なんか違う? と思ったら兄弟の中で自分だけ人間だった話

日色

文字の大きさ
9 / 11
第一章

第9話 吸血禁止のパーティー②

しおりを挟む
 辿り着いた先は、リドリー侯爵のお屋敷だった。
 とても立派で、ニンゲンはこんな綺麗なところに住んでいるんだなあと感心する。
 ただ、全てがキラキラ眩しくて、明るくて、薄暗い屋敷に慣れている僕には眩しすぎる気がする。

(やっぱり吸血鬼にはこんなたくさんの明かりは必要ないよね。お兄様たちもなんだか眩しそうにしているし……)

 でもしばらくすると、すぐに目が慣れてきた。
 明るい光の元で見る兄様たちはいつもよりはっきり見えてより神々しい。ふむ、こうなってくると明るい光というのも悪くないような。

「アーシュ、なんて顔をしているの? 目が蕩けそうになってるじゃないか」

 リエル兄様に笑われて、はっと顔を俯ける。しまった、せっかくパーティーに来たのに、お兄様たちのお顔ばかり見つめている場合じゃなかった。しっかりニンゲンの世界を観察しないと。

 ところが、急いで会場を見回すも、人、人、人だらけで、会場の様子なんてほとんどわからなかった。
 膨らんだドレスや紳士の広い背中に邪魔され、どこに何があるのか全く見当もつかない。
 そんな僕にリエル兄様が「あっちに軽食コーナーがあるよ。人間はお菓子が好きだからアーシュが気に入るものもあるんじゃないかな」と教えてくれた。

 人混みの隙間からお兄様が指し示す先を見てみると、机の端から端まで、食べきれないほどのお菓子が並んでいる。

(あれがニンゲンのお菓子)

 どれも最高においしそうだけど、一番手前に見えるケーキの断面に目が釘付けになる。

(どうなってるの? 大好きなクレープの上にクレープが重なって、え、間にクリームが挟まって、さらにその上にまたクレープ? そんなミラクルなことが……)

「……シュ、アーシュ、そろそろ挨拶回りに行かなくちゃ」
「は、はい!」

 やばい、夢中になりすぎていたみたいだ。
 リエル兄様に肩を揺すられ、何度もお兄様に名前を呼ばれていたことにやっと気づいた。

「アーシュ。食事はご挨拶が終わってからだよ」

 お父様にも窘められて、僕は無理やり視線をミラクルなお菓子から外した。

(ご挨拶が終わったら食べよう。絶対!)

 
 それから僕はお父様につれられ会場を歩き回りながら、お兄様たちの後に続いて自己紹介をした。「はじめまして」と言ってぺこりとお辞儀して「アーシュ=ノアールです」と名前を言う。ひたすらそれの繰り返し。

 何か気の利いたことを言わなければならなかったらどうしよう……と最初は緊張していたけれど、そんな心配は無用だった。

 兄弟の中で飛び抜けて陰が薄い僕に関心を持つ人間はいないらしく、それさえ済めばすぐに大人の話に移っていく。
 だから挨拶自体はそんなに難しいことじゃない。

 そんなことよりもしんどかったのは、僕がノアール伯爵家の末っ子で、ルカが知り合いの子、とわかった時に一瞬見せる大人たちの意外そうな表情。
 まあ、そうだよね。美形揃いの兄弟の末っ子には、地味な僕よりルカの方がふさわしいと思うのは当然だ。

(気にしない、気にしない)

 すうっとゆっくり息を吸って、吐いて。
 ざわざわする気持ちを押し込める。こんなのはいつものことだ。

 ノアール伯爵家のお屋敷の使用人は古くからいる人がほとんどだけど、時たま新人が入ってくる。その中には僕が末っ子なのだと気づかずに、ひどい態度を取ってくる人もいる。

 他の家族のように銀の髪も、赤い目も持たない自分は、パッと見ただけではこの家の子だとわからないんだ。

 ーー僕は家族に似ていない。

 その感覚を何度も味わわされるこの時間は正直苦手かもしれない。

(でも大丈夫、耐えられる。やっと一緒にパーティーに来られたんだから、楽しまなくちゃ)

 嫌な表情は見なければいい。
 微妙な間は聞こえないことにすればいい。

 心を隠すように僕は作った笑顔を顔に貼りつけた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

推し変したら婚約者の様子がおかしくなりました。ついでに周りの様子もおかしくなりました。

オルロ
BL
ゲームの世界に転生したコルシャ。 ある日、推しを見て前世の記憶を取り戻したコルシャは、すっかり推しを追うのに夢中になってしまう。すると、ずっと冷たかった婚約者の様子が可笑しくなってきて、そして何故か周りの様子も?! 主人公総愛されで進んでいきます。それでも大丈夫という方はお読みください。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

処理中です...