魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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現実

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「リータ、ここに書いてあるエフェロンって誰?」
 旭はリータが見せてくれた本をLOTを通して解読させ、彼女の国の文化を知ろうと本を読むことが多くなった。
「エフェロンは破壊の神様よ。右手に白い剣、左手に雷を持つエフェロンは、人々が信仰心を忘れたら、怒りの業火で天罰を下すんですって」
「へぇ~、神様なんだ。リータの国にも、そんなのあるんだね」
「そう、だからほとんどのラステアの人々は毎日エフェロンの怒りを静めるため、お祈りを捧げているの。ところでアキラ、このコンピュータって何?」
「コンピュータってのは、僕たちの代わりに計算してくれる機械だよ」
「計算してくれる……、キカイ? アキラが首に巻いているようなもの?」
「うん、あとこの前見せたカメラも機械かな」
「カメラも機械なのね。他にどんな魔法があるの?」
「うーん……」何か面白いもの……、としばらく考えた旭は、「ちょっと待ってて」と言って、自分の部屋に向かった。机の上に置きっぱなしの携帯ゲーム機を持って、再びリータの前に戻る。そして久しぶりにそれの電源を入れて、リータの目の前で作動させた。
 縦横20センチ、厚さ1センチほどの、そのゲーム機は、70年前に発売されたそれの復刻版で、去年の誕生日に香苗に買ってもらったものだ。電源を入れてメーカー名がゲーム機の上に立体的に現れると、すぐに旭が作ったキャラクターが20センチの立方体のエリア内に現れた。高さ5センチほどの赤毛の青年で、簡素な胸当てを装備し、右手には騎士剣を持っている。中世ヨーロッパを舞台にした戦記物で、オンラインで仲間を集めて魔王を倒しに行くのがメインストーリーだった。当時は大ヒットしたゲーム機である。
 リータはその小さい青年を見て、口を手で押さえて驚き、顔を近付けた。そして白く細い指で触ろうとするも当然空振りする。
「これは僕でも触れることが出来ないよ、リータと僕みたいに……」
 そう言った旭の顔を、リータは寂しげな顔で覗き込んだ。

 時々リータが現れない日もあった。だが前日か前々日に「私、いつもの時間に仕事があるの……」と寂しげに言っていたので、旭は心配ではなかった。
 それよりも自分と同じぐらいの歳で仕事なんて大変なんだな、と思っていた。そんなリータに『明日会えない』と言う事はない、と旭は思っていた。
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