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第5章
第244話 クライスSIDE プレゼント開封作業
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第一王子の誕生日パーティーから二週間が経とうとしていた頃、の深夜。
「ああ、まだ未開封のプレゼントがこんなに!!」
山のように積み上がった箱を見てロイルが嘆いている。それもそうだろう。王宮の一室が誕生日プレゼントで埋まっている。毎年これを片付ける作業には心底うんざりする。
やってもやっても終わらない作業に辟易しながら包装紙をガサガサと破いていると、ノエルがどこからかクッキーを出してきた。
「こんなところにクッキー見~つけた。そろそろ夜ご飯から随分時間が経つし、お腹すいた頃でしょ。食べてみるぅ? ギア」
なぜか一番遠くにいるギアの目の前にクッキーを運ぶノエル。迷惑そうにしているギアには悪いが、声をかける気力はない。インクを付け直し、宛名を書き、メッセージを書く。とにかく目の前のことを着実に終わらせなければ。
「いらん。その袋にある紋章、アークレー子爵家のキャルロッテという女の贈り物だろ? 香水臭くて化粧も濃くて…正直苦手なタイプだ」
「じゃあこれは? このカップケーキ、レイモンド男爵家の令息イルノの贈り物だよ」
「イルノ……あのなよなよした男…魔法学園の3年だったか? 素振りもまともにできないくせに補習もサボってクライス様のストーカーしてる男だろ? 不真面目な人間は嫌いだ」
「あはは、ギアは嫌いな人間が多すぎるよ~」
「ちなみに言うとお前が一番嫌いだ」
「クライス様はいかがですかぁ? 毒味ならギアがやりますよ」
ノエルの言葉に、俺は首を横に振った。
「いい。いらない」
「ですよね、クライス様は普段甘いものって食べないし。食べるのはキルナちゃんと一緒にいる時だけですもんねぇ」
ニヤニヤしているノエルを無視し、次のお礼状の文面を考える。
しばらく作業に集中していると、またしてもノエルが何かを見つけて騒ぎ始めた。
「ね~みてみて、このぬいぐるみ、レットルだよ。かわいい~!! あ~でもクライス様ってレットル好きでしたっけ?」
やたらと大きな包みの中から大きなぬいぐるみがのっそりと顔を覗かせている。キラキラ輝いている目や鼻は高価な宝石でできているようだが……これをどこに飾れというのだろう。
「嫌いだ。前に動物園に行った時、それを見たキルナが怯えてしまったからな」
巨大なレットルを見て自分のうしろに隠れ、ひしっと背中にしがみついてくる彼は可愛いかったな、と思い出す。
「へえ、キルナちゃんと動物園に行ったんですか~!? いいなぁ。僕も行きたかった」
ノエルは自分の背丈の二倍ほどもあるレットルのぬいぐるみに抱きつき、戯れ遊んでいる。ギアも長い棒を見つけて素振りのような動作をしている。
最初は黙々と仕事をしていた面々も、かれこれ二週間も同じ作業をしていると、煮詰まってきてなにかしら意味のない行動をせずにはいられなくなるようだ。
「動物園、楽しかったですか?」
リオンのまともな質問に、疲れのあまり何処かへとんでいきそうになっていた意識が正常に戻る。
「ああ、大分前の休日にキルナと弟のユジンと三人で行ったんだ。キルナは初めて目にした動物が怖くて泣いてしまったが、ふれあいコーナーにいたののんは気に入っていた。寝ているののんの腹を枕にキルナが寝てしまって、そのまま抱きかかえて寮に帰ったんだったな……」
「なるほど。それは可愛らしかったでしょうね。ならキルナ様の誕生日にはののんの形をした枕などがよいのでは?」
リオンは達筆な字で贈り物の目録を次々に完成させながら言った。
「そうだな。ふわふわした動物枕を抱きしめるキルナは可愛いに違いないが……」
キルナの頭を支える役目を果たすののんを想像すると、なんだか沸々と嫉妬心が込み上げてきた。
『羨ましいだろ~? この良い香りのする小さな頭はオレが愛情込めて一晩中支えてやるからな。お前はそこで指を咥えて見ていろ』と、ののん(枕)が優越感たっぷりの目をして見上げてくる図が頭に浮かぶ。
ーー面白くない。
「いや、やっぱり俺が腕枕をするから、そんな枕は必要ない」
キルナに腕枕をしてぎゅうっと抱きしめながら眠ることができたら、どれだけ幸せだろう。
