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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』
第38話『当主とメイドの関係』
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その後メアを先頭にメイドたちが食事を運ぶとエーヤ達は食事を行なう。前菜やスープ、魚料理、肉料理、果物といった一連の料理がテーブルの上には並んでおり、一品ずつ運ばれてくるフルコースとは少し違った形だった。恐らくはテーブルマナーなどを気にせずに食べられるようにというグランの支持の元の配慮なのだろう。
そして食事も終わり、弓張月の明かりに照らされた夜の暗さが静謐さに包まれる頃。一人の男は自らの屋敷の書斎で羊皮紙に羽筆を走らせている。王国に存在する魔術省、防衛省、総務省の三省を取り纏める筆頭大臣の役職を務めている彼は夜遅くまで仕事をしていた。
ある程度区切りがついたのか机に羽筆を置くと、片手で目頭を押さえながら溜息を吐き上を向く。現在では机に置いてある燭台の明かりが写す表情には陰りが見え、夕食時には一切見せなかった疲労した様子がそこにあった。それは娘や客人の前で情けない姿を見せまいとした父親や当主としての意地を貫き、たった一人になった際に見せた顔。
再度軽く息を吐くと瞳を閉じながらメイドの名を呟く。
「メア」
「―――はい、こちらに」
机周りを照らしていた燭台であったが、入り口の扉付近まではその光は届かなかった。その暗闇にひっそりと佇むのは一人の女性。彼女は自らの主に呼ばれると即座に返事を行なう。ただし、普段時の笑みは鳴りを潜めていたが。
全く足音を立てずに静かな足どりで机の正面へ慇懃に移動するとグランへ視線を向けながら用件を待つ。すると、目の前の彼は疲れている表情にも拘らず口角を上げて薄く笑っていた。その瞳は爛々と輝いており、表情と相まってどこか不気味であった。
「やはり彼は面白いねぇ。是非とも王国にとって―――いや、こちらに欲しい存在だ」
「………………」
「王国のギルドに登録している高ランク冒険者、エーヤ君のみが扱える無属性魔術、『永遠の色調』の一員というだけでも十分な肩書なのだが………メア、私が彼にお礼がしたいといったらなんと言ったと思う?」
「………私には、分かりかねます」
この場にはいない青年の事を話すグランはどこか浮かれている様子であった。話し方には少し落ち着きが無く饒舌さが上回る。目の前の主に尋ねられたメアはそんな様子を気にも留めず平静に伝えるが、この場の雰囲気にいつにもまして呑み込まれる様な支配感を感じ取る。
一旦間を置くと彼は機嫌良さそうに口を開く。
「っふふふ、『魔人についての情報が欲しい』と言ったんだよ。あぁ、なんて運命の巡り合わせなんだ!」
「………! それは」
メアは目元をピクリと動かすとそっと瞳を閉じる。息の音を消しながら、浮上したさざめく心を落ち着かせるように。そんなメアの様子を面白そうに見遣るとグランは言葉を続ける。
「きっと彼は力を持っている。因果の結び付きをより強固に、深める何かしらのモノをね………」
「………旦那様にしては随分と曖昧な表現ですね。その力とやらの正体には見当がついているので?」
「さぁ、一体何なんだろうねぇ?」
グランは皺の刻まれた笑みをさらに深め、はぐらかすかのように言葉を発する。メアの経験上、これ以上問い質しても無意味だという事を知っていた。そして、軽く溜息を吐きながらグランの変わらぬ態度を視界に収めると踵を返して出口へと向かう。
「おや、もう行くのかい?」
「………はい、これ以上雑談に付き合っても無駄だと判断したので。また何かありましたら御呼び下さい」
「ははは、つれないなぁ。もしかして、メアが食事の時に私たちと一緒に食べないのは"無駄"だって思っているからなのかい? アンジェが居た頃は一緒に楽しく食べていたのに」
「―――勘違い為されているようですが」
いつも通りの調子に戻ったグランの何気ない言葉にメアは立ち止まる。凛とした背筋から漂うのは、普段無理矢理に抑えていたグランへの怒気。
射抜くように目線だけで男を見遣るメア。普段の彼女を知る者ではまるで想像が出来ない程、その鋭い眼光からは殺気が迸っていた。
「"無駄"ではなく貴方の事が"大嫌い"だからです。私が主と仰いだのはアンジェリカ様ただ一人。そして、あの方の忘れ形見であるエリーお嬢様を責任を持ってお守りするのが私の果たすべき使命です。貴方の命令やお申し付けには従いますが―――あまり馴れ馴れしく踏み込まれるのは迷惑です」
「……………」
冷ややかな表情を浮かべたメアにより静かに吐き捨てるように紡がれた言葉だが、それを一身に受けてもグランは穏やかなまま一切動じてはいなかった。失礼します、とそのままメアが出て行く様子を見送ると彼は心の中で小さく溜息を吐いた。
「まったく、あれから随分と嫌われてしまったものだね。―――まぁ、仕方ないか」
嚥下した筈のあらゆる感情が逆流する感覚を覚えながらツツ、と光沢のある木製の机の端を片手でなぞる。ぼんやりと人差し指の平を覗き見るとそこには何も変わらない皮膚の色があり、それを確認すると静かに拳を固く結んだ。メアの事をひとまず頭の片隅に追いやったグランは再度溜息を吐くと背中から椅子に深く掛けながら自らの部屋の天井を眺め見る。
「今はまだ、ね」
自らに言い聞かせるように吐き出すと、燭台の暖かな輝きがゆらりと怪しげに揺らいだ。
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