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Ⅱ-150 再び神殿へ2

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■ネフロス神殿 第3農場 

 巨大な空飛ぶ船を見つけたのは、農場の見張り台で監視していた一人の男だった。農場は恐竜からの襲撃を防ぐためと中にいる農奴を逃がさないために太い丸太で組み上げられた壁で完全に囲まれている。逃がさないためと言っても、逃げれば恐竜の餌食になるだけだから誰も逃げる奴はいない。監視役の男はいつものようにぼんやりとジャングルを飛ぶ翼竜を眺めていたが、翼竜から目線を違う方向に向けた時に驚きのあまり壁の上の監視台から落ちそうになった。

「な、何だあれは!?」

 男が目にしたものは今まで見た事の無い形、大きさだった。空を飛んでいるが、生物でないことだけは初めて見た男にもわかった。だが、それが船であると認識するにはあまりにも大きすぎたし、男の想像力はそれほど豊かでも無かった。驚きながらも、下にいる警備隊に向けて大声で注意を促すと、詰め所に居た男達は笑いながら出て来て、監視役の男にどういう種類の冗談なのかをしきりに聞きたがった。

「いいから、早く魔亀まきを飛ばせ! すぐに行かないと神殿から処罰が下るぞ!」

 見張り台の男が絶叫に近い調子で叫び続けると男達の一人が首を傾げながらも、詰め所の横にいた巨大な亀の背に乗って飛び上がった。

「お、おい! 本当だ! 大変だぞ! すぐに飛ぶんだ!4目は神殿に報告しに行け!」

 最初に飛んだ魔亀の男達は農場の柵を超える高さになったところで、監視役の男が言っていたことが冗談では無いことをようやく理解し、慌てて仲間へ指示を出した。

 -大きい! あんな大きなものが飛ぶのか!?

 魔亀まきは男を乗せて素早く飛び立ち始めて、3匹の魔亀まきが巨大な物体に向けて最後の1匹が神殿の方向へと向かった。上に乗っている男は右手に槍を持ち左手に小さな盾を装備していたが、飛んでいる物体に槍が役立つとは思っていなかった。だが、そこに人が乗っていれば、槍は十分に効果を発揮するだろう。普段から十分な鍛錬を積んでいるし、人を殺した数は・・・数えきれないのだ。

 サトルは飛んでくる亀に対して先制攻撃を控えることにした。この場所では魔法が使えることを確認しているので、受け身でも十分に対処できると思ったからだ。それに、この場所について情報が欲しいと思っていた。どう考えても、前に来た神殿と同じ場所では無い。そうなると、亀に乗っている男達は敵でない可能性も・・・ないことは無い。

 だが、亀の上の男達はサトル達が操舵室に乗っているのを見て、喜ばなかったようだ。3匹の亀がぐるぐると操舵室の周りを回りながら、上に乗った男は槍を握り直している。どう見ても友好的な姿勢では無かった。

 -一応、声を掛けてみるか・・・。

「おーい! こっちから攻撃するつもりは無い。お前たちは黒い死人達か?それともネフロスの信者なのか?」

 船の拡声器を使って声を掛けると、亀の上の男は返事をしなかったが、ネフロスという言葉に反応して、少し距離を置いて3匹で集まった後にこちらへゆっくりと近づいて来た。

「お前達こそ何者だ! 我らはネフロス国の兵士だ! 許可なく我が国へ侵攻してきた目的を聞かせろ!」

 先頭の亀に乗った男が大きな声で叫んだ。

 -ネフロス国? 宗教から国へ格上げか?

「侵攻? ここは火の国の領土の筈だが? お前達はいつここに国を作ったんだ?」
「我らは既に建国800年を経てこの土地で暮らしている。火の国とは何の話だ?」

 まったく会話がかみ合っていないが、嘘を言っているのでは無いようだ。そうなると、灰色カーテンを通じて空間か時間が違う場所に繋がってしまっているのだろう。しかし、ネフロスと関係があるのは間違いない・・・いや、このネフロス国から出て来ている奴がドリーミアの中でネフロス教を広めていると考えるのが妥当だろう。そうなると、こいつ等は敵と言う事になる。

「ネフロス国で一番偉い人は国王なのか? 会って話をしたいのだが・・・」
「ふざけるな! 大神官殿は貴様等生者いきびとごときが会えるものでは無いわ!」

 -ん!? いきびと・・・ってことは、こいつらは死人しびとか?

