魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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科学者という病

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 このラグラニアはアジブと言う恒星系の第4惑星トリオンから飛来してきたとエルザは語っていた。そのトリオンは地球から11光年離れた場所にあり、宇宙から飛んできたとも言っていた。
 途中から科学者的笑みを隠せなかった北野は、腕時計を見ながら言った。
「まだ色々と聞きたいところだが、もうそろそろSSBEが終わる時間だ。このまま閉じ込められる可能性があるから、一旦脱出したほうがいいだろう」
「はい、リータのことも聞けずじまいでしたので、また明日調査に来ましょう」
「楽しみだな! 初めてLOTを弄る子供の気分だ!」
「エルザ、外に出たいのだけど……」
「了解しました」
 そうエルザが答えると、入ってきた時と同じように全身を突き抜ける軽い衝撃が走って、気が付くとラグラニアを背に研究室内に立っていた。不安げな表情でラグラニアの周囲に立っていた研究員たちの表情が安堵のものに変わっていく。先程まで超科学の船の中にいたせいか、科学技術が発達したこの研究所内も酷く原始的に感じた。
「凄い経験でしたね、教授!」
 旭は周りを見渡した。だが北野はいない。
「しまった! 置き忘れてきた!!」
 旭は慌ててラグラニアの中に入り、1人でおろおろしていた北野に平謝りした。
「血は争えんな……。私一人だけ置いていくとは」
 普段、母さんが教授にどんな態度をとっているのか気になったが、聴かないほうがいいだろう、と謝りながら旭は思った。
 そして今度は抜かりなく、「ここにいる2人を外に出してくれ」とエルザに告げた。

「言語解析に手馴れている君が立ち会わないと、えっとラグラ……ニアだったっけか、の中に入ってはいけないようにしよう。それかLOTの言語解読が終了して、そのプログラムを配布するまでだな。おそらく2、3日で我々もエルザの言葉を理解できるようになるだろう。君には悪いがこれからしばらく言語解読に協力して欲しい」
「わかりました!」
 旭にとっては願ってもない要望だった。
 そして旭は北野と共にラグラニアを見る。もうそろそろSSBEが終了して、白斑が消えるはずだ。旭たちは実験室内でしばらく待った。だが20時10分過ぎても消えない。さらに20時半まで待ってみたがそれでも消えなかった。
「ん、消えんな」
 北野が呟く。
「あの白斑があの空間とをつなぐゲートなのは間違いないはずだ。まだ仮説だが、亜空間から漏れだすエネルギーが動力になっているのは、ほぼ間違いないはずだから。ただアフリカから日本に持ってきたことで、亜空間との距離が近くなって、流れ込むエネルギーが一気に増大し、相当量が充電されたのかもしれんな……」
「そうかもしれませんね。明日もう一度この時間に中に入って、エルザに聞いてみます」
「そうだな、とりあえず今日のところは入らないほうがいい。それにしても……、旭君の通訳を疑っている訳じゃないが、宇宙からの超科学の飛来物だなんて、こんなでたらめな話、俺の知り合いの科学者どもに言ったところで白い目で見られるのがオチだ。だが凄い。まだこんなに科学者の心をくすぐるものがあったなんて、なんというか、何が詰まっているか分からないドキドキ感が――」
 北野は興奮を隠せないでいた。周りでデータ採取していた研究員も興味津々といった表情で状況を聞いてきた。明日からはおそらく計器を持ち込んでの調査となる。
 興奮を押し殺してはいたが、旭もこの超科学の一端に触れ、明日はエルザにどんな質問をしようかと考えていたら再び自然と口の端が上がっていた。
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