世界を守る。ふたりの君に恋をする。

彼方

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第11話 結城莉乃 

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 けたたましいアラーム音が鳴り響き、俺はトレーニングをやめてスマホを見た。すると、豊島区内でSS級モンスターの「爆散ガマ」が出現したとの情報が表示されていた。今の時間は22時20分だ。

 俺はトレーニングルームから飛び出るとすぐにスーツに着替えるとヘルメット被り、窓を開けベランダから飛び立った。外はどしゃぶりの雨だ。横なぎの雨が激しく体に打ち付けてくる。大気が不安定なのか、うなるような雷の音がたびたび聞こえてくる。

「間に合ってくれ!!」

 俺は最高速で空を駆けて行く。『爆散ガマ』は非常に厄介なモンスターだ。全長30mを超える巨体は二階建ての家やマンションなんて楽に破壊することができる。しかも、その巨体に加え奴は体内に数百匹の子どもを宿しており、危険を感じると無数の子供を吐き出すのだ。

 吐き出された子供は親カエルよりは力が劣るとはいえ危険度はB級とされている。ガーディアンやソルジャーでも苦労するレベルだ。普通の市民は瞬殺されるだろう。

 40年ほど前には一体の爆散ガマの出現により、800人以上の人間が犠牲になったほどだ。それを考えると一刻の猶予もなかった。

 俺はひたすら豊島区の西にある公園に向かって飛んでいく。豊島区は妖魔特別警戒区域でいうと第六区にあたるため、本来であれば俺の担当エリアではない。

 しかし、俺は妖魔殲滅部隊の中でも上位の存在である特級戦力に指定されているため、自分の担当エリア以外であっても緊急の場合は出動を要請されることになっていた。

 ちなみに、東京都内には8つの妖魔殲滅部隊が配置されている。

新宿区、千代田区、文京区、中央区で構成される第一区に一番隊

江東区、墨田区、江戸川区で構成される第二区に二番隊

足立区、荒川区、台東区、葛飾区で構成される
第三区に三番隊

板橋区、北区、豊島区で構成される第四区に四番隊

太田区、品川区、港区で構成される第五区に五番隊

世田谷区、渋谷区、目黒区で構成される第六区に六番隊

中野区、練馬区、杉並区で構成される第七区に七番隊

八王子市、町田市で構成される第八区に八番隊
がそれぞれ配置されている。

 滝のような勢いでふりしきる雨の中、猛スピードで飛んでいるとすぐ近くから激しい雷鳴が聞こえた。

(雷か……)

 去年の夏、俺は雷を食らってしまった。身体は少ししびれたぐらいだったのだが、400万もするスーツがだめになってしまい、長官に少し嫌な顔をされたのを覚えている。

 しかし、俺でも雷を避けるなんてことさすがに不可能だ。自分に直撃しないことをひたすら願いながら現場に向かっていった。

 数秒後、俺は要請があった現場に到着した。真下に見えるサッカーグラウンドの中に水色の肌をした巨大なカエルが佇んでおり、その周りには数え切れないほどの子カエルたちがすでに溢れかえっていた。

「まずい!!」

 空中に六番隊で俺と同じ特級戦力の少女が佇んでいるのがちらっと見えたが、今は声をかけている余裕なんてない。

 俺はすぐに能力を発動させる。俺を中心として周囲一キロメートルに黄色いオーラが広がって行く。

「なんて数だ!!」

 おびただしい数の子ガエルがすでに周囲へ拡散してしまっていた。サッカー場の周りの網にはいたるところに穴が開いていた。俺が探知できるエリアの外にも行ってしまっていることだろう。

 しかし、幸運なことに探知した限りでは人間への被害は見当たらなかった。皆地下シェルターのへの非難を完了させている。

 俺はすぐに自分の念力を広範囲に広げていき、探知していた子カエルたちを拘束し、空中に引き上げていった。自動販売機の裏、突き破った民家のリビング、コンビニの駐車場……、いたるところにいたおびただしい数の子カエルが俺の側に集められていく。

 俺の周囲一㎞にいた子カエル達を全て集めると、念力を使って一斉にカエルたちをペチャンコに押しつぶした。緑色の液体が、雨に交じって下に落ちていく。空中には水色の魔石たちが残った。

「ギャオォーーーーーーーーー」

 自分の子どもたちが虐殺されたことに激怒したのか爆散ガマは町中に響き渡るような雄たけびを上げた。そして、直径20メートルはありそうなばかでかい水の塊を俺に向かって口から発射した。

 避けてもいいが、避けたら、この水の塊が落下先の町を破壊してしまうだろう。そう考えた俺は、巨大なオーラを込めた念力で迫って来る水の塊を包んだ。すると、水の塊は俺の目の前で威力を失い静止した。

 俺はそれをグラウンドに爆散蝦蟇の上に落下させた。激しい水しぶきが広がる中、奴は再び雄たけびを上げる。しかし、その瞬間俺のオーラが奴の全身を包み込み、拘束した。

(すごい力だ)

