異世界転生してもモブキャラ勢三人が安酒をあおって愚痴を語る話

色白ゆうじろう

文字の大きさ
1 / 1

異世界転生してもモブキャラ勢三人が安酒をあおって愚痴を語る話

しおりを挟む
異世界に飛ばされて2年が経った。

うだつが上がらない転生者三人が、酒場の隅の席で、ぼそぼそとしゃべっている。
転生者が最初に過ごすこととなる、小さな町だ。
その中の小さな酒場。

安い蒸留酒を、炭酸で割ったものを飲んでいる。

懐がさみしいからだ。

「二太、お前さ。『無限インベントリ』ってすごいスキルがあるんだからさ、積極的に強いパーティーに入っていけばいいじゃん」
三人のうちのひとり、一郎が言った。
「無限インベントリって、アイテム収集にいいしさ。皆が欲しがるだろ」

「おれの『無限インベントリ』は、重量は考慮されないんだ…。だから、結局めっちゃ重くなる。インベントリはいいんだけど、俺自身が持てなくなる。」二太が首を振る「俺、『力』は最低値なんだよ」

二太が落ち込み、微妙な空気。三夫が口を開く
「あの、一郎のテイマースキルもいいじゃん。一度に何匹も下等モンスターなら連れていけるんだろ?」

一郎は首を振る。
「仕えてる侯爵様が、モンスター嫌いなんだ。絶対に連れて帰るなと。育成ができない」

二太が言う
「それじゃ冒険出れないじゃん」

一郎が答える
「それが‥侯爵様が厩係で雇ってくれてるんだ。馬なら襲ってこないし、かわいいしさ。それだけで何不自由ない給料は貰えてるんだもの。冒険に出る理由がなあ‥‥」

二太がはっとして言う。
「そうだ、三夫!お前こそ最強のスキルじゃん!モンスターの技や特性をコピーできるんだろ?何て言ったっけ」

「ラーニング」三夫が言う。「でも、その分『縛り』がある。おれがその技で『殺される』ことが発動条件なんだ。だから、蘇生されてからなんだ。技が使えるのは。一応『不死』のスキルもあるんだ」

一郎が叫んだ「最強じゃん!」

三夫が怒鳴った「簡単に言うな!お前、殺されるのがどれだけ苦しくて痛いか知らねえだろ…。そりゃ一度だけ試したよ。俺だって、異世界で成功したかったしな。でもな、心臓を剣で一突きされて…その時の焼けるような痛み、弱くなっていく心臓の鼓動、呼吸のできない苦しみ、襲い来る死の恐怖…今まで経験したどんなことよりも怖かった。だからもうできない」

一郎は謝った。
「ごめん…そんな苦しみがあったとは…死ぬって、そうだよな。で、それでどんな技を覚えたんだ?」

三夫が呟いた
「ガイコツ突き。股関節を外して踏み込む、少しだけ間合いの長い突き技」

二太が吹き出して、直ぐに下を向く。

三夫が怒鳴る「笑ったな?!今!」

一郎「剣持ちガイコツか。おれでもテイムできる下等魔族じゃん・・・」

三夫が大声で言う
「うるさい!とにかく、それ以来おれはトラウマで、ダンジョンに入ろうにも足がすくんで入れない。たぶん、トラウマ的な病気なんかだと思う。無理なんだ」

