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Ⅱ‐76 エルフの宴会
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■ストレージの中
スタートスからエルフの里に戻った俺は夜の大宴会に向けて必要な食材や道具を大量に用意してサリナ達に渡してからストレージの中に入った。サリナは転移から戻ってきた時に何か言いたそうだったが、夜の準備を頼むと俺の出した食材等で作業をみんなと一緒に始めてくれている。
ストレージの中に入ったのは捕えた術士から早めに情報を引き出せないか試したかったからだ。真っ暗なストレージの中で焼け焦げた黒い死人を前に、何をどうやって聞き出すかを俺は考えていた。こいつが闇の結界を作っていたのは間違いない。一筋縄でいかないだろうが、前回の影使いで勇者の魔法具なら死人にも痛みを与えられることが分かった。やはり、痛めつけるししかないのだろうか。まずはダメ元でこちらの姿は見せずに相手にスポットライトを当てて普通に尋問を始めた。
「なあ、お前は何者だ」
「お、お前こそ何者なのだ? それにここはどこだ? うぅー・・・」
「ここは俺の世界だ。お前は一生ここから出ることが出来ない。それよりも痛いのか?お前たち死人は痛みを感じないんじゃないのか?」
「・・・」
返事が無いところ見ると痛みを感じているようだった。やはり、勇者の道具を使ってサリナが火を放ったからだろう。
「火傷は痛いからなぁ。それだけ焦げると気が狂いそうに痛いんじゃないか? いやぁ、その痛みが永遠に続くとなると、俺なら死んだほうがましと思うかもしれないな。でも、お前は死人だから死ぬこともない。恐ろしい話だと思わないか?痛みが永遠に続くっていうのは」
「・・・」
「名前ぐらい言ったらどうだ? 教えてくれれば水をやるぞ。水が無くても死なないだろうが、少しは気分が良くなるんじゃないか?」
「・・・ハイドだ」
「ハイドか、判ったよ。約束通り水をやる。こうやって・・・、ひねって蓋を外してから飲め」
「こ、これが水? ・・・、ああ、本当に水だ・・・」
ハイドは眼前に突如現れたペットボトルに驚きながらも、蓋を開けて素直に水を飲んだ。
「どうだ、水を飲めば少し落ち着いたんじゃないか」
「・・・、お前は一体・・・」
「まずはお前の話からだよ。ハイド、お前は黒い死人達の幹部なんだろ? ゲルドやリウと同じだよな?」
「うむ、あの二人もお前が?」
「いや、俺は会ったことがあるだけだよ」
水を飲んで少しは自分のことを話し出したが、こっちの情報は適当にごまかしておいた方が良いだろう。
「それで、エルフ達をお前の結界に入れてどうするつもりだったんだ?」
「さあな、私は連れて行くだけの役割だ」
「連れて行く? どこに連れて行くつもりなんだ?」
「・・・」
「西にあるお前たちの本拠地か?」
「・・・」
「そうか、答えないつもりなのか。じゃあ質問を変えよう。魔石を使って闇の結界を作るんだろ?その魔石はどこに埋めたんだ?」
「・・・」
「ふん、これも話したくないのか・・・。じゃあ、水は返してもらおう。しばらく、一人で火傷の痛みを味わっておいてくれ」
「・・・」
残念ながら大した情報を得ることは出来なかった。名前を聞いてもお友達になるにはもっと時間がかかるのだろう。ハイドを暗闇の中に残して、俺はストレージから出て宴会の準備状況を確認したが、肉、酒、野菜(少しだけ)、調味料等は順調に広場のテーブルへ積み上げられている。後はバーベキューコンロに火を入れればいつでも開始できそうだ。だが・・・。
「どうした? 腹が減ったのか?」
俺達と一緒に戻ってきたシルバーが俺の周りをぐるぐると回って体をこすり付けてくる。シルバーはスタートスで俺がノートをストレージに収納するタイミングで戻ってきた。ちゃんと帰る時間が分かっているかのようだった。
「ミーシャ、シルバーは何がしたいんだろ?」
「何だろう? 何かを伝えたいんだろうが、こんなに寄り添ってくるのは珍しいな」
ミーシャにわからないなら俺にわかるはずが無いが、腹が減っているのかもしれないので、とりあえずドッグフードを出してみた。だが、やはり違うようだ。トレイに大量に入れたドッグフードの臭いもかがずにお座りをして俺を見つめている。
「違うのか? どうすれば良いんだ?」
「サトル、さっき行っていた場所でシルバーに何かあったのか?」
「いや、特にはなにも・・・、少しだけこいつが居ない時間があったけど」
「そうか、何かもらえるのを待っているように見えるのだがな」
「だけど、食べ物じゃないみたいだね」
サリナが近寄って首筋を撫でてやったが、シルバーは俺の方を向いたままだ。何を渡して欲しいのだろうか?さっきのノートの訳は無いし・・・、他に何が?
