298 / 304
第8章
第434話 わんちゃんモードの悪役令息(ちょい※)
しおりを挟む
授業と補習とテスト勉強と魔法練習に明け暮れ、やっと迎えた週末。
学校がなくてみんながのんびりモードになっている今日も、クライスは相変わらずめちゃくちゃ忙しいらしい。大事な面会のお仕事を任されたから、日の出前に出発して、深夜に帰ってくるのだって。もう慣れたつもりだけどやっぱり寂しい……
けれど、午後、ロイルからうれしいお知らせがあった。
「本日のクライス様のご予定が変更になりました。午前中のうちに面会と報告が終わったので、これから戻ってくるそうです」
クライスが、帰ってくる? こんな早くに?
……う~ん、信じられない。
「どうせその後何か用事があるんでしょ」
帰ってきたとしてもすぐにまたどこかに出かけちゃって、会えるのはほんの数分だけ。というのがいつものパターンだ。早とちりしてうっかり喜ばないようにしないと。
そう予防線を張っていたのだけれど、ロイルは首を横に振る。
「いえ、本当は一日がかりの仕事になる予定だったので他に予定はなく、今日はそのまま部屋で過ごされるそうですよ」
「それって、クライスが今日一日このお部屋にいるってこと?」
「はい」
「どこにも行かずに?」
「はい」
「一緒に……過ごせるってこと?」
「はい、明日の朝までずっと一緒にいられますよ」
「や、やったあああああ!!!!」
予防線が崩壊したことで、飛び上がるほど喜んでしまう。ただ早く帰ってくるだけなのにこんなに浮かれちゃうっておかしいかな? でもでもいいよね。二人でゆっくり過ごせるのって本当に久しぶりなんだし。
せっかく帰ってくるんだからこうしてはいられない!
おいしいお菓子を作っておこう。冷蔵庫にバターとミルクはあったかしら。
いやでも、何を作るにしても今からじゃ間に合わないか。疲れてるだろうから甘いものを用意したいんだけどな。
そうだ! こないだリリーとテアにもらった『流れ星スコーン』があるからそれを出そう。これはココットタウンのティールーム『キラキラ星』の新作なのだって(外出禁止で遠出できない僕のために二人が買ってきてくれたの)
それと、プライマーの紅茶、たくさん飲んじゃったから、もう無いかもしれない。ストックがあったか見ておかないと。
それからそれから。好きな人と一緒に過ごす日は絶対この勝負パンツを履いていた方がいいよ~って師匠が白いショーツ(中央の大事な部分がなぜかぱっくり空いている)をくれたんだけど、ほんとかな? リリーがいうことだし、怪しい?
あれやこれやと悩みつつお菓子や飲み物の在庫を確認してダイニングの椅子に座り、また立ち上がってトイレでこっそり勝負パンツに履き替えソファに座り、もう一度部屋を見渡してどこも汚れてないことを確認する。
お部屋はちゃんと掃除してあるし、お菓子も紅茶もある。服は洗い立てのうさもこルームウェアを着ているし、歯も磨いた。あ、最後に寝癖のチェックしとこっ。
洗面台の鏡を見ると、毎日欠かさずオイルで手入れしてもらった髪はサラッサラで、寝癖は全くついてなかった。ロイルに変なところはないかと聞いてみても、「大丈夫です、大変可愛らしいですよ! わんちゃんみたいで」と言われ、そうかそうかそれならよかったと一瞬納得しかけて首を捻った。
(ん? わんちゃんみたい?)
「あ、それ、俺も思ってました! たしかに今のキルナ様って、ご主人様の帰りが間近に迫った時の子犬に似てますね。あ、すみません。もしかして子犬とか言うと失礼でしたか? あの、でも俺にとってはこれは最上級の褒め言葉でして。俺、実は昔から犬が大好きなんですよ! ご主人様に忠実なところが特に。俺の実家、モーク伯爵領ではたくさん犬を飼ってましてね、軍事用の犬の他に羊をまとめる牧羊犬やらペット用の犬やら。……あ、でも、犬も好きですが、猫も好きです。とくにあの自由気ままでマイペースなところが愛くるしくて。普段はつーんってすましているのに寂しくなると足元にうにょうにょまとわりついてくるところなんて可愛すぎて……あのギャップはもはや罪ですね!!」
なんのスイッチが入ったのか、普段そんなにおしゃべりなイメージがないギアが、やけに饒舌に話し出した。彼が動物好きだったことは発見だし、いつもならもっと詳しく聞きたいところだけど。でも僕は今それどころじゃない。
ギアが犬と猫好きだというお話はまた今度じっくり聞かせてもらうことにして、再び鏡を見る。
(えーっと、僕のどこがわんちゃんに似てるって? 鼻? 口?)
