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鮮度抜群な料理を召し上がれ

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気味の悪い、背の高い宇宙人たちが地球にやってきた。

日本のS県へと突然舞い降りた彼らは、我が国から手厚い歓迎を受けた。
彼らは礼儀正しく、言葉使いは丁寧で、日本語を学んでいた。

到着した当初、彼らは非常に丈夫で働き者の家畜を日本に送った。
全く凶暴性はなく、妙な見た目をしていたが、ユーモラスで人懐こく、面白い家畜だった。

そして、日本はお返しとばかりに、我々にもなじみ深い国産のペットをプレゼントした。
宇宙人たちはたいそう喜んだ。

「なんですか!この四つ足の奇妙で面白い生物は!感謝いたしますよ」
宇宙人は興奮気味にそう言っていた。

そして、彼らは日本の食事が知りたいと言い出し、政府要人は色めき立った。

「日本の最高級料理を味わっていただかないといけない」

そして、政府の根回しでS県に所在する老舗料亭が選ばれたのだった。

だが、ひとつ懸念があり、宇宙人たちは言っていた。

「ありがたいのですが、我々食文化には非常にデリケートです。調査できればいいだけで、食べなくてもよいのです。失礼があったらいけません、それでもいいですか?」

彼らの「デリケート」という点は何度聞いても解明できなかった。

世論は
「触らぬ神に祟りなし」として食事会を見送る派と、「残してもらってもいいから、とりあえず歓待すべし。でないと日本の沽券にかかわる」として食事会をせよ派で二分した。

結局、もてなそうということで、食事会は開かれることとなった。

鮮度抜群な刺身、寿司、から揚げ…様々な料理が運ばれ、マスコミや要人たちは宇宙人たちを取り囲んでいた。

ペットを送って大喜びしたほどだ。
日本料理のすばらしさに、舌を巻くことだろう‥‥

料理長は誇らしげに言った。
「日本の美を結集した、鮮度抜群の料理です。どうぞご賞味くださいませ」


だが、宇宙人は冷ややかに言った。
「非常にいただけませんな」宇宙人は一口食べて、箸を置いた。「なんですかこれは。全く新鮮ではない。死んだ魚類を切って並べたもの。こんな四角形に揃えて、階段のように並べて盛り付ける必要がありますか?非常に猟奇的です」

宇宙人の変貌ぶりに、日本人たちは唖然とした。

宇宙人は寿司を指していった。
「うわあ、これはひどい。ふくらした穀物に酸味を付けて、その上にまた四角い魚類の死骸を載せてるとは・・・地球人の趣味には閉口を禁じえません。これに腐敗した豆類のエキスを付けて食べろって?冗談じゃない」

から揚げをつまみ上げ言った。
「これは…なんと気味の悪い。薄気味悪い鳥類の死骸を細切れにして、穀物の粉をまぶして、油で焼く?ちょっと何がしたいのか理解できませんな」

宇宙人の悪口は止まらなかった。

聞いていて、腹が立ってくる日本人もいたほどだ。

それだけ彼らはこと食文化に関しては多様性とは無縁なのかもしれない。

宇宙人は言った。
「地球の皆さん。我々はですね…そもそも死骸を食べたりはしません。申し訳ありませんが」

日本の要人は言った。
「残念です、これぞ文化の違いというものでしょう」

そして、宇宙人はフォローするように言った。
「しかし、地球の方々も、我々と同じように食するものがあります。『すっぽん』料理ですね。あの爬虫類は生きたまま調理され、心臓が動いた状態で食べたりされるでしょう?我々も基本的には生きたものしか食べないのです」

日本人たちは唖然とした。
確かにすっぽんはそのような食い方はするが…生きたままのものしか食べないとは。

宇宙人は朗らかに言った。
「そこで、皆さんにぜひ、真のおいしさを知ってもらおうと料理を用意しました!皆様、これを食べればもう死骸なんて食べる気がうせますよ」

宇宙人の手下たちが何かを持ってきた。

それは、先般地球がおくりものとして渡したペットだった。
怯えて皿の上でうずくまっている。

よく見ると、お腹に機械が付いている。

「それは我々が送ったペットではないか!」日本の要人が叫んだ。

「そうなんです。あんまり奇妙でしたが、筋肉量など体組成を見ると中々おいしそうでしたのでね」
と宇宙人「いや、素晴らしいものを頂けましたよ」

日本人たちは愕然とした。
人から送られた動物を調理してしまうのか。

だが、まだ生きていそうだ。

宇宙人は言った。
「このお腹についている機械は人工心肺です。マイクロ解体装置を仕込んでいますので、私がボタンを押せば、直ぐに食べられる状態になりますよ。そして、できるだけ生きながらえつつ、鮮度抜群で食べることができるんです。素晴らしいでしょう?」

日本人たちは一様に青ざめた。


宇宙人は笑顔を見せ、高らかに手を掲げた。
「それではボタンを押しますね…いただきまーす!」
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