全然心当たりは無かったが、俺はストレージの中にとりあえず入れている戦利品を出してみた。さっきの木箱や迷宮で見つけた木箱、聖教石の袋、そしてムーアのアジトで見つけたもの・・・、シルバーはムーアのアジトで見つけて放置していた鍵のかかった木箱を鼻で俺に押し出した。
「これか?すっかり忘れていたな。鍵ももらったのに・・・」
レントンが中身を使い道の分らない魔法具と言っていたから、鍵をもらっても忘れていた箱を開けると中には腕輪のようなものが一組入っていた。
「これなのか? って。おい!」
シルバーはどうやら自分の役目を果たしたと思ったようで、トレイのドッグフードをがっつき始めた。
「サトル、その腕輪はどうしたのだ?」
「この箱は黒い死人達のムーアにあったアジトで見つけた中にあったんだ。鍵をレントンから後で貰ったんだが、使い道の分らない魔法具が入っていると言われて、そのまま忘れていた」
「ふーん、何の魔法が使えるのかな? サリナにも使える魔法?」
「さあな、どう使うのかもわからないからな」
「触ってみても良いか?」
「良いよ。ミーシャは使い道が分かるのか?」
ミーシャは木箱から腕輪を取り出して、表面にある不思議な模様を確かめた。
「いや、だが・・・。うん、これはわれらの・・・おそらく長老が作ったものだな」
「エルフの? じゃあ、長老に聞けば使い道が分かるのか?それで、シルバーが教えてくれたんだな」
シルバーがなぜ俺のストレージに入っているものが分かったのかは謎だが、いまさら科学的な答えはもらえないだろうから気にしないことにした。
「ああ、そろそろ広場に皆が集まりだしている。長老も来るはずだからそこで聞こう」
「それで良いよ。じゃあ、ミーシャが持っておくか?」
「いや、ダメだ。それはお前が持っておけ、勇者の道具に違いないからな」
「そ、そうなの? まあ良いか、なら俺が持っておくよ」
腕輪以外はストレージに全部戻して、腕輪はタクティカルベストのポケットに入れた。広場へ向かおうとしてシルバーを見ると、大きなトレイが既に空になっていた。大型犬なら1週間分の量だったが、1食分にもならないようだ。トレイを鼻で俺に向けて押し出して、おかわりを要求している。
「追加で出してやるけど、今から広場に行くから、シルバーも向こうで食えよ」
完全に人語を理解している巨大狼はトレイを咥えるとしっぽを振って俺の後を広場までついて来た。広場にはすでにママさん達と一部のドワーフが酒を飲み始めていた。
「よし、じゃあ、肉をどんどん焼いて行こう。サリナ、お前が焼肉奉行だからな。エルとアナと一緒に焼くのを任せるぞ。肉が足りなくなったら言ってくれ、テントから持ってくる」
「うん、わかった! 任せてよ! エル、アナ、焼くよー!」
「はーい!」
サリナは魔法でグリルの炭を燃やして肉を焼き始めた。大型のグリルを3台用意してあるから、かなりの量を焼いていけるはずだった。
「ミーシャとリンネはエルフのみんなに焼けた肉を配ってやってくれ」
「承知した。リンネ、私がみんなの皿を持ってくるから、皿に肉を乗せてくれるか?」
「良いよ、だけどタレってのはどうするんだい?」
「そうだな、小さい皿まで持つのは面倒だから、肉に少しだけタレをかけてくれ」
「あいよ」
これで、焼いた肉を振舞う体制は整った。後は飲み物だが、酒はどうすればいいのかわからなかった。
「ショーイ、ハンス、みんなの酒は二人に任せる。無くなったら言ってくれ」
「わかりました。お任せください」
テーブルの上には焼酎の一升瓶が10本並んでいる。後は補充するだけで良いだろう。これで各自の役割分担が終わった。残っているのはママさんとリカルドだが、二人にはエルフと色々な話をしてもらえばいいだろう。リカルドは珍しくママさんの横に座っておとなしくしている。
俺はドッグフードをリュックから出してシルバーのトレイをいっぱいにしてやっると、すごい勢いで食い始める。デカいから仕方ないとはいえペットで飼うと食費は凄いことになりそうだ。
