魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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ガイダンス

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 初日の1限目は自己紹介、ナノマシンワクチンの摂取と、2限目からはLOTの簡単な操作方法の説明だった。
 ナノマシンワクチンはカプセルに入ったウィルスサイズのナノマシンで、経口摂取し身体の中で融解すると、それは身体の隅々に行き渡り、免疫力を格段に上げてくれる。
「こんなの体の中に入れて大丈夫なの……?」
「これって、ヤバくねぇ?」
 特に海外留学生が難色を示すのを横目に、旭は呟きながら飲み込む。
「サプリメントより安全だよ」
 それを見た彼らも、目を瞑って飲み込む。
 生体認証によるチェックが完了すると、机上の緑色のホログラムが消えた。
 全員の摂取を確認した後は、各生徒にLOTが配られた。 
 LOTはアシンベル内で作られた情報処理端末機で、それはコンタクトレンズと直結している。バイオセンサやトランスレータ、演算機、ラボ等の役割を果たすLOTのおかげで、様々な言語が入り乱れるようになったこのアシンベルで、言語の習得なしに多様な共同実験がスムーズに行えている。そして外国語の論文などに目を通すと、脳内のLOTはコンタクトレンズを通して文字を解読し、設定した言語に書き換えて表示してくれる。
 その多彩な機能に、初めて扱う留学生たちも驚きを隠せない。

 2限目から早速そのLOTを使った授業に入った。
 講師も要領を得ているのか、自分と生徒のLOTをリンクさせ説明していく。旭は香苗のLOTを時々勉強で使っていたので使い方は分かっているのだが、大抵の生徒はやはり勝手が分からず、近くの生徒とひそひそ話ししながら試行錯誤している。ゆっくりと進む退屈な授業を前に旭は頬杖ついていたら、エディアが肩越しに彼を見ていた。旭の視線に気付いた彼女はサッと前を向くが、後を追う赤銅の髪は誤魔化せない。
「ロックベリー……、ひょっとして分からないのか」
 背中がビクンと跳ねたエディアは横顔を向けて旭を睨む。
「そんな訳ないでしょ! 主席だからって、いい気にならないでよね!」
「まだ言うか……」と旭は呟き、これ以上関わらないようにしようと思った。

 今日は初日ともあって4限目、昼前までだった。講義などはなくLOTに慣れさせるための教材のインストールばかりだったので、LOTの基本動作さえ分かれば授業は滞りなく進み、この手の機械に強い生徒はすでにある程度要領を得ていた。
 放課後、旭はLOTを首に回して椅子から立ち上がる。昼食を学校か家かで迷いながら教室から出ようと思っていたら、エディアが立ち上がって旭の進路を塞いだ。
 彼女は真っ赤になった顔に涙を滲ませ、旭に近づいてくる。
「な、なんだよ……」
 旭は思わず構えた。
「あのっ、……ソフトの場所……しえてよ……」
「えっ?」
「でぃ、DNA検査ツールのソフト、どこにあるのか教えてよ!!」
 旭は一瞬、今が昼だということを忘れそうになった。
「……そこから!?」
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