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第16話 感嘆
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紗奈の速度強化魔法は本当に凄い。普通に走っていても時速40キロは超えていると思う。洞窟から遺跡、氷の通路を抜けて砂漠のような空間へ。
わずかな時間で景色がみるみるうちに移り変わっていく。
走り始めて1時間で俺たちは地下32階まで来ていた。走っている最中、各階で数回は魔物に出会したが、できる限り戦闘を避けてここまで来ていた。
と言うのもダンジョンの低層に生息しているモンスターは弱く、ドロップするアイテムも価値が低いものが多いからだ。
三日間ぐらいゆっくりと時間をかけてダンジョンを探索するのなら一体一体倒してもいいが、今日は時間に限りがあるため、低層は素早く駆け抜けることにしていた。
地下37階層は古い古城の通路のような道が続いているフロアだった。足元には石が敷かれており、左右には篝火が短い間隔で焚かれているため歩きやすい道だった。
通路をまっすぐ歩いていると俺の探知魔法が魔物をとらえた。
「紗奈、角の先にイノシシ型モンスターがいる。たぶんメタルファングだ。こっちに向かってくる」
「わかりました」
横を歩いていた紗奈は俺の後ろに下がった。俺はホルスターから拳銃を抜き、入っていたマガジンを別の物に入れ替えた。
メタルファングは巨大なイノシシ型モンスターだ。72体いるB級モンスターの中では序列8位に位列しており、B級の中では上位の存在だ。
彼らは嗅覚が発達しているため、おそらく向こうもすでにこちらに気づいているだろう。
角の先から体長3メートルを超える猪が姿を現した。その体は金属の鱗で覆われていて、銀色に輝いている。
俺たちを一瞥すると、こちらに向かって走り始めた。
俺は引き金を引き、弾を発射した。弾丸は魔物の頭部を正確に捉えたが、金属音が響いただけで弾かれてしまった。やはり通常弾ではまったく歯が立たないようだ。
奴の巨体が地面を揺らし近づいてくる。距離は10メートルほどしかない。
俺は続けてもう一度引き金を引いた。弾はまたしても奴の頭部に直撃した。その瞬間、バチッバチッという激しい音と共に眩い閃光を放ちながら電流が流れた。
メタルファングは全身を硬直させ、地面に倒れ込んだ。走る勢いが残っていたため、3メートルほどこちらに滑って止まった。
「今のって、電撃弾ですよね? メタルファングを一撃とは……凄い威力ですね!」
紗奈は心から感嘆した表情を浮かべている。紗奈が驚いてくれると正直かなり嬉しい。
「ああ、やっぱり弱点をつけばB級モンスターでも倒せるみたいだな。体験できてよかったよ。今まで動画でしか見たことがなかったからな……。自分で作った玉なのにな」
お客さんがYouMoveにあげている動画で自分の弾の威力は分かってはいたが改めて弾の威力が、実感できて安心した。
「この威力なら売れて当然ですね! もう少し値段を上げても良いかも知れません」
紗奈は自分のことのように嬉しそうにしている。こういうところが紗奈の大きな魅力だ。俺は紗奈の笑顔に心が惹かれてしまう。素直にかわいい。
ちなみに紗奈のアドバイス通り、魔法弾は当初の1箱五十発入りを5万円から15万円に値上げしている。それでもお客さんは途切れることがないからありがたい。ただ、さらに値上げするのは常連さんに悪い気がして抵抗があった。
金は当初計画よりもかなり早いペースで溜まってきている。値上げするにしてもまだ先でいいだろう。
メタルファングは少しの間、身体をぴくぴくさせていたがやがて動かなくなり、体が消えていった。後には10センチ四方の金属だけが残った。
メタルファングが落とす金属は「リビリウム」という名前で、さまざまな電子機器に使われているため高く買取してもらえる。おそらくこの大きさなら50万円は超えるだろう。