色々なものを広場に持ち込んだが、今のところ無限に物が出て来るリュックやテントを不審に思うエルフはいないようだ。時間が17時を過ぎて太陽がかなり沈んだところで、ほとんどのエルフが集まってきた。乾杯や開始の合図は無かったが、既に肉と酒が手元に届いたエルフからは絶叫に近い歓声があちこちで上がっている。
「凄い! すごいぞ! 何だこの味は?」
「柔らかいし、噛めば肉の味がしみだしてくるな!」
「ああ、酒も懐かしい味がするな・・・、何百年ぶりだろう」
肉を気に入ったのか酒を気に入ったのかわからないが、満足していただけたようだ。みんなが食べるのをしばらく眺めていたが、ミーシャの母親ハルが俺のところに皿を持って歩いてきた。
「サトルさん、あなたは食べないのですか?」
「後で食べますよ。まずは皆さんの分を用意してからですね」
「そうですか、いつもそういう風にミーシャの面倒も見てくれているのですね」
「い、いえ、そんなことは無いですよ。ミーシャが俺を守ってくれることの方が多いですよ」
ミーシャママは俺より少しが低くて見上げるような目がとても可愛らしかった。三桁を超える年齢でミーシャの母親だとしてもドギマギしてしまう。
「ふふっ、これからもミーシャのことをお願いしますね」
「ええ、こちらこそ・・・、で、ですけど、ミーシャにはこ、婚約者がいるんですよね?」
俺は聞きたくない話をついつい切り出してしまった。
「そうです。でも、あの娘はあなたと一緒に旅をするつもりのようですよ」
「えっ!? それはどういう意味なんですか?」
「そのままの意味です。これからもあなたの、いえ、勇者の背中を守ると言っていました」
「本当に!? でも・・・」
婚約者はどうするのか?と言うセリフを俺は飲み込んだ。俺が口出しすることでは無いだろう、せっかくミーシャが・・・、だが、やはり本人に後で確かめてみよう。どうして、一緒に旅をするつもりになってくれたのかを聞いておきたい。
ーまだ婚約だからな・・・、破棄ってこともあるのか?
スタートスからエルフの里に戻った俺は夜の大宴会に向けて必要な食材や道具を大量に用意してサリナ達に渡してからストレージの中に入った。サリナは転移から戻ってきた時に何か言いたそうだったが、夜の準備を頼むと俺の出した食材等で作業をみんなと一緒に始めてくれている。
ストレージの中に入ったのは捕えた術士から早めに情報を引き出せないか試したかったからだ。真っ暗なストレージの中で焼け焦げた黒い死人を前に、何をどうやって聞き出すかを俺は考えていた。こいつが闇の結界を作っていたのは間違いない。一筋縄でいかないだろうが、前回の影使いで勇者の魔法具なら死人にも痛みを与えられることが分かった。やはり、痛めつけるししかないのだろうか。まずはダメ元でこちらの姿は見せずに相手にスポットライトを当てて普通に尋問を始めた。
「なあ、お前は何者だ」
「お、お前こそ何者なのだ? それにここはどこだ? うぅー・・・」
「ここは俺の世界だ。お前は一生ここから出ることが出来ない。それよりも痛いのか?お前たち死人は痛みを感じないんじゃないのか?」
「・・・」
返事が無いところ見ると痛みを感じているようだった。やはり、勇者の道具を使ってサリナが火を放ったからだろう。
「火傷は痛いからなぁ。それだけ焦げると気が狂いそうに痛いんじゃないか? いやぁ、その痛みが永遠に続くとなると、俺なら死んだほうがましと思うかもしれないな。でも、お前は死人だから死ぬこともない。恐ろしい話だと思わないか?痛みが永遠に続くっていうのは」
「・・・」
「名前ぐらい言ったらどうだ? 教えてくれれば水をやるぞ。水が無くても死なないだろうが、少しは気分が良くなるんじゃないか?」
「・・・ハイドだ」
「ハイドか、判ったよ。約束通り水をやる。こうやって・・・、ひねって蓋を外してから飲め」
「こ、これが水? ・・・、ああ、本当に水だ・・・」
ハイドは眼前に突如現れたペットボトルに驚きながらも、蓋を開けて素直に水を飲んだ。
「どうだ、水を飲めば少し落ち着いたんじゃないか」
「・・・、お前は一体・・・」
「まずはお前の話からだよ。ハイド、お前は黒い死人達の幹部なんだろ? ゲルドやリウと同じだよな?」
「うむ、あの二人もお前が?」
「いや、俺は会ったことがあるだけだよ」