朝になったらキルナに会える。あと少し、頑張ろう。
「早く手を動かせ、さっさと終わらせるぞ」
「「「はーい」」」
「ああ、まだ未開封のプレゼントがこんなに!!」
山のように積み上がった箱を見てロイルが嘆いている。それもそうだろう。王宮の一室が誕生日プレゼントで埋まっている。毎年これを片付ける作業には心底うんざりする。
やってもやっても終わらない作業に辟易しながら包装紙をガサガサと破いていると、ノエルがどこからかクッキーを出してきた。
「こんなところにクッキー見~つけた。そろそろ夜ご飯から随分時間が経つし、お腹すいた頃でしょ。食べてみるぅ? ギア」
なぜか一番遠くにいるギアの目の前にクッキーを運ぶノエル。迷惑そうにしているギアには悪いが、声をかける気力はない。インクを付け直し、宛名を書き、メッセージを書く。とにかく目の前のことを着実に終わらせなければ。
「いらん。その袋にある紋章、アークレー子爵家のキャルロッテという女の贈り物だろ? 香水臭くて化粧も濃くて…正直苦手なタイプだ」
「じゃあこれは? このカップケーキ、レイモンド男爵家の令息イルノの贈り物だよ」
「イルノ……あのなよなよした男…魔法学園の3年だったか? 素振りもまともにできないくせに補習もサボってクライス様のストーカーしてる男だろ? 不真面目な人間は嫌いだ」
「あはは、ギアは嫌いな人間が多すぎるよ~」
「ちなみに言うとお前が一番嫌いだ」
「クライス様はいかがですかぁ? 毒味ならギアがやりますよ」
ノエルの言葉に、俺は首を横に振った。
「いい。いらない」
「ですよね、クライス様は普段甘いものって食べないし。食べるのはキルナちゃんと一緒にいる時だけですもんねぇ」
ニヤニヤしているノエルを無視し、次のお礼状の文面を考える。
しばらく作業に集中していると、またしてもノエルが何かを見つけて騒ぎ始めた。
「ね~みてみて、このぬいぐるみ、レットルだよ。かわいい~!! あ~でもクライス様ってレットル好きでしたっけ?」
やたらと大きな包みの中から大きなぬいぐるみがのっそりと顔を覗かせている。キラキラ輝いている目や鼻は高価な宝石でできているようだが……これをどこに飾れというのだろう。
「嫌いだ。前に動物園に行った時、それを見たキルナが怯えてしまったからな」
巨大なレットルを見て自分のうしろに隠れ、ひしっと背中にしがみついてくる彼は可愛いかったな、と思い出す。
「へえ、キルナちゃんと動物園に行ったんですか~!? いいなぁ。僕も行きたかった」
ノエルは自分の背丈の二倍ほどもあるレットルのぬいぐるみに抱きつき、戯れ遊んでいる。ギアも長い棒を見つけて素振りのような動作をしている。
最初は黙々と仕事をしていた面々も、かれこれ二週間も同じ作業をしていると、煮詰まってきてなにかしら意味のない行動をせずにはいられなくなるようだ。
「動物園、楽しかったですか?」
リオンのまともな質問に、疲れのあまり何処かへとんでいきそうになっていた意識が正常に戻る。
「ああ、大分前の休日にキルナと弟のユジンと三人で行ったんだ。キルナは初めて目にした動物が怖くて泣いてしまったが、ふれあいコーナーにいたののんは気に入っていた。寝ているののんの腹を枕にキルナが寝てしまって、そのまま抱きかかえて寮に帰ったんだったな……」
「なるほど。それは可愛らしかったでしょうね。ならキルナ様の誕生日にはののんの形をした枕などがよいのでは?」
リオンは達筆な字で贈り物の目録を次々に完成させながら言った。
「そうだな。ふわふわした動物枕を抱きしめるキルナは可愛いに違いないが……」
キルナの頭を支える役目を果たすののんを想像すると、なんだか沸々と嫉妬心が込み上げてきた。
『羨ましいだろ~? この良い香りのする小さな頭はオレが愛情込めて一晩中支えてやるからな。お前はそこで指を咥えて見ていろ』と、ののん(枕)が優越感たっぷりの目をして見上げてくる図が頭に浮かぶ。
ーー面白くない。
「いや、やっぱり俺が腕枕をするから、そんな枕は必要ない」
キルナに腕枕をしてぎゅうっと抱きしめながら眠ることができたら、どれだけ幸せだろう。
朝になったらキルナに会える。あと少し、頑張ろう。
「早く手を動かせ、さっさと終わらせるぞ」
「「「はーい」」」
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