俺は金属を拾うと紗奈に渡した。紗奈は空間魔法を発動させ異空間にリビリウムを入れた。10センチ四方のリビリウムは重さは4キロを超える。こういう時紗奈の空間魔法は非常に役に立つ。
俺は雷属性魔法弾が入ったマガジンを抜き、B級火属性魔法弾が十五発入ったマガジンをグロッグ19に入れた。このダンジョンは火属性が弱点の魔物が多いと聞いていたからだ。
ちなみに俺の腰についているベルトには5つのマガジンが備え付けられていて、それぞれの中に5種類の魔法弾が十五発ずつ入っている。
ここから先のモンスターを倒すためには魔法弾をフルに駆使する必要がありそうだ。
俺と紗奈は再び探索を始めた。出くわすB級モンスターたちを魔法弾で倒しながらひたすら下層に進んでいった。
♢ ♢ ♢
しばらく進んでいると、地下41階に辿り着いた。このフロアは篝火が焚かれていないため真っ暗だ。カバンからライトを取り出し、周囲を照らす。少し幅の広い通路が目の前に続いているのが見える。通路の左右には所々、別の場所に続く道があるようだ。
俺は奥に進みながら探知魔法を使用する。すると、左右の道は行き止まりで、真っ直ぐ奥に続いている通路が正しい道であることがわかった。
周囲30メートル以内に魔物の気配は感じない。
「真っ直ぐ進もう。今の所、近くに魔物の気配はないけど、暗いからゆっくり進んでいこう」
「わかりました」
俺と紗奈は辺りを照らしながら歩いていく。
この通路は、地面はアスファルトのように平らなためとても歩きやすい。それと対照的に、左右の壁はゴツゴツした岩肌が続いており、洞窟の中にいるかのようだった。
「先輩、もう少し近くを歩いても良いですか」
右後方を歩いていた紗奈が、いつの間にかすぐ右隣まできていた。隣を見ると、顔には明らかに不安そうな顔を浮かべている。
「大丈夫だよ」
俺がそう口にすると、紗奈は肩が触れ合うのではないかというぐらいの距離まで近づいてきた。
「そう言えば紗奈は暗い所は昔から苦手だったな」
「少しだったら大丈夫なんですけど、ここまで暗いと流石に怖いです。1人では絶対に無理ですね」
「探知スキルを使ってるから、大丈夫だよ。周りに何かあったらすぐ言うから」
少しでも安心させようとそんな言葉を呟く。
「ありがとうございます。本当に便利ですね。その魔法。周囲30メートルがわかるって、すごい助かります」
「紗奈の空間魔法やバフ魔法程じゃないけどな……」
確かに探知魔法はダンジョン内において便利だ。しかし、そこまでレアな魔法という訳ではない。この力を持っている探索者は割と多い。
紗奈が使うことができる魔法に比べたら月とスッポンぐらい違うだろう。
ただ、紗奈の言う通り俺の探知魔法は周りの探索者が使うものよりやや探知範囲が広い。その点は誇っても良いかもしれない。
それでも俺は平均的なB級探索者の括りを出れはしないが。
「きゃっ」
ゆっくり進んでいると、紗奈が声を上げながら体勢を崩し前方に倒れそうになった。俺は慌てて、紗奈の前に腕を回し、紗奈の身体を抱き止める。
「大丈夫?」
「はい。何かに躓きました」
下を見てみるとロープのようなものが落ちていた。どうやらこれに足をとられたようだ。
「すみません。支えてもらっちゃって」
「大丈夫だよ」
はからずも抱き合うような体勢になってしまった。警戒が解けた瞬間、なにやら恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。
紗奈は少し照れたように顔を赤らめながら、離れていく。そして嬉しそうにしながらに口を開いた。
「いやー、こんなふうに先輩にくっつけるなら、暗いダンジョンも悪くないかも知れませんね」
少し得意げに微笑む紗奈の笑顔は薄暗いダンジョン内でもとびきり可愛い。卑怯なまでの魅力的な表情に見惚れてしまいそうになり、俺はすぐに顔を背ける。
「冗談言ってないで先に進むぞ」
「冗談じゃないですよ」
声から紗奈が笑ってるのがわかる。まるでデートでもしているような空気感が広がっていく。危険なダンジョン内にいるのが嘘みたいだ。
