魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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アシンベル付属アカデミー

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 アビーインパクト回避から2年と半年後にアシンベル科学都市は再び息を吹き返す。アシンベルの寮での生活も香苗の仕事も落ち着き、今年新設されたアシンベル付設アカデミーに入学した旭は、16歳になっていた。アシンベルから支給されている、薄いグレーのボディースーツの首もとに指を入れながら、アカデミーのビル内、白を基調とした清潔感のある廊下を、しかめっ面で歩いていた。
 LOTとは違った、この軽く首を絞められている感じに慣れるのは、しばらくかかりそうだ。
 そう思っていた矢先、唐突に強く背中を叩かれた。
「君が香苗さんとこの息子か!」
 まだ入学初日の旭を気安く叩いてきたのは、今朝講堂で新入生への挨拶をしていた亜空間物理学教授の北野春臣(はるおみ)だった。
 入学式の壇上で、100名ほどの新入生を前に、旭は代表の挨拶をして、緊張のため気疲れしていたが、慌てて振り向き背筋を伸ばした。
「あっ、初めまして教授。東城旭です」
 旭はボディースーツの首もとに指を突っ込みながら、挨拶する。
「おっ、緊張しているのか? 香苗さんとは違って固そうな感じだな!」
「いえ……、そうでもない……と思いますが」
 北野は短く刈った頭を摩りながら、「リュック・コリーマンとギリシャのエントリウスが説く次元の違いはなんだね?」と唐突に聞いてきた。
 旭は周囲の生徒の視線を気にした素振りを一瞬見せた。
「コリーマン博士の宇宙モデルにおける次元とは、集団活動を行う種が持つ固有の――」
 旭は持っている知識を総動員して事細かに説明を始めた。
 その間、手で顎を摩っている北野は、うんうんと頷きながら聞いている。やがて全部説明し終わる前に旭の肩に手を置いて、さっきよりも一段と大きな声を出した。
「16でコリーマンとエントリウスを理解しているのか、楽しみだな! 他に知りたいことがあったら俺のところにガンガン来るといい!」
 ガンガンって……、この教授、体育会系だな。
 さらに2回バシバシと旭の肩を叩き、北野は笑顔のまま踵を返して戻っていった。
 解き放たれた旭は大息を吐いて身体を教室に向けようとすると、背を向けた北野の隣から、尖った視線を投げかけながら歩いてくる女の子と目が合った。旭はその目線の送り主に肩を竦めてみせ、特に感情を表現することなく教室へと急いだ。
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