?僕なんかより、時間を使ってあげるべき相手とか」
 「と、友達くらいいるよ!そんなに多くないけど……その、それで、明日は大丈夫そう?」
 「まあ、構わないけど……」
 「じ、じゃあ、明日の昼休み、零蘭君の席に行くから!」

 そう言うと彼女は図書室から消えていった。

 食事、か……

 本では読んだことある。普通の人が、生きるために摂取する最も効率の悪い栄養の摂取方法だと。味や風味のために、いろいろと余計な成分を含んでいるため、不要なものを体の中に入れてしまう。愚かな行為ともいえる。

 僕がそれをすることはない。
 明日、どんな顔をして彼女の隣にいればいいのだろうか?

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 「れ、零蘭君―――それはなに?」

 翌日、紀里谷花音は僕の昼食を見て戦慄していた。
 彼女は、ピンク色の巾着袋に箱型のものを持っており、対局的に僕はいくつかの錠剤が包装されたものと水を持っているのみだった。

 「これがたんぱく質を凝集したサプリ、こっちが血糖値を上げるためのサプリ。で、これが炭水化物かな?」
 「さ、サプリ……?」
 「そうだ。これなら食事なんかものの十数秒で終わる。空いた時間で本でも読めば、僕の見識も広がるだろう」

 僕はそう説明するも、彼女にとってはあり得ないことなのか、受け入れきれないという表情だった。
 そんな彼女が机の上に広げた弁当と呼ばれるものの中には、米と茶色いなにかがたくさん入っていた。まあ、ほかにも入っているが、棒の知らないものばかりだ

 「これはなんだい?」
 「か、唐揚げだけど―――え、知らないの?」
 「……知らないな。それはなんだい?」
 「簡単に説明するなら、鶏肉を油で揚げたものだけど……」
 「油―――燃やす以外に用途があったのか……」
 「え、どういうこと?」
 「いや、気にしないでくれたまえ。ちなみに、それ1個だけもらってもいいかい?」
 「いいけど、もしかしたらおいしくないかも……」
 「問題ない―――どうせ僕に味なんてわからない」
 「え、それってどういう?」

 彼女はまだ何かを言いかけていたが、その前に僕は弁当箱から唐揚げなるものをとって口に運ぶ。
 やはり味はわからない。だが、確かな噛み応えと溢れてくる水とは違う何かの液体。人はこれをおいしいと食べているのだろうか?

 軽く咀嚼をし、それを飲み込んだ。

 だが、僕の体に異変が起きた。
 胸のあたりから、なんとも言い難い不快感が上がってくる。

 「う……」
 「ど、どうしたの?」
 「うぇ……」

 気づいたら僕は吐き出していた。飲み込んだはずの唐揚げを。
 喉を一気に駆け上がってきた不快感もあり、一瞬にして気分が沈んだ。

 そのあとは少々吐き気を催しながらも、サプリを流し込んだ。

 「やはり、食事なんていいことはない。でも、すまなかったね。君からもらったものを吐いてしまって」
 「う、ううん―――それはいいんだけど。もしかして、零蘭君って三食全部サプリで済ませてる?」
 「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
 「―――明日も、私と一緒に食べてくれない?今度は、零蘭君が食べれそうなもの持ってくるから」
 「それは構わないが、気にすることはないぞ。必要な栄養素はとれているわけだし―――」
 「多分零蘭君の胃、食べ物を食べなさ過ぎて常に胃もたれしてる状態になってるんじゃないかな?だから―――」
 「それが何かはわからないが、君に心当たりがあるというのなら、乗ってもいいかな?唯一の友達くらい、大切にしないとね」

 そう言って僕は彼女のおでこを突っついた。
 ボン!と擬音がつきそうなくらい彼女の顔が赤面したが、僕にはもうなぜそうなるのかわからなかった。 
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