転生の果てに

北丘 淳士

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アリスタ・ヴェルデルト

ランザと五人

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 政務卿から手紙が来た三日後、隣国の貴族であるランザ・ギムがヴェルデルト邸を訪れた。
 彼はメイドに案内され、会議室に通された。女性と同じぐらいの体格で、争奪戦に向いているとは思えない優男という佇まいをしていた。
 後から入ってきたアリスタは一礼してランザを警戒する。
「お待たせしました、私に何か御用ですか?」
 もう争奪戦は始まっている。私と先に会って、出来るだけ頭数を減らしておくつもりかもしれない。
 そう警戒していたが、ランザは丸腰だった。それどころか、上着を脱いで上半身裸になる。両手も広げて上に上げる。細い体が露になった。
「そんなに警戒なさらなくても大丈夫です、ヴェルデルト殿。腹を割って話しましょう」
「……分かりました。上着を着て下さい」
 小さな刃物程度なら、アリスタは跳ね返せる余裕があった。ランザの話を聞こうと、上着を着た彼に席を勧めた。
「それで、要件は何でしょう」
 小さなテーブルを挟み、アリスタはランザの向かいに座った。
「単刀直入に申し上げます。私と手を組みませんか?」
「同盟……ですか?」
「はい、私はあなたと共にローデンバル派の一員として権威を復活させたいと思っております。今やハイドニア派が三分の二を占めていますので、ハイドニア派が王権を獲れば、ローデンバルは廃退してしまうでしょう。それだけは避けなければなりません」
 その優男の目を見ながらアリスタは話を聞いていた。真摯に見つめてくるその瞳は曇ってはいないようだった。
「正直申しますと、私は派閥争いにあまり興味はありません」アリスタは用意されたお茶を啜る。「ですが、手を組むというのは良案だと思います。出来るだけ人々が傷つかずにベル王国が復興する。それが理想ですから」
「ならば……!」
「はい、了承しました」
 ランザは身を乗り出して手を差し伸べてきた。アリスタは一度その手を確認して握手をする。女性のような細い指だった。

 その頃、庭園ではアリスタを救援する騎士の選抜が、執事ライアス主導のもと行われていた。領内から五十二人もの腕に覚えのある猛者が集結する。集まった衆人に対し、ライアスは良く響く声で説明を始める。
「よくぞ集まってくれた。ここに集まった者は、我が領主アリスタ様の下、王権を手に入れる者である! 我が主は強い。必ずや王権を得るであろう! 寛大な我が主は犠牲などを求めていない。その主に使え補佐して欲しい。忠義に対する対価は、選ばれしものの家族の養育費と地位だ。では選考を始める!」
 私兵十人の前での審議が始まった。私兵の中にも、是非私が、という者がいたが、アリスタはそれを断った。屋敷を警護してもらうことに専念して欲しかったからだ。
 まずは木製の剣と盾を与えられ、一対一の審査をする。その後は体力審査、知能検査へと続く。五人に求められたのは、剣技、走力、知力、力、技術だった。五つの審査を経て、五人が選出された。
 剣技、ナフラック。走力、ルスナ。知力、ファニルカ。力、ウォルバーグ。技術、ゼルト。
 ナフラックはファニルカに抱きついた。
「やったなファニルカ! 選ばれたぞ俺たち」
「ええ、頑張りましょう!」
 二人は幼馴染だった。
「おいおい、見せつけてくれるねぇ」
 ウォルバーグが溜息をつきながら笑みを溢す。その横でゼルトはメモをとっていた。何を書いているのだろうとルスナが覗き込む。
「ああ、これか? 日記みたいなものだ」
 そのメモ帳にはびっしりと文字が書き込まれていた。ルスナは目を逸らし眉根を揉んだ。
「では、午後には主から挨拶があるので、昼食をとって待つように。昼食を用意していない者は屋敷に用意している。食事がいる者は……」
 五人のうち四人が手を上げた。
 ウォルバーグは持ってきた荷物を持って四人に続いて中に入る。体躯は約一九〇センチと恵まれていて、その体躯に負けぬほど隆とした体をしていた。
「あんたは昼食持ってきたのかい?」
 ルスナはウォルバーグに訊く。
「ああ、妻が用意してくれた」
「妻帯者か。俺もそろそろ結婚なんだよな。何かアドバイスはあるかい?」
「一つだ。怒らせるな」
「ははっ、違いない」
 それぞれ会話をしながら邸宅に入っていく。
 長い前髪をかき上げ、ゼルトはメモをとりながら歩く。
 意外と金目になりそうなものは無いな……。

「こいつは美味い! ウォルバーグの旦那も食べれば良いのに」
「食って帰らないと、妻に怒られる」
 陽気なルスナは舌鼓を打ちながら、親睦の意味も兼ねた会食は過ぎる。
 五人が昼食をとり終わってすぐ、アリスタがライアスを連れて食堂に顔を出した。顔を知っているルスナがアリスタの顔を見るなり直立し敬礼をした。その様子を見た四人は同じく立ち上がって彼に倣う。
「畏まらなくていい。私がアリスタ・ヴェルデルトだ。座って良いよ」
 本当にこの男が五人の警護だけで良いのだろうか、とウォルバーグは思う。
 四人は座り、最後にルスナが座った。
「私は技術力以外、君たちの得意としている事よりも上をいっている。だから、その特技は自分と仲間を守るために使うように」
 開口一番、アリスタは突き放すような言葉を五人にかける。
 しばらく沈黙が走った。
 その内、ナフラックとウォルバーグの二人が笑みを溢し始めた。
「領主様、それは驕りが高すぎるってものですよ」不遜にも、ナフラックは口角を上げて言う。「剣を持った事があるんですか? その剣ダコも出来ていない手で」
「おい、やめろ!」
 その言葉を非難するルスナだったが、ナフラックは笑みを止めない。
 アリスタは自分の掌を見た。そして平然とした顔で言ってのける。
「剣など、私には効かない」
 その言葉を聞いたナフラックは額に手をやって高笑いする。
「はっはっは! その前に誰かが守ってくれるって言うんですか?」
「やめろって!!」ルスナが声を荒げるも、ナフラックの哄笑は止まらない。
 礼を失したナフラックの態度に、アリスタは踵を返した。
「おいで」
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