水を飲んで少しは自分のことを話し出したが、こっちの情報は適当にごまかしておいた方が良いだろう。
「それで、エルフ達をお前の結界に入れてどうするつもりだったんだ?」
「さあな、私は連れて行くだけの役割だ」
「連れて行く? どこに連れて行くつもりなんだ?」
「・・・」
「西にあるお前たちの本拠地か?」
「・・・」
「そうか、答えないつもりなのか。じゃあ質問を変えよう。魔石を使って闇の結界を作るんだろ?その魔石はどこに埋めたんだ?」
「・・・」
「ふん、これも話したくないのか・・・。じゃあ、水は返してもらおう。しばらく、一人で火傷の痛みを味わっておいてくれ」
「・・・」
残念ながら大した情報を得ることは出来なかった。名前を聞いてもお友達になるにはもっと時間がかかるのだろう。ハイドを暗闇の中に残して、俺はストレージから出て宴会の準備状況を確認したが、肉、酒、野菜(少しだけ)、調味料等は順調に広場のテーブルへ積み上げられている。後はバーベキューコンロに火を入れればいつでも開始できそうだ。だが・・・。
「どうした? 腹が減ったのか?」
俺達と一緒に戻ってきたシルバーが俺の周りをぐるぐると回って体をこすり付けてくる。シルバーはスタートスで俺がノートをストレージに収納するタイミングで戻ってきた。ちゃんと帰る時間が分かっているかのようだった。
「ミーシャ、シルバーは何がしたいんだろ?」
「何だろう? 何かを伝えたいんだろうが、こんなに寄り添ってくるのは珍しいな」
ミーシャにわからないなら俺にわかるはずが無いが、腹が減っているのかもしれないので、とりあえずドッグフードを出してみた。だが、やはり違うようだ。トレイに大量に入れたドッグフードの臭いもかがずにお座りをして俺を見つめている。
「違うのか? どうすれば良いんだ?」
「サトル、さっき行っていた場所でシルバーに何かあったのか?」
「いや、特にはなにも・・・、少しだけこいつが居ない時間があったけど」
「そうか、何かもらえるのを待っているように見えるのだがな」
「だけど、食べ物じゃないみたいだね」
サリナが近寄って首筋を撫でてやったが、シルバーは俺の方を向いたままだ。何を渡して欲しいのだろうか?さっきのノートの訳は無いし・・・、他に何が?
全然心当たりは無かったが、俺はストレージの中にとりあえず入れている戦利品を出してみた。さっきの木箱や迷宮で見つけた木箱、聖教石の袋、そしてムーアのアジトで見つけたもの・・・、シルバーはムーアのアジトで見つけて放置していた鍵のかかった木箱を鼻で俺に押し出した。
「これか?すっかり忘れていたな。鍵ももらったのに・・・」
レントンが中身を使い道の分らない魔法具と言っていたから、鍵をもらっても忘れていた箱を開けると中には腕輪のようなものが一組入っていた。
「これなのか? って。おい!」
シルバーはどうやら自分の役目を果たしたと思ったようで、トレイのドッグフードをがっつき始めた。
「サトル、その腕輪はどうしたのだ?」
「この箱は黒い死人達のムーアにあったアジトで見つけた中にあったんだ。鍵をレントンから後で貰ったんだが、使い道の分らない魔法具が入っていると言われて、そのまま忘れていた」
「ふーん、何の魔法が使えるのかな? サリナにも使える魔法?」
「さあな、どう使うのかもわからないからな」
「触ってみても良いか?」
「良いよ。ミーシャは使い道が分かるのか?」
ミーシャは木箱から腕輪を取り出して、表面にある不思議な模様を確かめた。
「いや、だが・・・。うん、これはわれらの・・・おそらく長老が作ったものだな」
「エルフの? じゃあ、長老に聞けば使い道が分かるのか?それで、シルバーが教えてくれたんだな」
シルバーがなぜ俺のストレージに入っているものが分かったのかは謎だが、いまさら科学的な答えはもらえないだろうから気にしないことにした。
「ああ、そろそろ広場に皆が集まりだしている。長老も来るはずだからそこで聞こう」
「それで良いよ。じゃあ、ミーシャが持っておくか?」
「いや、ダメだ。それはお前が持っておけ、勇者の道具に違いないからな」
「そ、そうなの? まあ良いか、なら俺が持っておくよ」
