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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』
第40話『セントパール魔術学園』②
しおりを挟む凛とした高貴さが伺えるその声に振り向くと、何人もの従者を引き連れた一人の少女が先頭にいる。エリーは目を見開きながら呆然と呟くと彼女へ視線を固定する。
彼女はエリーとリーゼ同様制服に身を包み、その艶やかな若葉色の髪を搔き上げていた。髪の先端へ向けて螺旋状に巻いた特徴的な形をしており、その身に纏う優雅さは隠しきれていない。所謂"縦ツインロール"という目立つ髪型。
リーゼはそんな彼女の姿を視界に収めるなり琥珀の双眸を細めながら眉を顰める。
「………なによ縦ロール、アンタ最近ちょくちょく学園に姿を見せないけど、挨拶するなんて殊勝な心掛けじゃない? 私だけならともかく、エリーにまでなんて」
「オホホホホッ! あらぁ、勘違いしないでくださる? 最近セントパール魔術学園にまた凝りもせず通い始めた彼女への私なりの誠意の表れですわ。もっとも、一度は逃げ出したのですから次はいつ逃げ出すのかせいぜい見物ですが」
見下すような視線を向けながら少しつり上がったきつめな瞳がエリーを捉えて離さない。口角はエリーを嘲笑うかのように上がっておりその言葉には遠慮が無い。
彼女の名はランカ・ウィンドール。リーゼ同様五大公爵家の貴族の一人で『風』の魔術属性を司る。
エリーが魔術を使えなくなってからというもの、軽蔑や嫌悪の視線を向けて来た者の一人。正直エリーにとっては未だ苦手な部類に入る。
苦いモノを感じながら何も行動出来ないでいるとリーゼが表情を怒りに歪めながらランカへ向けて言葉を放った。
「アンタいい加減にしなさいよ! そうやってねちねちエリーのこと馬鹿にして何様? 昔っからそうよね。エリーと私に何かと嫌味ったらしく突っかかってきてさ、かまってちゃんか!」
「……まるで躾のなっていない駄犬ですわね。少しは五大公爵家に連ねる者の一人として言葉遣いを直したらいかが? 昔から何も変わっていないではありませんか―――あぁ、犬は言葉自体話せませんでしたね。ほら、お座り」
「っきーー、あったまきたこの頭でっかちが! 喧嘩売ってるなら魔術対決で速攻買うわよ、今度こそアーランド家の名に懸けて決着付けてやるんだから!!」
「―――ふん、なら私もウィンドール家として迎え撃たない訳にはいきませんわねぇ? 吠える犬を躾けるのも貴族の嗜みですわ」
「ち、ちょっと………!」
互いに挑発じみた言葉を交わすと魔術を発動するべく身構える。エリーをおいてけぼりにして進んだ話だが、五大公爵家に連なるアーランド家とフィンドール家の令嬢が決闘を繰り広げるという話が広がり、いつの間にか周囲にはたくさんの生徒がエリーたちを囲うようにしてギャラリーが出来ていた。
ざわざわと小声が飛び交っているが、最近の学園内で生徒同士の決闘は日常茶飯事なのか、以前よりも殺伐とした雰囲気ではない。中には友人同士で学食を賭けている者がいることからこの状況は学園にとっては日常で、楽しみにする者も多いのは確かなのだろう。
その一方でリーゼとランカの決闘の中心にエリーがいる事が気に食わない者も一定数いた。いくら代々『盾の守護者』を継承する人物を輩出するセイヴフィール家であっても魔術を使えなくなった落ちこぼれだったエリー。一部で情報が錯綜しており未だ魔術を使えないままだと信じ込んでいる生徒は彼女らの中心にエリーがいる事自体気に食わない。
そんな思いが込められた視線が紛れているのをひしひしと感じながらエリーはどう立ち振る舞うべきなのかを考える。
まず二人はそれぞれ『土』と『風』の魔術属性を有しており五大公爵家の一員という事で実力は均衡している。例えば属性の相性でいうとランカの用いる風属性が有利になるように軍配が上がるのだが、リーゼは魔術に込める魔力を器用に調節する事により初級から中級までの土属性魔術を自在に扱う事でその差を埋めていた。
エリーが魔術学園にいた頃から度々二人は決闘と称して衝突し合う事が多く、リーゼは魔術の手数の多さ、ランカは魔術発動速度が早いという技術を十分に活かしていた。もっとも、エリーが魔術を使えなくなってからはその矛先はエリーへと向かったが。
