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第5章
第173話 朝日で消滅寸前の悪役(ちょい※)
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「キルナ、起きろ」
眠った時間は0時を過ぎていた。朝5時。彼に起こされた僕は、まだ何が起きているかわからない。
体は鉛のように重たくって全然いうことを聞かない。
「朝ごはんは?」
「まだ…いらない……」
顔を洗って、トイレに行って……、歯磨き。たったそれだけのことをするのに何度も転びそうになる。
「大丈夫か? お前フラフラだぞ」
「……ん。だいじょぶ」
着替えを手伝ってもらって(ほぼ着替えさせてもらって)ランニングに出かける。走りやすいウエアをクライスが貸してくれようとしたのだけど、大き過ぎたから結局自分の体操服を着た。今度買いに行かなくっちゃ……
寮の外に出ると神々しい朝日が目に染みる。
(う、眩しい。なんか、僕、この光で消滅しちゃいそう)
そんなことをぼけーっと考えながら手を引かれるまま進む。
気がつくと、草の香りがする牧歌的風景の中に僕たちは立っていた。メイー牛(前世の牛と似ているのだけど色が、白黒じゃなくて、白とピンク)が、そこかしこでのんびりと朝露に濡れた草を食んでいる。
「ここが俺たちの毎朝走っているコースなんだが……」
「あ、キルナ様! おはようございます」
「今日はキルナちゃんも一緒なんですねぇ」
「昨日お疲れになったのに、今日ランニングなんて大丈夫なんですか?」
(う、何この爽やかでキラギラしいメンツ……まぶしっ)
ロイル、ノエル、ギアが次々に挨拶をしてくれる。僕は「おはよ。よろしくね……」と挨拶を返したけど、なんだかお腹に力が入らなくて、元気のない声になってしまった。
「俺はキルナと走るから。お前たちは先に行け」
はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ……。
前を走っているノエルやリオン、ロイルの後ろ姿を見ながら、とにかく必死に付いていくけど、一瞬で彼らの姿は見えなくなってしまった。
「クライス…僕のこと…ぜぇ…ぜぇ……置いていって、いいから……」
僕に合わせて走ってもらっているのが申し訳なくてそう言うのだけど、彼は首を横に振る。
そういえば、昨日も一人じゃ危ないとか言ってたな。だから一緒に居てくれてるのか。別に、ここは学園だし、大丈夫なのに。彼は心配性だからな……。
(よし、じゃあもっと頑張るしかない)
前を走る彼らには全然追いつけない。けど、クライスに迷惑をかけたくない。
頑張らなくちゃ。できるだけ速く。もっともっと速く。もっともっともっとーーー。
(あ、しまった。転ける!)
と思ったら、すっとクライスが腕を出して支えてくれた。
一度止まって体勢を立て直す。彼が水を飲め、と水筒を渡してきたけれど僕はいらない、と返した。休んでいる場合じゃない。またすぐに走らないと、彼らとの距離は広がるばかりだ。
「飲め。喉が乾く前にこまめに水分を摂れ」
「いい。いらない」
固辞していると彼がくいっと僕の顎を持ち上げ口を合わせた。
少しぬるい水が、喉に流れ込む。
(んっ、水だ。あ、おいし。ごくごく。僕、こんなに喉乾いてたんだ……。そういえば起きてから何も飲んでなかったな。)
と考えていると。またクライスが口を合わせてくる。
水……もっと欲しい……。
乾いた体が水分を得て、やっとぽやぽやしていた頭がはっきりしてきたのは、彼の腕に腰を抱かれながらちょうど唇を合わせている最中だった。
(ん? 何この状況!? 僕……口移しで水をもらっている?)
なんてこと!!!
ぴちゃ、ぴちゃ、じゅるっこくこくこくって……。
ひやぁあ!! 信じられないくらい恥ずかしい音がさっきから僕たちの間で鳴り響いている。しかもここは外だ。こんなの誰かに見られでもしたら……。
「ん、んく、……んはぁ」
とりあえず与えられた水を飲み干し、左右を見て誰も居ないことを確認し、僕は彼に向き直った。
「もうもうもう!! クライス何するの!?」
「ん? もう水はいらないのか?」
「え、あ、いらない。もう、だ、だいじょう…ぶ」
いっぱい言いたいことはあるのだけど、クライスがあんまり優しく笑うから何も言えなかった。
休憩を終え、僕たちは再び走り出した。
「キルナ、自分のペースで走ればいい。みんなに合わせようなんて考えなくていいから」
「でも……、はぁ、はぁ…」
足手まといになりたくなかった。
あいつのせいで、いつもみたいに走れないって、思われたくなかった。
ーークライスや、彼の学友たちに、幻滅されたくない。
「こんなペースじゃ……クライスの練習に…ならないでしょ。せっかく…こんなに朝早くに起…きて、練習時間をとって…いるのに。僕を置いて…先に行って……いいのに…はぁはぁ」
「いいんだ。俺は好きでキルナと走っているんだから気にするな。こうやって風景を眺めながら走るのも楽しい。ほら、見てみろ。ここは薬草園だ。お前の好きな植物がたくさん植えてある。花も咲いている。綺麗だろう?」
彼の言う通り、辺り一面に薬草が咲き乱れていた。花が咲くものもあるらしく、黄色やピンクの小さい花があちこちに咲いている。妖精たちもたくさんいて、楽しそう……ではある。
「ん…。そ…だね。ぜぇ、はぁ、ぜぇぜぇ」
いや、ほんと。疲れていなかったら最高の景色なんだと思うよ。だけど……
今はごめん。しんど過ぎて何も考えられないの!
