魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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三人目の来訪者

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「それと今日はもう一人教授を呼んでいる」
「えっ、誰ですか?」
 丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。
「来たようだな」
 北野は温くなっているお茶を一気に飲み干した。
 北野たちとともに玄関に出ると山代が立っていた。北野は山代に軽く手を振る。
「そうそう、言い遅れたが今日は山代君も参加する。昨晩話したら興味があると言ってきてな。こんどのSSBEの総責任者だ」
「えっ! そうなんですか? 山代教授が」
 驚く旭の腕を、エディアが引っ張ってきた。
「ねえねえ、さっきアキラのお母さんも言っていたけど、SSBEって何よ?」
 そうだった、まだアシンベル職員にしか情報がいってないのか――。
 旭は北野の顔を一瞥し、頷きを確認して説明する。
「今度の亜空間開闢実験の略称だよ。サブスペース ビギニング エクスペリメント、SSBE」
「へーっ、世間体を考えて名前を変えたのね」
 特に感心した感じでもないエディアの返事だった。
「おはようございます北野教授。それに東城君に、ロックベリー」山代は少し間を置き、「ロックベリー、君もこの調査に興味があって来たのかね?」と科学者特有の強い探究心、求学心を細い眸に滲ませながらエディアに聞いた。
「はい、まあ……」
「山代君は午後にアカデミーでの講義が入っているから、手早く済まそうか」
 そう言って北野は胸のポケットから小さなケースを取り出した。その中には針の部分が短い、まち針のようなものが入っていた。
「それがGPSですか?」
「そうだ。教授たちの中でも、数人しか持っていない」
 GPS素子の小型化が進み、法で所持を許されるのは一部の人だけだった。
 特にそのGPSに興味がなかったエディアは、そのまま旭の部屋へと向かっていった。
「エ……、ロックベリー! その部屋には用がないから行かなくていいぞ!」
 旭がエディアをロックベリーと呼んだのが不快だったのか、エディアは廊下の途中で立ち止まって彼を睨む。
「調査よ、調査! トウジョウ君!!」
 そう言って、エディアは癖で自分の手に埋め込んだマイクロチップをかざしたが、開くわけが無い。エディアは諦めて、今度はキッチンの方へと向かっていった。
「まあとにかく、私たちで調査を進めよう」
 そう言って、北野はLOTを展開して旭に問う。
「ホログラムの範囲は、どこからどこまでかね」
 その問いに旭は迷うことなく指をさした。
「上部はここからここ、床はここからここまでです」
 北野は旭が指さした箇所にGPSを刺した。
「私の権限でGPSの交点をたどれ」
 北野の権限で細部が旭らかになる。展開した北野のLOTが中空にホログラムを映し出した。それはこのN8寮の立体図だった。その立体図は縮小し、地球全体を映し出した。N8寮から発射された幾筋もの白線の一つは、意外な場所にたどり着いた。
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