話を戻すと、決闘というのは互いの了承を得て相手に必要以上の怪我さえ負わせなければ許可される仕組みになっている。制限時間は十分。ただし、決闘を行なうには数人の教師の認可が必要であり場所も限られている筈で、少なくともエリーが知っている限りこの大通りで決闘をして良いわけがなかった。
止めようと二人に声を掛けるが周りの声でこちらの声で聞こえない様子。となるとまずここにはいない教師に伝える事が先決なのだが、エリーが周りを見渡す限り人混みが多く出来ておりすぐには動けない。
「いっくわよぉ………!」
「かかってきなさいな………!」
エリーが二人に視線を戻すと両者は既に魔術を発動する準備をとっくに終えており一触即発の状態だった。こうなった以上教師を呼んでいる時間など無い。生徒同士で対処するしかないのだろうとエリーはリーゼの後方で一つ溜息を吐く。
その後、エリーは意識を集中させながら小声で魔術詠唱を行なう。
「大地の地烈よ、楔となりて降り注げ―――」
「風の旋律よ、刃となりて切り裂け―――」
その瞬間、周りの声を上書きするように両者の魔術詠唱が同時に紡がれる。体内の魔力貯蔵庫が魔術詠唱に呼応するように、魔力が魔術へと変換・干渉し魔術陣を基軸に事象として現出された。
「―――初級魔術『岩石の礫弾|《ロックバレット》』!!」
「―――初級魔術『疾風の刃|《ウィンドカッター》』!!」
リーゼとランカの正面に浮かぶ多数の魔術陣から具現化された小岩や風の刃がもの凄い勢いで相手に向かって飛び出す。風を劈く音と小岩の擦れる音が辺りに響き渡るが、互いの魔術が衝突する直前にそれを遮るように光り輝く透明な壁が出現した。
「なっ………!」
「これは………!」
突然魔術の衝突を塞ぐように出現した壁に二人の少女は驚愕したような声を上げると途端に魔術を解除する。その魔術の属性は『光』。対峙する二人の中心には魔術陣が展開されておりそこから壁が出現していた。
一体誰が、と考える間もなく二人は呆然と立ち尽くす中、彼女達を囲んでいた魔術学園の学生はまるでぽかんと擬音が付くかのように口を開けてある人物を注視していた。
彼女らは周りの学生が向ける視線に気が付くとその先を追う。そこには、片手を前に翳しながら凛とした表情でリーゼとランカの交互を見つめるエリーがいた。
「………ッ!!」
「エ、リー………」
「はぁ………初級魔術『光の防壁』よ。リーゼと―――ランカも、言いたいことは山ほどあるだろうけど、周りに学生がいるのに近距離で魔術行使する決闘は危険だわ。………リーゼ、行こう」
「ち、ちょぉ………っ!」
エリーは戸惑うリーゼの手を引きながら学園校舎へと向かって歩いていく。その進行方向には今までの様子を注視していた見物人らがおり、エリーが近づいてくるのが判るとその道を譲るようにして間が割れた。彼女は幾分か歩みを早めるとツーサイドアップに束ねた絹糸のような橙色の髪を揺らしながらリーゼを連れて去っていった。
彼女たちの様子を見送った周囲の見物人たちは初めは呆然としていたが、その尾を引いたまま散り散りに去っていく。
一方の残されたランカといえば、
「………ッ」
奥歯を強く噛みしめながらエリーたちの去って行った方向を強く睨み付けていた。その表情には隠し切れない屈辱感が滲み出ると同時に、その瞳の奥には何かの感情を抑えるかのような逡巡した様子があった。
「さぁ参りましょうランカ様。このままでは最初の講義に間に合わなくなります」
「―――えぇ、分かっていますわ。行きましょう」
今まで静観していた従者の一人は主のその様子に気付きながらも慇懃に話しかける。しばらくするとランカの先程までの雰囲気は霧散し初めの普段通りの態度へと戻る。
彼女はエリーが去って行った方向を見据えると誰にも聞こえない様な小さな声でぽつりと呟いた。
「………絶対に、認めない」
ランカは何事もなかったかのように学園へと歩き始める。その歩みには僅かにふらつきがあったが、後ろに控える従者たちはそれを視界に収める事はしなかった。
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