上 下
7 / 183
新たな世界へ

5.最初の町スタートスを目指して

しおりを挟む
■始まりの祠 出口

洞窟を出ると、林の中だった。足元には雑草が広がっている。
太陽は真上付近まで上っている。正午頃なら、到着から4時間ぐらい過ぎたことになる。

「もう少し進んで休憩しよう。」
武は踏み分けられた小道を進み始めた。皆、黙ってついてくる。
林を抜けると岩場があったので、休憩することにした。

「みんな、お疲れ様。洞窟が終わって良かった。やっぱり前回と違った?」
「私は途中からだから良くわからないけど、ゴブリンがたくさんいたのは驚いたわ。前は1匹だけだったから。小澤君どう?」
「何か全然違います。数もそうだけど、前回もその前も洞窟はあっという間でした。戦いは素手だったんでちょっとてこずりましたけど。」
高田は黙ってうなずいている。

今までとは洞窟の状況は違っているようだ。
洞窟から町までは半日ぐらいと聞いているが、その情報も正しいかは不明だ。

「ところで、みんなは何か持ってきた?」背中の布を解きながら、3人を見る。
「私はティッシュとハンカチだけ、色々持って行こうとしても消えちゃうのよね。」と中島さんは両手をひらひらさせている。
「俺はこれだけです。」と小澤は木刀を
「私は・・・」と高田は腰にぶら下げた巾着を持ち上げたが、中身の説明は無かった。

武は荷物から紙包みを4つ取り出した。
「おにぎり焼いてきたから、良かったら食べて。食べれば水分補給にもなるから。」
「ありがとう!山田さん気が利くぅ~!!」と中島さん
「どうも」と小澤さん
「・・・」と高田さん。

おにぎりは、昨晩米を炊いて、表面に焼き目を入れたものだ。
味付けは天然塩のみで、こっちに持って来れるように和紙で包んでおいた。

簡単な昼食が終わったので、町へ向かって歩き出す。この小道をたどると、街道につながっているそうだ。

先頭を武が歩き、小澤さんにしんがりを頼んだ。
歩いている両側の雑草はひざ上ぐらいの高さだ、見かけない葉の形のようだ。
小さな花をつけており、蜂のような虫も飛んでいる。

遠くには大きな森が見える。建物は何も見えない。はるか向こうには山地があるようだ。
洞窟があった辺りは小高い岩山になっており、周辺には岩場がいくつか点在している。

「ガササッ」
右側の雑草が大きく揺れて、何かが武に飛び掛ってきた。
右手のナイフでとんできたものを払う。

「キャウゥッ」と言う鳴き声をあげて、落ちたがそのまま逃げ去ったようだ。
「今のなんだったわかる?」後ろの中島さんに聞く。
「はっきり見えなかったけど、ウサギかねずみのような感じ。色は灰色だった。」
中島さん越しに後ろを見ると、高田さんと小澤さんに同じような影が飛びかかった!

小澤さんは木刀で飛んできたものを受け止めた。
高田さんは半身になってサッとかわした。意外と敏捷で、動きが滑らかだ。
あたりを見渡すと雑草があちらこちらで揺れている。

「気をつけて、まだ来るよ!」といいながら武は腰を落として、ナイフを逆手に構えた。
武の左から飛んできたものをナイフで上から刺したまま地面に叩きつける。

「ギュエィ」と鳴いているのは歯の長いねずみのようだが、後ろ足はウサギのように発達している。前足のつめは鋭く曲がって危険だ。
ナイフをさしたまま捻り(ひねり)、トドメをさしてうしろを確認する。

中島さんはしゃがみこんでいる。
高田さんは、飛んでくるウサギねずみをかわした。
小澤さんは木刀で叩き落して、足元にはもう1匹落ちている。

武は中島さんのそばに駆け寄り、飛んできたウサギねずみにナイフを突き立てた。
何ともいえない鳴き声で足元に落ちたウサギねずみを踏みつけた。
中島さんを助け起こして、後(うしろ)の二人を確認する。

高田さんは、辺りを見回している。
小澤さんは足元のウサギねずみを踏みつけて、トドメを指している。
どうやら、攻撃は収まったようだ。

小澤と武がしとめた4匹のウサギねずみが足元に転がっている。
やはりネズミのような顔立ちに鋭い犬歯がある。

「やっぱり、前と違う。こいつらは、前は森でしか会わなかった。」小澤さんがつぶやく。
「そうよね、私も前のときは町までモンスターにはほとんど会わなかったもの。」
「じゃあ、先を急いだほうが良いかもしれないね。今日中に町につけるかがポイントだから。」
武の言葉に3人とも黙って頷いていた。

日が少し傾き始めたので、日没までは残り3時間ぐらいだろう。
日没までには絶対にスタートスに着く必要がある。
少し歩みを速めたが、考えは伝わっているようで3人とも遅れずに付いて来る。

1時間ほど歩いただろうか、小高い丘の上で踏み分け道が広い道につながった。
「これが街道かな?」
「そうそう、たぶん後1時間ぐらいで着くと思う。」中島さんが笑顔で答える。
4人ともかなり安心して足取りも軽くなる。

広い道と言っても、幅4mもない。土が踏み固められて、あまり雑草が生えていないと言うだけだ。
右方向だと3人とも言うので、交差した場所から右方向へ歩く。
3回ぐらい丘を越えたあたりで前方に建物っぽい固まりが見えてきた。
最初の町「スタートス」だ!

しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

DAIKON叙事詩第1部『大根と魔導師』 ~主に野菜でお仕置きする男の物語~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,305

お姉ちゃんは弟にオムツを履かせたい

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:1

片想いしてる子の気を向かせたかっただけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:11

我らが行くはガチャポンな戦場

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...