【怖い話】さしかけ怪談

色白ゆうじろう

文字の大きさ
75 / 104

カヤの中 後編

しおりを挟む
ばさばさとカヤを切っていくが、安全な作業ではない。

密集したカヤは、鎌を操るFさんの手に切りかかってくる。
カヤを軍手でつかむが、軍手ごと手のひらを薄く切られた。
カヤの束を切る度、バッタや名も知らぬ虫、毛虫の類が顔や首筋に飛んでくる。
Fさんは不快さに耐え、ひたすらカヤに向かっていた。

何時間もカヤを切っていく。

周囲は段々と薄暗くなってくる。
空気はひんやりとして、うすら寒い。
だが、吐き気を催すような腐臭は、以前強いままだ。
Fさんがカヤを切る度に、においは強くなっていく。

カヤの中に何かがいるんだ。
もしかしたら、何かが腐っているんじゃないだろうか。
猫やタヌキの死骸とか、薄気味悪いものが……。

ふいにFさんの頭に
「それ以外だったらどうする?」
という言葉が思い浮かんだ。
それ以外?
動物以外何があり得ると言うんだ。

Fさんの背筋は寒くなり、手は震えはじめた。
異様なまでのこの腐臭。
もし、「それ以外」だったら……。

最も強く臭うあたりをカヤで切ったとき、それは現れた。
小さな子どもほどの大きさだった。
何も着ておらず、肌は灰色に変色し、完全に乾燥しきっている。
頭は子供のようであり、口を開けた表情をしている。
犬歯が長くとがっており、目は白濁して、なぜかゼリー状になっている。

一瞬、Fさんは子どもの死骸かと思った。
だが、よく見ると違う。
腕は人間より長く、サルのようでもある。
下半身は、人とは全く違って、犬のような、四つ足の生き物の脚をしていた。

ゼリー状の目以外は、カラカラにミイラ化している。
だが、漂う湿った腐臭は紛れもなくここからだった。
Fさんはゾッとした。
生きてきた中で、こんな生物は見たことがなかった。
人の顔のようで、サルの腕、犬の脚をもつ生き物……
長い間放置した裏庭に、こんなものが眠っていたとは。

Fさんは念のため、保健所や警察に問い合わせた。
各々時間をかけて調べては「何かの動物でしょうね」と言っていた。

結局Fさんのもとに、保健所が市に手配して焼却場の職員が引き取りに来た。
動物の死骸として引き取るとのことだった。

しばらくして、緑色の市名が入った軽トラがやってきた。
降りて来たのは焼却場の老齢職員だった。

老齢職員はミイラを見るなり言った。
「おお、こりゃすごい。これはわしが子どもの時によく聞いていた妖怪にそっくりだよ。」

「妖怪?」

「ああ。ほったらかしの人の庭に隠れるんだ。生け垣とか、藪とかな。そして、そのまま死んじまうんだ。死んじまうと、その家の幸運を全部吸い取って、不幸をばらまくんだよ。そんなおとぎ話があったんだ」

「なんのために?」青ざめた顔でFさんが聞く。

「その家の人を恨む人が生み出すんだとよ。あんた、だれかから恨みを買ってたんじゃないのか」老齢職員は笑った。「一応、気味悪いからわしが知っている寺に参ってから、焼くよ。すごいにおいだな、しかし」

老齢職員はミイラを軽トラの荷台に放り込んだ。
彼は、直ぐに運転席に乗り込み、そのまま去って行った。

それからというもの、Fさんは再就職先が見つかり、復職した。
旧知の取引先が声をかけてくれたのだ。

Fさんの妻も無茶な仕事を辞め、穏やかな日々に戻った。
今は、献身的に夫を支えている。

高校生の娘も、笑顔を絶やさず、Fさんとよく関わるようになった。

Fさんは、つらい経験があったからこそ、家族を大事にして、家事や庭掃除は欠かしてないという。

「若い頃、強引な仕事をしてましたからね。パワハラや恫喝上等みたいな……ギリギリそんな時代でしたからね。恨みを買った覚えも沢山ありますよ」

彼はそう話しつつ、今回の事で懲りたという。
家族にも、仕事仲間にも、Fさんは思いやりを持って接しているという。

あなたは仕事や、私事で、人に恨みを買った覚えはないだろうか。
そして、あなたの家の裏庭、鉢植え、生け垣など……放ったらかしになっていないだろうか。

一度あなたの家の「カヤ」を覗いてみるといいかもしれない。
いつまでも目を背けていると、カヤの中に潜むものに気づけなくなってしまうから……

【おわり】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...