それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想

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派遣勇者の進む道

170.副司教 ビジョン

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■南方州 土の研究所
 ~第16次派遣4日目~

 地面から伝わってくる振動は徐々に大きくなって、それに合わせて置いてあった土の山が盛り上がり始めた。みるみるうちに土から何かが形作られて行く。

 -土魔法で何かを作るつもりか!

「みんな、下がって! グランドウォール!」

 タケルは相手が何を作るのか判らなかったが、全員が隠れることのできる土壁を立ち上げて、後ろに隠れながら様子を伺った。

「お前! 土の魔法が使えるのか!? だが!」

 相手の男は驚いた様子だが、自分の魔法を止めるつもりは無いようだ。土の山が変化して出来上がったのは・・・

「あれは洞窟にあったゴーレム!?」

 立ち上がった土人形は身長5メートルぐらいで長い手を持っていて、北の洞窟で戦った物と瓜二つだった。

「いや、胸に棘のようなものが無いな」

 ダイスケやコーヘイを傷つけた飛び道具は付いていないことに安心して、タケルは壁の後ろから歩み出た。

「私たちは戦うために来たわけではありません。土魔法はフィリップさんからこの前教えてもらったのですよ。とりあえず、紹介状を見てもらえませんか?」
「うるさい! 貴様らに…教皇等の言う事にもうだまされはしない! どうしても立ち去らないなら怪我をすることになるぞ!」

 男は頑なな態度を変えず、タケルの言う事に耳を貸そうとはしなかった。

 -かなりゆがんだ性格の人間のようだ・・・

「では、帰りますが、ここに紹介状を置いておきますね。繰り返しますけど、戦うために来たわけでは無いので・・・。ですけど、一つ教えてください」
「な、なんだ!?」
「あの土人形で我々を追い払うつもりだったのですか?」
「何!? 土の人形だと思ってバカにしているのか!? お前たちの剣や槍等は歯が立たないぞ!」

 タケルは戦いたかったわけでもないが、土人形の性能は確認しておくべきだと思った。

「そうですか・・・、でも、我々はこれと同じようなのを2体倒したことがありますよ。そいつはこれよりも強かったと思いますけどね」
「何をふざけたことを! ・・・そうまで言うなら、良いだろう。こいつの力を見せてやる!」

 男の言葉を受けて、土人形はタケル達に近づいて長い手を振り下ろそうとしてきた。タケルは何も言わなかったが、アキラさんとコーヘイが土人形の両側に回り込んで左右から風の拳と炎の刀で襲い掛かった。

 左足はアキラさんの拳で砕け、右足はコーヘイの炎の魔法剣で膝のあたりで斬り離された。両足を失った土人形は前のめりに倒れて、轟音を響き渡らせた。

「ば、バカな! 私の土人形が!?」 

 砂埃が舞う中で頑なな男は呆然と立ち尽くしていた。

「確かに土よりは硬いですが、岩を砕く拳があればこの程度なら簡単に倒せます。私たちは魔竜を倒すために修練を続けていますからね」
「魔竜を!? そんなはずは無い! 魔竜を倒せるのは真の勇者だけだ! 貴様らのような異世界の人間にドリーミアを救うことなどできるはずがないのだ!」

 土人形を破壊されても頑なな姿勢は変わらないようだった。この男はどうして、ここまで自説にこだわっているのだろうか?

「ところで、あなたが副司教のビジョンさんで良いんですよね?」
「そうだ・・・」

 こちらを睨みつける好戦的な態度は変わらなかったが、ようやくまともな会話が成立した。

「だったら、さっきから言っているように、まずはフィリップさんの紹介状を読んでもらえませんか? 読んでもらったら帰りますから」
「・・・わかった」

 タケルは笑顔を見せながらビジョンに歩み寄って、フィリップ司教から預かった紹介状を手渡した。

 ビジョンが紹介状を開いて読み始めると、紹介状をもつ手が震え出した。

「そ、そんな! 司教が・・・お前たちを認めたと言うのか!?」
「認めてくれたかは判りませんが、魔竜討伐に協力してもらえることになって、それで土魔法を教えてもらいました」
「さっき出したあの土壁がそうなんだな・・・、見ただけでできるようになると書いてあるが・・・」
「それは神様次第ですね。私はお願いするだけの男なので」
「・・・」
「それで・・・」
「・・・ダメだ!そんなことは認められない!」

 ビジョンは紹介状を破り捨ててタケルを指さした。

「魔竜を討伐するのは真の勇者でなければならない! その勇者はお前達ではダメなのだ!」
「さっきから真の勇者と言っていますが、その勇者は子供のころに亡くなったんでしょ?」
「うるさい! これ以上話すことは無い! この場からすぐに立ち去れ!さもなくば、今度は脅しでは無く、本気で貴様たちを葬るぞ!」

 ビジョンが怒鳴りながら地面に手を突くと、地面から石柱が何本もタケルの目の前に飛び出してきた。石柱の先端は尖っていて、当たれば大けがをしそうな形と勢いだった。ビジョンの興奮は激しく目が血走っている。

 -これ以上刺激すると逆効果だな・・・

「わかりました、今日のところは帰ります。また来ますから、そんなに興奮しないでください。今度来たら、土人形の使い方をおしえてくださいね」
「誰が貴様たちになぞ! ここへは二度と来るな! 今度来たら命の保証は出来ないと思え!」

 結局ビジョンとの面談は不首尾に終わり、タケル達は研究所の外に出た。外に出るとすぐにタケルが作った入り口は閉じられた。

「何で、あんなに我々を拒むんでしょうね?」
「さあね、真の勇者って何回も言っていたから、その辺りが関係しているんじゃないか?詳しい話は聞けなかったけど、勇者を再生させるのがこの研究の最終目標らしいからな」
「再生ねぇ・・・、死人を生き返らせるってことなんですか?何となく悪魔の所業のような気がしますけどね」

 タケルもコーヘイと同じような事を思っていた。新しい神と話せるようになっていたとフィリップが言っていたが、神と言うよりは・・・悪魔に近いのではないだろうか?このことは教皇と話した方が良さそうだな、それに教皇なら新しい神の事をなにか知っているかもしれない。だが、その前にフィリップの所へ行って、ビジョンの事を報告した方が良いだろう。

 タケル達は転移魔法を使ってバーンの町へと移動した。

 §

 土の研究所の中では一人になったビジョンが膝をついて涙を流していた。

 -まさか司教があのような者たちを信じるとは・・・
 -これまでの私の努力が・・・
 -いや、まだあきらめる訳にはいかないのだ、何としても真の勇者を・・・
 -やはり、神へこの命を捧げる日を早めるしかないだろう・・・

 ビジョンは涙が止まると、力なく立ち上がり、研究に使っている建物の中へと入って行った。

 -私の命で勇者が蘇るなら何度でも命を捧げます・・・、ネフロスの神よ!
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