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10.入院生活2
しおりを挟む今日もまた、病院だ。
もともと他人だったのに、毎日ではないにしろ足繁く病院に通っているのはあの病室が、私にとって居心地のいい場所になっているからだろう。
「こんにちは」
ドアを開けると、珍しく四人全員が揃って寛いでいた。
「おー! 三浦ちゃん。久しぶりだなァ」
腕を吊り、朗らかに笑う赤池さん。
初めは様子をみていたのだろうか。
彼は初め、最低限の愛想で接してきていたが今ではとてもフレンドリーだ。
ただ、夜型なのか午前中にお見舞いに来ても寝ている事が多かった為、言葉を交わすのは久しぶりなのだけど。
私が帰ったあと、男四人でお話されているのかな。いい話だといいなと思いながら、赤池さんに向き合う。
「ふふ。起きている赤池さんは久しぶりですね。お加減大丈夫ですか?」
「三浦ちゃんが来てくれたから、元気だよ!」
慣れた今、調子の良さがかわいいおじさんだ。
今日のお土産はプリンを買ったお店に売っている、パウンドケーキ。
ドライフルーツの沢山入ったそれは、ずしっとした食べ応えがあり、パウンドケーキなのにしっとりした口当たりがニクい逸品だ。
食べた後に、ハチミツの甘い香りがふんわり鼻を抜けるところも気に入っている。
「すぐに食べます?」と聞き、首を縦に振った赤池さんを見てその袋を開ける。
骨折の為に片手で療養中の赤池さんにも食べやすいように。
「おお! 気がきくねェ! ありがとうね」
くしゃっとした笑顔に「いいえ」と笑って返すと、ヒュースさんと宮内さんが喜色を全面にだして待っていた。
ヒュースさんと宮内さんには三個ずつ、武本さんは「ひとつで充分です。ありがとうございます」だそうなので、ひとつ渡してみんなでお茶をする。
武本さんは甘いものが嫌いなわけではなく、太りやすいから制限しているそうだ。偉い。
お礼の後に、すぐ封を開けた宮内さんが背中の方で「うめー!」と叫んでいるのを聞きながら、ヒュースさんの横に腰掛ける。
ヒュースさんも「アリガト」とカタコトでお礼を言うと、いつものように袋の観察をしてゆっくり封を開けていた。
「そういやよ、ナースの百井ちゃん。アレ大丈夫なのか?」
和やかなお茶会でそう口火を切ったのは赤池さんだ。
ミアくん(宮内さんはやめてってお願いされた)は興味しんっしんな顔で、武本さんは気遣わしげにこちらをみる。
ヒュースさんは場の空気をよんだのか、口に入った分を咀嚼しつつも赤池さんを見ている。
「大丈夫かと言われましても……」
「まぁそうだよな、ヒューが入院してる以上、邪険には出来んよな」
うんうんと頷く赤池さん。
聞けばあの若い看護師さんは、日勤の際は高確率で病室に訪れてはヒュースさんを甲斐甲斐しくお世話してくれているらしい。
それだけならまだしも、英語で連絡先を聞いていたりボディタッチが多かったりと、見え見えな好意に周りも苦笑しているのだとか。
妙に井戸端会議のおばちゃん臭漂う演技をした赤池さんの語り口につい笑ってしまうと、「あれは俺でもわかるっス」とミアくんが身を乗り出しつつ話に入ってきた。
「だよなァ。あーゆー女の子は可愛いけど気をつけろよ」と赤池さんがミアくんに説いている。
まあ、家族でも恋人でもない私はヒュースさんの事であの看護師さんに何かを言える立場にはない。
ただ、かつて抱いた事のない複雑な心境だ。
奇縁。
憐憫。
同情。
どれもしっくりこない、彼に対するこの気持ちはなんだろう。
チラリとヒュースさんを見れば、その綺麗な瞳と目が合った。
彼の記憶が戻って日常に復帰する時に、友人として話せるくらいにはなりたいな。
この時はそう思っていた。
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