 さすがにSS級なだけあり拘束を振りほどこうとする力は他のモンスターとは比べ物にならない。しかし、それでも今の俺の敵ではない。

 俺は、強引に奴の身体を動かしていき首の骨と心臓をねじりつぶした。魔物は力なくサッカー場に倒れ伏し、巨大な宝石を一つ残して消滅していった。

「済まない、遥斗」

 こちらに近づいてきながら『結城・アインハルト・莉乃』が通信装置で声をかけてきた。乃逢は俺と同じ高校一年生で、日本人とドイツ人とのハーフだ。

 六番隊に所属しており特級戦力でもある。世間に対して素性を明かしていないなど、何かと俺と経歴が似ている少女だ。今はヘルメットをつけているため乃逢の表情は読み取れない。

 莉乃が所属している六番隊とはエリアが隣同士のため他の部隊よりも多くかかわってきていたためそれなりに親しかった。ちなみに莉乃のコードネームは『レナ』だ。俺は本名でしか呼ばないけど。

「ごめん。間に合わなかった。半径1キロ以内の奴らは倒したけど……」

「十分だ。後は私とお前の力を合わせればどうにでもなる」

 莉乃は自身の周りから黄緑色のオーラを球体状に放出すると、それを広げていった。黄緑色のオーラが次々に町を飲み込んでいく。

 莉乃は俺よりも遥かに広い範囲を索敵することができる。俺は半径1kmまでしか探れないのだが、莉乃は半径3kmまで調べることができる。これは妖魔殲滅部隊の中でも飛び抜けた数字だった。

 オーラを飛ばして索敵することをオーラレーダーと言うのだが、莉乃はこの技術の達人だった。

 雨が降り頻る中、莉乃は次々にオーラを広げていく。索敵することは酷く疲れるし高い集中力がいるのだが、莉乃は索敵しながら声をかけてきた。

「なあ、遥斗」

「ん?」

「愛してるよ」

「まじめにやってくれ」

「私はいつでも真面目だよ。もし良かったら、今日この後子作りしない?」

「おい」

「私と遥斗のタネが混ざり合えば世界最強の子供が生まれるよ! ゾクゾクしちゃうね!」

「前も言ったけど、俺好きな人いるから!」

 莉乃は以前からこんな冗談を言ってくる。下ネタが好きなのは良いが、仕事中はちゃんとしてほしい。

「ふふふ、今は子供の恋愛を楽しんでいればいいよ。最後に結ばれるのは私だから。好きに遊びまわりなよ」

 なんか浮気に寛容な恋人キャラみたいなセリフを恥ずかしげもなく口にしている。知り合ってもう一年が経つが、やっぱり莉乃は変なやつだ。理解が追いつかない。

 莉乃がいい奴なのは十分に知っている。良い加減そうに見えて気が利くし、能力も一流だ。俺の最高の相棒といえるだろう。

 だだ、よく分からない告白と下ネタ絡みはやめてほしい。勘違いしそうになるし、俺も一応年頃の男子だから変に想像してしまう。

 莉乃は会った時には必ず好きだとか、結婚しようだとから、愛の告白をしてくる。しかし、それがただからかっているだけだと言うのは十分承知していた。

 何せ一年前の初めて会った時に莉乃がいきなり口にしたのが「愛してる」だった。明らかにふざけているだけだろう。

「索敵完了したよ。いつでも行ける」

「よし! 頼む!」

 俺はヘルメットのシールドを、右手で上に上げる。同じく莉乃もシールドを上げ、息を呑むほど美しい碧眼と目が合った。

 その瞬間に、莉乃が索敵した周囲3kmの光景が脳内を駆け巡ってくる。瞬時にどこにモンスターたちがいる手に取るように分かった。

 これは莉乃の能力『映像伝達』だ。自らが脳内で見た映像を目を合わせることにより伝達することができる。攻撃型の能力ではないが、俺にとっては非常にありがたい力だ。

 俺の索敵能力は半径1kmなのに対し、能力使用範囲は周囲3kmだ。索敵をしなければ、多数の妖魔が出現した時に困ってしまう。全ての魔物を眼だけで捉えることは不可能だからだ。そのため、普段の俺は自分の全ての力を発揮してるとは言えない。

 今日みたいに莉乃が、彼女の能力でサポートしてくれた時に初めて、俺は全ての力を余すところなく使うことができる。

「ありがとう。これで大丈夫だ!」

「頼んだ! 遥斗!」

「ああ」

 俺は全身からオーラを放出し街を包み込んでいく。至る所にいた数百匹の魔物を空中に持ち上げ、今いる場所まで引き寄せていく。

 俺と莉乃の周りには周りが見えなくなるほどのカエルたちが浮かんでいる。俺はそれをひとまとめに集めると、一斉に押しつぶした。

 全ての魔物たちが消え、空中には水色に輝く大量の魔石が残った。

 グラウンドの脇を見ると、一台のキャンピングカーのような車が停まっているのが見えた。
あの車は妖殲専用の車だ。この激しい雷雨だ。おそらく長官が手配してくれたのだろう。

 俺と莉乃は地面に降りていくと、すぐに扉を開け中に乗り込んだ。





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