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事故歴
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20代パパEさんの話
Eさんは念願だったファミリーカーを手に入れた。
二人目の子どもが生まれ、今までEさんが持っていた車では手狭になったのだった。
Eさんはオフロードカーが好きで、軽四のオフロード車に乗っていた。
タイヤを大きなものに変えたり、オリーブ色のつや消し塗装を施し、シャーシやスプリングを補強して、カンガルーバーを付けたりしていた。
とにかくお金をかけていた。
そんな大切なオフロード車を泣く泣くマニアに譲り、そのお金で安いファミリーカーを購入したのだった。
老人が営む零細車店から購入した。
店先に放置された古いファミリーカーが破格の値段だったからだ。
老人は「うんと安くするから」と気味悪く笑っていた。
「事故車じゃないでしょうね」とEさん。
「違うよ、事故歴もないですから」と老人は言った。
Eさんとしては、安く手に入って非常に喜んでいた。
だが、家族の反応はイマイチだった。
息子は「なんかその車いやだ」と乗りたがらない。
「変な車売って、早くファミリーカー買ってよ!あのクソ車高の高いオフ車に乗ろうとするたび、道行くキモいおっさん達が私のお尻を眺めてるの、あんた知らないの?」と口うるさく言っていた妻ですら「なんか、古いし……不気味なんだよね」と乗ろうとしない。
Eさんは内心憤慨していた。
大切なオフロードを売ってまで手に入れたというのに。
古びて、薄汚いから家族はそういうのだろう。
Eさんは思い切って洗車することにした。
古ぼけたファミリーカーに水を浴びせ、砂を落とす。
泡だらけにして、丁寧に車体を磨いた。
もともとくすんだような色だが、汚れを落としてワックスを何度もかければ……少しは見てくれも良くなるはずだ。
Eさんは再び水を出して、車の泡を落とした。
大量の水が泡を載せて洗車場のコンクリート地を滑っていく。
水と泡に、赤色が混じっているのに気づいた。
まるで、シャワーを浴びている時に鼻血を出してしまったように、泡と水に混じって赤い液体も流れていく。
Eさんはギョッとして、車を四方見回す。
なにも異常はない。
だが、タイヤのそばに目をやったとき、赤色が車底部から流れ出ているのを見かけた。
「うわ……ひょっとして動物でも轢いたか?何も気づかなかったが」
Eさんは慌てて、膝をつき、身をかがめて車の底をのぞいた。
車の底が作る、鉄の迷路と暗闇の中に、人の顔があった。
血染めになって、目を剥いて、Eさんの方を向いていた。
Eさんは悲鳴を上げて飛びのいた。
周りで洗車をしていた人が集まってきた。
「人の頭が!車の下に!」
Eさんが叫ぶ。
周りの人間も身をかがめて覗き込む。
「何にもいませんよ」
のぞいた人々は言った。
よく見ると、地面を流れる液体も、白い泡と透明な水の他、なにも混じっていなかった。
Eさんは気味が悪いので、近所の神社に車払いを受けに行った。
そこの職員が言った。
「ようこそお参りくださいましたね。この車、多分人を轢いてます」
無表情で言う職員に、Eさんは愕然とした。
職員は続ける。
「わたし職業柄霊感が強くてね。車の底ですね。へばりついてますよ……。一応お祓いはしますが、心配なら買い替えた方が良いですよ」
Eさんは一応お祓いは受けたが、直ぐに車を売り払って、別の車を購入した。
Eさんは老人の車店で「事故歴がない」と言われたことに納得がいかなかった。
別の車店で聞いた話、事故歴は「車の骨折」……つまりパネルやフレームが曲がるような大きな破損にならない限り、該当しないこともある。
歩行者を轢いただけで、骨格が壊れてないなら、事故歴も残ってなかったのでは……という話だった。
【おわり】
Eさんは念願だったファミリーカーを手に入れた。
二人目の子どもが生まれ、今までEさんが持っていた車では手狭になったのだった。
Eさんはオフロードカーが好きで、軽四のオフロード車に乗っていた。
タイヤを大きなものに変えたり、オリーブ色のつや消し塗装を施し、シャーシやスプリングを補強して、カンガルーバーを付けたりしていた。
とにかくお金をかけていた。
そんな大切なオフロード車を泣く泣くマニアに譲り、そのお金で安いファミリーカーを購入したのだった。
老人が営む零細車店から購入した。
店先に放置された古いファミリーカーが破格の値段だったからだ。
老人は「うんと安くするから」と気味悪く笑っていた。
「事故車じゃないでしょうね」とEさん。
「違うよ、事故歴もないですから」と老人は言った。
Eさんとしては、安く手に入って非常に喜んでいた。
だが、家族の反応はイマイチだった。
息子は「なんかその車いやだ」と乗りたがらない。
「変な車売って、早くファミリーカー買ってよ!あのクソ車高の高いオフ車に乗ろうとするたび、道行くキモいおっさん達が私のお尻を眺めてるの、あんた知らないの?」と口うるさく言っていた妻ですら「なんか、古いし……不気味なんだよね」と乗ろうとしない。
Eさんは内心憤慨していた。
大切なオフロードを売ってまで手に入れたというのに。
古びて、薄汚いから家族はそういうのだろう。
Eさんは思い切って洗車することにした。
古ぼけたファミリーカーに水を浴びせ、砂を落とす。
泡だらけにして、丁寧に車体を磨いた。
もともとくすんだような色だが、汚れを落としてワックスを何度もかければ……少しは見てくれも良くなるはずだ。
Eさんは再び水を出して、車の泡を落とした。
大量の水が泡を載せて洗車場のコンクリート地を滑っていく。
水と泡に、赤色が混じっているのに気づいた。
まるで、シャワーを浴びている時に鼻血を出してしまったように、泡と水に混じって赤い液体も流れていく。
Eさんはギョッとして、車を四方見回す。
なにも異常はない。
だが、タイヤのそばに目をやったとき、赤色が車底部から流れ出ているのを見かけた。
「うわ……ひょっとして動物でも轢いたか?何も気づかなかったが」
Eさんは慌てて、膝をつき、身をかがめて車の底をのぞいた。
車の底が作る、鉄の迷路と暗闇の中に、人の顔があった。
血染めになって、目を剥いて、Eさんの方を向いていた。
Eさんは悲鳴を上げて飛びのいた。
周りで洗車をしていた人が集まってきた。
「人の頭が!車の下に!」
Eさんが叫ぶ。
周りの人間も身をかがめて覗き込む。
「何にもいませんよ」
のぞいた人々は言った。
よく見ると、地面を流れる液体も、白い泡と透明な水の他、なにも混じっていなかった。
Eさんは気味が悪いので、近所の神社に車払いを受けに行った。
そこの職員が言った。
「ようこそお参りくださいましたね。この車、多分人を轢いてます」
無表情で言う職員に、Eさんは愕然とした。
職員は続ける。
「わたし職業柄霊感が強くてね。車の底ですね。へばりついてますよ……。一応お祓いはしますが、心配なら買い替えた方が良いですよ」
Eさんは一応お祓いは受けたが、直ぐに車を売り払って、別の車を購入した。
Eさんは老人の車店で「事故歴がない」と言われたことに納得がいかなかった。
別の車店で聞いた話、事故歴は「車の骨折」……つまりパネルやフレームが曲がるような大きな破損にならない限り、該当しないこともある。
歩行者を轢いただけで、骨格が壊れてないなら、事故歴も残ってなかったのでは……という話だった。
【おわり】
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