今いるのはダンジョンの41階層だ。そろそろ強力なモンスターも出現し始める。集中力を高めていかないとな。
再び歩き出そうとした瞬間、すぐ目の前から何かが迫ってきた。慌てて俺は声を上げる。
「紗奈っ!!」
敵は両手に掴んだ剣で上段から俺の頭上に振り下ろそうとしていた。俺は慌てて、風属性魔法を発動させるとすぐ右側から自分に向けて猛烈な風を発生させた。鋭い風が一瞬で俺の身体を左側へ緊急回避させる。
空中で俺は敵の姿をはっきりと視認した。鎧を着こんだ二足歩行のイノシシ型魔物——オーク。それも血の用の褐色の肌からオークの中でも最上位種であるロイヤルオークだ。
するとオークは離れた俺には目もくれず、すぐ隣にいた紗奈に向かって剣を横なぎに振ってきた。俺は土属性魔法を発動させると紗奈の目の前に地面から分厚い土壁を錬成しその攻撃を防いだ。
「下がって!!」
紗奈に叫ぶと同時に、オークの足元の地面を氷属性魔法で瞬く間に凍らせる。戸惑っているオークの背後から近づき、奴の頭部を掴むと、自分が放てる最大の雷魔法を頭部に叩き込んだ。
鋭い閃光が闇の中に広がると同時に、オークは滑る氷の地面に足を滑らせ仰向けに倒れた。
痛みに悶えているオークの両手足を地面から発生させた氷で氷漬けにし固定すると、俺は氷で巨大なハンマーを作ると、隙だらけになった頭部に向かって何度も振り下ろした。
ロイヤルオークはそれでもまだ、しばらくの間、頭を動かしながら、激しいうめき声をあげていたが、やがて動かなくなり、消滅していった。後には、奴が持っていた剣だけが残った
「紗奈、大丈夫?」
「はい。優斗さん、ありがとうございます! すみません。私が、集中していなかったせいで……」
「いや、俺も気が抜けていた。探知魔法をおろそかにしていたよ。ごめん」
「A級序列51位のロイヤルオークでしたね。この階層でもう出るんですね」
「ああ、やっぱりA級は序列が下位でも強いな。ここからはさらに気を引き締めて行かなきゃな」
「そうですね……。それにしても先輩の戦い方、久しぶりに見ました。ロイヤルオークをあっさり倒すなんて、やっぱりすごいですね」
「そんなにあっさりでもないけどな。これ以上序列のモンスターは無理だ。さっきの奴でもギリギリだよ。全体的な力は平均的なB級能力者なんだから」
「でも凄いですよ。あそこまで属性魔法を使いこなせるなんて。なんというか芸術的な戦い方です」
「紗奈はいつも褒めてくれるな。ありがとう」
褒められるのは嬉しいが、俺のもともとの能力だけなら、正直に言ってA級51位程度のモンスターが限界だ。俺の使えるB級属性魔法は一つ一つは威力が低い。今みたいに工夫してやっとA級下位のモンスターを倒せる程度で、これが俺の能力の限界だ。
だからこそ魔法弾を開発したのだが、今みたいに近距離まで接近されてしまったら魔法弾は使いにくい。ここからはさらに警戒して進んで行こう。
わずかな時間で景色がみるみるうちに移り変わっていく。
走り始めて1時間で俺たちは地下32階まで来ていた。走っている最中、各階で数回は魔物に出会したが、できる限り戦闘を避けてここまで来ていた。
と言うのもダンジョンの低層に生息しているモンスターは弱く、ドロップするアイテムも価値が低いものが多いからだ。
三日間ぐらいゆっくりと時間をかけてダンジョンを探索するのなら一体一体倒してもいいが、今日は時間に限りがあるため、低層は素早く駆け抜けることにしていた。
地下37階層は古い古城の通路のような道が続いているフロアだった。足元には石が敷かれており、左右には篝火が短い間隔で焚かれているため歩きやすい道だった。
通路をまっすぐ歩いていると俺の探知魔法が魔物をとらえた。
「紗奈、角の先にイノシシ型モンスターがいる。たぶんメタルファングだ。こっちに向かってくる」
「わかりました」
横を歩いていた紗奈は俺の後ろに下がった。俺はホルスターから拳銃を抜き、入っていたマガジンを別の物に入れ替えた。