眠った時間は0時を過ぎていた。朝5時。彼に起こされた僕は、まだ何が起きているかわからない。
体は鉛のように重たくって全然いうことを聞かない。
「朝ごはんは?」
「まだ…いらない……」
顔を洗って、トイレに行って……、歯磨き。たったそれだけのことをするのに何度も転びそうになる。
「大丈夫か? お前フラフラだぞ」
「……ん。だいじょぶ」
着替えを手伝ってもらって(ほぼ着替えさせてもらって)ランニングに出かける。走りやすいウエアをクライスが貸してくれようとしたのだけど、大き過ぎたから結局自分の体操服を着た。今度買いに行かなくっちゃ……
寮の外に出ると神々しい朝日が目に染みる。
(う、眩しい。なんか、僕、この光で消滅しちゃいそう)
そんなことをぼけーっと考えながら手を引かれるまま進む。
気がつくと、草の香りがする牧歌的風景の中に僕たちは立っていた。メイー牛(前世の牛と似ているのだけど色が、白黒じゃなくて、白とピンク)が、そこかしこでのんびりと朝露に濡れた草を食んでいる。
「ここが俺たちの毎朝走っているコースなんだが……」
「あ、キルナ様! おはようございます」
「今日はキルナちゃんも一緒なんですねぇ」
「昨日お疲れになったのに、今日ランニングなんて大丈夫なんですか?」
(う、何この爽やかでキラギラしいメンツ……まぶしっ)
ロイル、ノエル、ギアが次々に挨拶をしてくれる。僕は「おはよ。よろしくね……」と挨拶を返したけど、なんだかお腹に力が入らなくて、元気のない声になってしまった。
「俺はキルナと走るから。お前たちは先に行け」
はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ……。
前を走っているノエルやリオン、ロイルの後ろ姿を見ながら、とにかく必死に付いていくけど、一瞬で彼らの姿は見えなくなってしまった。
「クライス…僕のこと…ぜぇ…ぜぇ……置いていって、いいから……」
僕に合わせて走ってもらっているのが申し訳なくてそう言うのだけど、彼は首を横に振る。
そういえば、昨日も一人じゃ危ないとか言ってたな。だから一緒に居てくれてるのか。別に、ここは学園だし、大丈夫なのに。彼は心配性だからな……。
(よし、じゃあもっと頑張るしかない)
前を走る彼らには全然追いつけない。けど、クライスに迷惑をかけたくない。
頑張らなくちゃ。できるだけ速く。もっともっと速く。もっともっともっとーーー。
(あ、しまった。転ける!)
と思ったら、すっとクライスが腕を出して支えてくれた。
一度止まって体勢を立て直す。彼が水を飲め、と水筒を渡してきたけれど僕はいらない、と返した。休んでいる場合じゃない。またすぐに走らないと、彼らとの距離は広がるばかりだ。
「飲め。喉が乾く前にこまめに水分を摂れ」
「いい。いらない」
固辞していると彼がくいっと僕の顎を持ち上げ口を合わせた。
少しぬるい水が、喉に流れ込む。
(んっ、水だ。あ、おいし。ごくごく。僕、こんなに喉乾いてたんだ……。そういえば起きてから何も飲んでなかったな。)
と考えていると。またクライスが口を合わせてくる。
水……もっと欲しい……。
乾いた体が水分を得て、やっとぽやぽやしていた頭がはっきりしてきたのは、彼の腕に腰を抱かれながらちょうど唇を合わせている最中だった。
(ん? 何この状況!? 僕……口移しで水をもらっている?)
なんてこと!!!
ぴちゃ、ぴちゃ、じゅるっこくこくこくって……。
ひやぁあ!! 信じられないくらい恥ずかしい音がさっきから僕たちの間で鳴り響いている。しかもここは外だ。こんなの誰かに見られでもしたら……。
「ん、んく、……んはぁ」
とりあえず与えられた水を飲み干し、左右を見て誰も居ないことを確認し、僕は彼に向き直った。
「もうもうもう!! クライス何するの!?」
「ん? もう水はいらないのか?」
「え、あ、いらない。もう、だ、だいじょう…ぶ」
いっぱい言いたいことはあるのだけど、クライスがあんまり優しく笑うから何も言えなかった。
休憩を終え、僕たちは再び走り出した。
「キルナ、自分のペースで走ればいい。みんなに合わせようなんて考えなくていいから」
「でも……、はぁ、はぁ…」
足手まといになりたくなかった。
あいつのせいで、いつもみたいに走れないって、思われたくなかった。
ーークライスや、彼の学友たちに、幻滅されたくない。
「こんなペースじゃ……クライスの練習に…ならないでしょ。せっかく…こんなに朝早くに起…きて、練習時間をとって…いるのに。僕を置いて…先に行って……いいのに…はぁはぁ」
「いいんだ。俺は好きでキルナと走っているんだから気にするな。こうやって風景を眺めながら走るのも楽しい。ほら、見てみろ。ここは薬草園だ。お前の好きな植物がたくさん植えてある。花も咲いている。綺麗だろう?」
彼の言う通り、辺り一面に薬草が咲き乱れていた。花が咲くものもあるらしく、黄色やピンクの小さい花があちこちに咲いている。妖精たちもたくさんいて、楽しそう……ではある。
「ん…。そ…だね。ぜぇ、はぁ、ぜぇぜぇ」
いや、ほんと。疲れていなかったら最高の景色なんだと思うよ。だけど……
今はごめん。しんど過ぎて何も考えられないの!
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