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13.入院生活5
しおりを挟む病室に戻ってきた私達。
一抹の寂しさを抱いていたが、カラカラとドアを開けたところでその感情は払拭された。
「あ、戻ってきた!」
ミアくんの大きな声に一瞬目を瞬くも、行きの状況を思い浮かべて年甲斐もなく体が少し熱くなる。
「もう手繋いでねーの?」
「……ないよ。大人をからかわないで下さい」
ニシシとからかってくるミアくんだが、その顔に喜色が見てとれるため怒ったりはしない。
赤池さんも事の次第を聞いたのだろう。ミアくんに「もう!」と笑いながら大袈裟にため息をつく私を見て、いい笑顔で頷いている。武本さんも、微笑ましいモノを見る目でこちらを見ていた。
「しっかしまぁ、見ものだったんだろうなァ。惜しい事したぜ」
起きとけば良かったと付け加えて、赤池さんがため息を吐いた。
彼は看護師さんが居たたまれなくなって病室を出て行った後で目覚めたらしい。
「収穫は武本ちゃんの彼女ちゃんと会えたのだけだな」と付け加えながらも、諦めきれないのかぶつぶつ言っている。
「おっちゃん夜型だもんな」
「大人はな、夜更かしも仕事に制限されるんだ。せっかく怪我したから今のうちに満喫しとかねぇとな」
「そーゆうもんなの?」
「夜更かしと寝坊も贅沢なもんなんだぜ? 学生のうちに充分満喫しときな」
と、ミアくんと赤池さんが謎な自論を展開している後ろで私と武本さんも会話を始める。
「ああ、あの方はやっぱり彼女さんだったんですね。」
「はい。……いささか照れますね」
紹介もせずすみませんと武本さんが頭を軽く下げる。
あの状況ではそんなタイミングは無かったし、武本さんが首を痛めていた事を思い出して慌ててそれを制したら、「もう大方回復しましたので、大丈夫ですよ」と手を振っていた。とはいえ、見てる方がひやりとするので、大事にしてほしい。
その話の流れで、先ほどの旭先生からの呼び出しで、ヒュースさんが病棟を移す事になったと報告した。
すると「あ、実は……」と武本さんも話を切り出した。やはり武本さんも3日後に退院するらしい。
いつのまにかこちらに耳を傾けていた赤池さんが「そいつはおめでとさん」と笑顔で言ったのに対し、それまでニコニコと話を聞いていたミアくんの表情が翳った。
「……そうなんスか……」
誰が見てもしゅんとしたミアくん。彼は未だ吊るされた足を見て、そのまま目を伏せる。
大人になるとこういった一期一会な関係の終わりにも段々と耐性がつくが、まだまだ少年であるミアくんは寂しさを感じたのだろう。
その気持ちが微笑ましく、また嬉しくも感じるが今はまずフォローが必要だ。
なんと声をかけるか少し逡巡して口を開いたが、
「ミア」
と、ヒュースさんが先にミアくんに声をかけた。
そろりとヒュースさんをミアくんが見上げる。
普段はキリッとしている眼差しを細めて、優しい顔で頷きわしわしとミアくんの頭を撫でた。
武本さんも赤池さんも安堵の表情を浮かべて2人を見守る。
だが反対に、その仕草をみて私は息をのんだ。
背の高さや体格が異なる影が、ヒュースさんとミアくんに重なる。
それは亡き夫が、息子に日常的にする仕草と全く同じものだった。
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