腕輪以外はストレージに全部戻して、腕輪はタクティカルベストのポケットに入れた。広場へ向かおうとしてシルバーを見ると、大きなトレイが既に空になっていた。大型犬なら1週間分の量だったが、1食分にもならないようだ。トレイを鼻で俺に向けて押し出して、おかわりを要求している。
「追加で出してやるけど、今から広場に行くから、シルバーも向こうで食えよ」
完全に人語を理解している巨大狼はトレイを咥えるとしっぽを振って俺の後を広場までついて来た。広場にはすでにママさん達と一部のドワーフが酒を飲み始めていた。
「よし、じゃあ、肉をどんどん焼いて行こう。サリナ、お前が焼肉奉行だからな。エルとアナと一緒に焼くのを任せるぞ。肉が足りなくなったら言ってくれ、テントから持ってくる」
「うん、わかった! 任せてよ! エル、アナ、焼くよー!」
「はーい!」
サリナは魔法でグリルの炭を燃やして肉を焼き始めた。大型のグリルを3台用意してあるから、かなりの量を焼いていけるはずだった。
「ミーシャとリンネはエルフのみんなに焼けた肉を配ってやってくれ」
「承知した。リンネ、私がみんなの皿を持ってくるから、皿に肉を乗せてくれるか?」
「良いよ、だけどタレってのはどうするんだい?」
「そうだな、小さい皿まで持つのは面倒だから、肉に少しだけタレをかけてくれ」
「あいよ」
これで、焼いた肉を振舞う体制は整った。後は飲み物だが、酒はどうすればいいのかわからなかった。
「ショーイ、ハンス、みんなの酒は二人に任せる。無くなったら言ってくれ」
「わかりました。お任せください」
テーブルの上には焼酎の一升瓶が10本並んでいる。後は補充するだけで良いだろう。これで各自の役割分担が終わった。残っているのはママさんとリカルドだが、二人にはエルフと色々な話をしてもらえばいいだろう。リカルドは珍しくママさんの横に座っておとなしくしている。
俺はドッグフードをリュックから出してシルバーのトレイをいっぱいにしてやっると、すごい勢いで食い始める。デカいから仕方ないとはいえペットで飼うと食費は凄いことになりそうだ。
色々なものを広場に持ち込んだが、今のところ無限に物が出て来るリュックやテントを不審に思うエルフはいないようだ。時間が17時を過ぎて太陽がかなり沈んだところで、ほとんどのエルフが集まってきた。乾杯や開始の合図は無かったが、既に肉と酒が手元に届いたエルフからは絶叫に近い歓声があちこちで上がっている。
「凄い! すごいぞ! 何だこの味は?」
「柔らかいし、噛めば肉の味がしみだしてくるな!」
「ああ、酒も懐かしい味がするな・・・、何百年ぶりだろう」
肉を気に入ったのか酒を気に入ったのかわからないが、満足していただけたようだ。みんなが食べるのをしばらく眺めていたが、ミーシャの母親ハルが俺のところに皿を持って歩いてきた。
「サトルさん、あなたは食べないのですか?」
「後で食べますよ。まずは皆さんの分を用意してからですね」
「そうですか、いつもそういう風にミーシャの面倒も見てくれているのですね」
「い、いえ、そんなことは無いですよ。ミーシャが俺を守ってくれることの方が多いですよ」
ミーシャママは俺より少しが低くて見上げるような目がとても可愛らしかった。三桁を超える年齢でミーシャの母親だとしてもドギマギしてしまう。
「ふふっ、これからもミーシャのことをお願いしますね」
「ええ、こちらこそ・・・、で、ですけど、ミーシャにはこ、婚約者がいるんですよね?」
俺は聞きたくない話をついつい切り出してしまった。
「そうです。でも、あの娘はあなたと一緒に旅をするつもりのようですよ」
「えっ!? それはどういう意味なんですか?」
「そのままの意味です。これからもあなたの、いえ、勇者の背中を守ると言っていました」
「本当に!? でも・・・」
婚約者はどうするのか?と言うセリフを俺は飲み込んだ。俺が口出しすることでは無いだろう、せっかくミーシャが・・・、だが、やはり本人に後で確かめてみよう。どうして、一緒に旅をするつもりになってくれたのかを聞いておきたい。
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