メフメフに似ているとは言われたことあるけど、子犬に似てるなんて言われたことないんだけど。きっと二人のジョークか何かだよね。僕があまりにも落ち着きがないから、和ませようとして言ってくれたんだよね。
しかし、疑いの目を持って鏡を見てみると、なんとそこには頬をピンクに染めて、目をキラキラさせて、鼻息が荒くて。見えない尻尾をぶんぶん振ってそうな自分がいた。
(やばい! ほんとだ!! ロイルとギアの言う通り、これじゃまるでご主人様の帰りを待ち侘びてるわんちゃんみたいだ。どうしよう)
本物のわんちゃんならひたすら可愛いけど、僕がそんなになってたって、気持ち悪いだけだ。仕事で疲れて帰った部屋に鼻息の荒い婚約者が待ってたら、どんな人だって間違いなくドン引きするよね。最悪「あ、やっぱり用事ができた」とか言ってどこかに出かけちゃうかも。
深呼吸して落ち着こう、ふー、ふー。火照った顔も冷やして、と。
冷たい水でばしゃばしゃ顔を洗って気持ちを切り替える。
(ふう、よし。これでいつもの態度で出迎えられそう)
「もうそろそろかな」
「そうですね。連絡がきてから30分ほど経ってますし、直に帰ってくると思いますよ」
「そっか」
その後も短時間のうちに何度も何度も時間を尋ね、バタバタそわそわする僕をギアとロイルはなんというか、母性みたいなのが溢れる目で見ている気がする。う~やっぱりお出迎えわんちゃんモードが抜けてないのかもしれない。もう一度顔を洗った方がいいんじゃ。
あと、やっぱりイベントがあるわけでもなんでもない日に穴あきの勝負パンツはさすがにやりすぎかな……と思い直して、シンプルなパンツに履き替えようと立ち上がったその時、
ガチャっとドアを引く音が聞こえた。
学校がなくてみんながのんびりモードになっている今日も、クライスは相変わらずめちゃくちゃ忙しいらしい。大事な面会のお仕事を任されたから、日の出前に出発して、深夜に帰ってくるのだって。もう慣れたつもりだけどやっぱり寂しい……
けれど、午後、ロイルからうれしいお知らせがあった。
「本日のクライス様のご予定が変更になりました。午前中のうちに面会と報告が終わったので、これから戻ってくるそうです」
クライスが、帰ってくる? こんな早くに?
……う~ん、信じられない。
「どうせその後何か用事があるんでしょ」
帰ってきたとしてもすぐにまたどこかに出かけちゃって、会えるのはほんの数分だけ。というのがいつものパターンだ。早とちりしてうっかり喜ばないようにしないと。
そう予防線を張っていたのだけれど、ロイルは首を横に振る。
「いえ、本当は一日がかりの仕事になる予定だったので他に予定はなく、今日はそのまま部屋で過ごされるそうですよ」
「それって、クライスが今日一日このお部屋にいるってこと?」
「はい」
「どこにも行かずに?」
「はい」
「一緒に……過ごせるってこと?」
「はい、明日の朝までずっと一緒にいられますよ」
「や、やったあああああ!!!!」
予防線が崩壊したことで、飛び上がるほど喜んでしまう。ただ早く帰ってくるだけなのにこんなに浮かれちゃうっておかしいかな? でもでもいいよね。二人でゆっくり過ごせるのって本当に久しぶりなんだし。
せっかく帰ってくるんだからこうしてはいられない!
おいしいお菓子を作っておこう。冷蔵庫にバターとミルクはあったかしら。
いやでも、何を作るにしても今からじゃ間に合わないか。疲れてるだろうから甘いものを用意したいんだけどな。
そうだ! こないだリリーとテアにもらった『流れ星スコーン』があるからそれを出そう。これはココットタウンのティールーム『キラキラ星』の新作なのだって(外出禁止で遠出できない僕のために二人が買ってきてくれたの)
それと、プライマーの紅茶、たくさん飲んじゃったから、もう無いかもしれない。ストックがあったか見ておかないと。
それからそれから。好きな人と一緒に過ごす日は絶対この勝負パンツを履いていた方がいいよ~って師匠が白いショーツ(中央の大事な部分がなぜかぱっくり空いている)をくれたんだけど、ほんとかな? リリーがいうことだし、怪しい?