三人は一緒に肩を落とした。
異世界転生した時はこんなはずではなかった。
自分のスキルこそ最強だと信じた。

はじめこそ努力の日々だった。

だが、いつの間にやら自分たちは町民らと変わらない生活をしている。
うだつが上がらない毎日

最後にダンジョンへ行ったのは何カ月前だったろうか。

彼らは6人で転生してきた。
彼ら3人はこの調子だが、一方の3人は違った。

「おお!勇者凱旋だ!」
その時、酒場内に歓声が広がった。

そう、彼らが同じタイミングで転生した3人だ。

全員きらびやかかつ、仰々しいまでの装備だ。
全員がイケメンで、高能力者。
美女ぞろいのパーティーを連れている。

おそらく、全員が一郎たち3人を遥かにしのぐ強さを誇るだろう。

この世界、長年の悲願であった悪鬼ドラゴンを倒し、王宮に凱旋する途中なのだという。
しかし、なぜこんな小さな町の酒場にやってきたのだろう。

酒場の客は、皆、凱旋者を取り囲み、ほめたたえた。

「いやな奴らだな」一郎はつぶやいた。
なにもこんな時に、この酒場によることはないだろう。
二太も、三夫もうなづいて目配せする。

どうせからかいに来たのだろう。

凱旋の三人のスペックはとにかく高かった。

一人は、戦士 元軍務経験者で軍務系大学出身。「隻腕のサイボーグ」と呼ばれ、義手を様々な武器や火器にも変化させる。

二人目、魔術師 元高学歴医学部、医術と錬金術を駆使し「英知の宮殿」との異名を持つ。無限の知識と、詠唱時間の極大短縮スキルを持つ

三人目、剣士 元剣道師範の国体選手 腕が六本あり、全てに剣を持つ「阿修羅剣」の使い手…

その功名は、異世界中に轟いている。

一郎たちは、ぼそぼそと陰口を言った。
元々のデキが違う。
天から与えられた才能があるものが勝つのだ。

ガチャなのだ。

才能だって、スキルだって、天に恵まれない者は決して成功できない。
比べるのがはなから間違いだ。

一郎たちはそう話した。
どうせ、同時期に転生した自分たちを笑いに来たのだろう。
一郎たちはそう思って、警戒していた。

すると、上等の生麦酒が一郎たちに提供された。
獣人ウェイトレスは笑顔で言った。

「凱旋した勇者様方からです」

黄金に輝く生麦酒を前にして、三人はあっけにとられた。

すると、「隻腕サイボーグ」が席に歩いてきた。

「みんな、久しぶり。」とサイボーグ「今回、どうしても君たちに報告したくて、王宮へ戻る前に遠回りして寄ったんだ」

一郎らはぎょっとしたが、直ぐに立ち上がって表面上は賛辞を贈った。

「ありがとう」サイボーグが照れくさそうに言った「君らと異世界に来て、俺は能力の『縛り』のために片腕を失った。片腕で戦うのは、過酷な挑戦だった。来る日も来る日も血のにじむような訓練をした。でも、君たちと励まし合ってようやくここまで来れた」

「そうだ」今度は医者魔術師が言った「突然異世界に飛ばされ、今までのキャリアも何もかも失った。それでも君たちと励まし合い、前向きに生きようと酒を酌み交わした。だから達成できたんだ」

「君たちとは、目指すものが異なったかもしれない」と剣士「だが、困難な挑戦に挑むとき、必ず君たちの姿を思い描いた。この町で一生懸命異世界を生き抜いているはずだ…と」

一郎たちは下を向いた。
これなら、罵倒して蔑んでくれた方がありがたかった。
こちらも嫌ったままで振り切れるからだ。

だが、奴らの頭にあったのは、転生したての頃、お互いを切磋琢磨し、異界で生き抜こうと励まし合った一郎たちの姿なのだった。

憎めれば楽だった。
しかし、彼らはいい奴だった。

大いなる目標に挑み続け、世界に名をとどろかせた勇者たち。
彼らの壮大な生き方から、小さな町で等身大に生きる一郎たちをバカにするなど…考えに至るワケもなかった。

「目指す方向は変わっていったが…一度伝えたかったんだ」サイボーグが言った。

サイボーグたちはそのまま、急いで王宮に行かないといけないと話もそこそこに立ち去った。

客はおろか、店主やウェイトレスも勇者たちを送るため店から出た。

喧騒の後、誰もいない酒場の隅の席

一郎たちは口をほとんど付けていない生麦酒を前に、うつむいていた。

いつからだろう。
目標と向上心を置き去りに、日々を過ごしていたのは…

才能だけの話なのだろうか…

日々の暮らしに満足せず、サイボーグ達のように初志貫徹すればどうなったのだろう。

「おれ……筋トレする」二太がつぶやいた。「剣士の野郎…目指すとこは一緒だよ」

「俺も…厩係から侯爵家を登っていくか…もう一度冒険者がやりたいのか…よく考えてみる」一郎が言う。

一郎とニ太が三夫を見る。
「お前は無理しちゃだめだよ」

三夫は言った。
「いや、分かってる。それでも俺は…やっぱし冒険者やりたい。めちゃめちゃ強い麻酔薬使うとか…なんかやり方考えてみる」

3人は静かに決意して、生麦酒を飲みながら多少は前向きな夢を語り合った。

確かに成功するには運や才能もモノをいうだろう。
しかし、他人を僻んで日々を浪費しても何も得るものはないのだ。

3人は変われるだろうか。
何も変わらないかもしれない。

それでも、美味しいタダ酒を飲みながら、変化へのキッカケを与えてもらったのは異世界の神の思し召しかもしれない。

三人は「明日から頑張る」と心に誓い、優秀な転生同期達と異世界の神に感謝の祈りを捧げたのだった。


【おわり】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

当店のご利用は計画的に

詩森さよ(さよ吉)
ファンタジー
私は杉本エミル、転生者だ。 乙女ゲームのショップの店主である、深淵の魔女だ。 そして今日もヒロインが私の店で買い物をしていく。 すべての財産を使い果たそうという勢いで。 残酷な表現有りは保険です。 カクヨム(以下敬称略)、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多いため、コメントなどは受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

処理中です...