 なるほど、ネフロスの国と言うだけあって死人の国だ。あのカーテンを操っているのもこいつら・・・?敵とみなすべきか迷ったが、相手の方が迷いを断ち切ってくれた。

「サトル、神殿の方からもたくさんの亀が飛んできたぞ」
「反対側からも10匹ほど飛びあがってきましたねぇ」

 ミーシャとママさんから報告が入った。

「じゃあ、向こうから攻撃を受けたらいつでも反撃できるようにしておいて」
「「「はーい」」」
「チッ・・・」

 女性陣から明るい返事が、ショーイからは不満の舌打ちが聞えてきた。剣の達人は空ではあまり活躍できないのがご不満のようだ。俺もアサルトライフルのトリガーに指をかけて、いつでも発射できる態勢で亀の男に話しかけた。

「ネフロスの国は死人しびとの国なんだな? お前達も死人しびと、大神官も死人しびと・・・、生者いきびとはいないのか?」
「もちろん生者いきびともいるぞ。我らとて、もとは生者いきびとだ。生者いきびとから選ばれた者のみが高貴な死人しびとになるのだ!」

 ご丁寧に変な説明をしてくれた。死人しびと生者いきびとというのが彼らの理屈のようだ。生者いきびともいつの日か、死人しびとに慣れることを夢見ている。変な世界・・・でも無いか、俺たちの生きる世界も不老不死を望む奴が居るからな。

「全員が死人しびとになれる・・・」
「来るぞ! 伏せろ!」

 -バリッ!バリッ!バリッ!

 俺が質問を続けようとしているところへミーシャの声にガラスが割れる音が続き、俺の前方にいた亀たちも上下に分かれて突っ込んで来る。

 -火だ!

 口から火炎がこちらに飛んでくる前に操舵室の壁に隠れて窓際に移動した。窓からアサルトライフルの銃口を突き出して、火を噴いている亀の頭に連射する。7.62㎜弾でも頭部にはダメージを与えられた。亀は斜めに傾き、上に乗っていた男を落として墜落して行った。

 振り向くと、後方には棘を飛ばした亀たちがミーシャの銃弾の餌食になり始めていた、前方から飛んでくる亀にはサリナが火魔法をお見舞いして、遥か彼方へと吹き飛ばした。

「下に回り込んでいるぞ!」
「わかった。少し高度を下げるよ」

 船の高度を木に当たるところまで下げると、潰されるのを嫌がった亀たちが船の横へと上がって来た。見えた瞬間に銃弾と魔法でズタズタにされる。ママさんはあまり興味がわかないようだったが、後ろの方から回り込んできた亀を見つけて首を風魔法で落とした。乗っていた男達はなすすべも無く落ちて行ったが、亀から作業船の後部甲板に飛び移って来た頑張り屋さんが二人いた。

「良し! あいつ等は俺に任せてくれ!」

 任せる必要も無いのだが、のけ者にするのもかわいそうなので凄腕剣士が操舵室を飛び出て行くのを見送った。槍を持った亀騎士は素早く突っ込んできたが、ショーイの間合いに入った瞬間に槍を持つ片手を肘から斬られて悶絶した。もう一人の槍は届きそうだったが、刀で跳ね上げられると空いた胴体を横ざまに斬られて体が二つになった。

「どう?まだ飛んでる?」
「ああ、向こうからまだ来るな。あれは私に任せてくれ」

 ミーシャも自分の獲物は譲りたく無いようだ。1㎞ほど離れたところから飛び上がったばかりの亀部隊を見つけて、正確に亀の頭部へ銃弾を撃ちこんで行く。

「うん・・・、こっちは居なくなったな」
「こっちも!」
「後ろの方もいないみたいですね」
「なんだ、もう終わりなのか・・・、物足りねえな」
「・・・」

 可哀想な亀部隊は俺達に傷一つつけることが出来ずに撃退された。船のガラスが何枚か割れたが、どうでも良い損害だ。

「良し! じゃあ、神殿に乗り込もうぜ」
「いや、その前に下へ一度降りよう」
「下って、密林にか?」
「いや、亀が飛んできた場所だよ」
「ん? 何かあるのか?」
「ああ、亀が飛んできたところは農場みたいだな。柵で囲まれて畑とか家とかがあるみたいだ」

 飛び上がってくる亀を双眼鏡で確認したときに、背後には高い柵と煙が昇っている集落があるのを確認していた。俺はどこかに居るはずの生者いきびとを探したいと思っていた。
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