魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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香苗の動転

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 アカデミーのダイニングルームで食後のお茶を一口啜り、旭はLOTを展開した。
「ジェリコ、休暇申請って、どうすればいいんだ? さっきから探しているんだけど、検索しても見つからないんだ」
 その言葉にエディアが間髪入れずに聞いてくる。
「休暇? アキラ、具合でも悪いの?」
 1から全部説明するのが面倒なのと、教授と調査に行くということが知られると、他の生徒からのやっかみが煩わしい、と思い「ちょっとな」と旭はあしらった。
「ちょっとなって、何なの!? 怪しいんだけど……」
 日本茶を啜るジェリコが、アルカイックスマイルで答える。
「日常生活に関わる申請の類は、アカデミーではなくアシンベルのサイトにあるぞ」
「え、そうなのか?」
 ジェリコが再び茶を一口啜る。器も自前の陶器を使っている。以前旭がその陶器について聞いたところ、日本の茶器にも詳しかった。なかなか手に入らないであろうその陶器から、日本文化に興味があることが伺える。
 手元だけ見ると絶対日本人だ。旭はそう思った。
「アカデミーでの申請は、アシンベルと関連する申請が多いからな、多分最近統合したんだと思うんだ。で、いつ休むんだ?」
「明日なんだけど」
「なんでそんな急に休むのよ」
 エディアが疑心の目を向ける。
「その日じゃないとだめだと言われたんだ」
「い、言われたって……誰によ?」
「……口止めされているんだ、悪いけど。ちょっとした調査だよ」
 何か言いたげだったエディアは、旭に横目を寄越しながらミルクティーが入っていたカップを噛んでいた。

 明日は寮の調査に北野が来ると、旭は香苗に告げた。香苗も立ち会いたがっていたが、当然仕事なのでそれは叶わない。
 ひょっとしたら明日リータが現れた謎が解明されるかもしれない。
 休み前の開放感と、謎が解き明かされる期待感とで興奮していたのか、彼はその日の夜、なかなか寝付けないでいた。

 夢の中で旭を呼ぶ香苗の声がする。旭はゆっくりと目を開け、頭にもやがかかった状態でベッドで半身を起こした。
 スピーカーから、香苗が何やら言っているのを無視し、天井に向かって時間を問う。
「時間は?」
「8時32分です」と、女性の声音が即答する。
 8時半。北野との約束の時間より2時間近く早い。しかも、ちょうど通学の時間だった。
 もう来たのだろうか、と香苗に応答せず身体を起こし、生あくびをしながら部屋を出た。
「旭!」
 玄関に慌てる香苗がいた。
 北野教授ではなく、珍しいゴキブリでも出たのだろうか、と旭は思った。
「旭! なんで言わなかったの!?」
「あぁん?」
 目が開ききらない旭は、今度はしっかりとあくびをしながら、香苗の傍に近寄って玄関口を見た。
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