あれやこれやと悩みつつお菓子や飲み物の在庫を確認してダイニングの椅子に座り、また立ち上がってトイレでこっそり勝負パンツに履き替えソファに座り、もう一度部屋を見渡してどこも汚れてないことを確認する。
お部屋はちゃんと掃除してあるし、お菓子も紅茶もある。服は洗い立てのうさもこルームウェアを着ているし、歯も磨いた。あ、最後に寝癖のチェックしとこっ。
洗面台の鏡を見ると、毎日欠かさずオイルで手入れしてもらった髪はサラッサラで、寝癖は全くついてなかった。ロイルに変なところはないかと聞いてみても、「大丈夫です、大変可愛らしいですよ! わんちゃんみたいで」と言われ、そうかそうかそれならよかったと一瞬納得しかけて首を捻った。
(ん? わんちゃんみたい?)
「あ、それ、俺も思ってました! たしかに今のキルナ様って、ご主人様の帰りが間近に迫った時の子犬に似てますね。あ、すみません。もしかして子犬とか言うと失礼でしたか? あの、でも俺にとってはこれは最上級の褒め言葉でして。俺、実は昔から犬が大好きなんですよ! ご主人様に忠実なところが特に。俺の実家、モーク伯爵領ではたくさん犬を飼ってましてね、軍事用の犬の他に羊をまとめる牧羊犬やらペット用の犬やら。……あ、でも、犬も好きですが、猫も好きです。とくにあの自由気ままでマイペースなところが愛くるしくて。普段はつーんってすましているのに寂しくなると足元にうにょうにょまとわりついてくるところなんて可愛すぎて……あのギャップはもはや罪ですね!!」
なんのスイッチが入ったのか、普段そんなにおしゃべりなイメージがないギアが、やけに饒舌に話し出した。彼が動物好きだったことは発見だし、いつもならもっと詳しく聞きたいところだけど。でも僕は今それどころじゃない。
ギアが犬と猫好きだというお話はまた今度じっくり聞かせてもらうことにして、再び鏡を見る。
(えーっと、僕のどこがわんちゃんに似てるって? 鼻? 口?)
メフメフに似ているとは言われたことあるけど、子犬に似てるなんて言われたことないんだけど。きっと二人のジョークか何かだよね。僕があまりにも落ち着きがないから、和ませようとして言ってくれたんだよね。
しかし、疑いの目を持って鏡を見てみると、なんとそこには頬をピンクに染めて、目をキラキラさせて、鼻息が荒くて。見えない尻尾をぶんぶん振ってそうな自分がいた。
(やばい! ほんとだ!! ロイルとギアの言う通り、これじゃまるでご主人様の帰りを待ち侘びてるわんちゃんみたいだ。どうしよう)
本物のわんちゃんならひたすら可愛いけど、僕がそんなになってたって、気持ち悪いだけだ。仕事で疲れて帰った部屋に鼻息の荒い婚約者が待ってたら、どんな人だって間違いなくドン引きするよね。最悪「あ、やっぱり用事ができた」とか言ってどこかに出かけちゃうかも。
深呼吸して落ち着こう、ふー、ふー。火照った顔も冷やして、と。
冷たい水でばしゃばしゃ顔を洗って気持ちを切り替える。
(ふう、よし。これでいつもの態度で出迎えられそう)
「もうそろそろかな」
「そうですね。連絡がきてから30分ほど経ってますし、直に帰ってくると思いますよ」
「そっか」
その後も短時間のうちに何度も何度も時間を尋ね、バタバタそわそわする僕をギアとロイルはなんというか、母性みたいなのが溢れる目で見ている気がする。う~やっぱりお出迎えわんちゃんモードが抜けてないのかもしれない。もう一度顔を洗った方がいいんじゃ。
あと、やっぱりイベントがあるわけでもなんでもない日に穴あきの勝負パンツはさすがにやりすぎかな……と思い直して、シンプルなパンツに履き替えようと立ち上がったその時、
ガチャっとドアを引く音が聞こえた。
480
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。