メタルファングは巨大なイノシシ型モンスターだ。72体いるB級モンスターの中では序列8位に位列しており、B級の中では上位の存在だ。
彼らは嗅覚が発達しているため、おそらく向こうもすでにこちらに気づいているだろう。
角の先から体長3メートルを超える猪が姿を現した。その体は金属の鱗で覆われていて、銀色に輝いている。
俺たちを一瞥すると、こちらに向かって走り始めた。
俺は引き金を引き、弾を発射した。弾丸は魔物の頭部を正確に捉えたが、金属音が響いただけで弾かれてしまった。やはり通常弾ではまったく歯が立たないようだ。
奴の巨体が地面を揺らし近づいてくる。距離は10メートルほどしかない。
俺は続けてもう一度引き金を引いた。弾はまたしても奴の頭部に直撃した。その瞬間、バチッバチッという激しい音と共に眩い閃光を放ちながら電流が流れた。
メタルファングは全身を硬直させ、地面に倒れ込んだ。走る勢いが残っていたため、3メートルほどこちらに滑って止まった。
「今のって、電撃弾ですよね? メタルファングを一撃とは……凄い威力ですね!」
紗奈は心から感嘆した表情を浮かべている。紗奈が驚いてくれると正直かなり嬉しい。
「ああ、やっぱり弱点をつけばB級モンスターでも倒せるみたいだな。体験できてよかったよ。今まで動画でしか見たことがなかったからな……。自分で作った玉なのにな」
お客さんがYouMoveにあげている動画で自分の弾の威力は分かってはいたが改めて弾の威力が、実感できて安心した。
「この威力なら売れて当然ですね! もう少し値段を上げても良いかも知れません」
紗奈は自分のことのように嬉しそうにしている。こういうところが紗奈の大きな魅力だ。俺は紗奈の笑顔に心が惹かれてしまう。素直にかわいい。
ちなみに紗奈のアドバイス通り、魔法弾は当初の1箱五十発入りを5万円から15万円に値上げしている。それでもお客さんは途切れることがないからありがたい。ただ、さらに値上げするのは常連さんに悪い気がして抵抗があった。
金は当初計画よりもかなり早いペースで溜まってきている。値上げするにしてもまだ先でいいだろう。
メタルファングは少しの間、身体をぴくぴくさせていたがやがて動かなくなり、体が消えていった。後には10センチ四方の金属だけが残った。
メタルファングが落とす金属は「リビリウム」という名前で、さまざまな電子機器に使われているため高く買取してもらえる。おそらくこの大きさなら50万円は超えるだろう。
俺は金属を拾うと紗奈に渡した。紗奈は空間魔法を発動させ異空間にリビリウムを入れた。10センチ四方のリビリウムは重さは4キロを超える。こういう時紗奈の空間魔法は非常に役に立つ。
俺は雷属性魔法弾が入ったマガジンを抜き、B級火属性魔法弾が十五発入ったマガジンをグロッグ19に入れた。このダンジョンは火属性が弱点の魔物が多いと聞いていたからだ。
ちなみに俺の腰についているベルトには5つのマガジンが備え付けられていて、それぞれの中に5種類の魔法弾が十五発ずつ入っている。
ここから先のモンスターを倒すためには魔法弾をフルに駆使する必要がありそうだ。
俺と紗奈は再び探索を始めた。出くわすB級モンスターたちを魔法弾で倒しながらひたすら下層に進んでいった。
♢ ♢ ♢
しばらく進んでいると、地下41階に辿り着いた。このフロアは篝火が焚かれていないため真っ暗だ。カバンからライトを取り出し、周囲を照らす。少し幅の広い通路が目の前に続いているのが見える。通路の左右には所々、別の場所に続く道があるようだ。
俺は奥に進みながら探知魔法を使用する。すると、左右の道は行き止まりで、真っ直ぐ奥に続いている通路が正しい道であることがわかった。
周囲30メートル以内に魔物の気配は感じない。
「真っ直ぐ進もう。今の所、近くに魔物の気配はないけど、暗いからゆっくり進んでいこう」
「わかりました」
俺と紗奈は辺りを照らしながら歩いていく。
この通路は、地面はアスファルトのように平らなためとても歩きやすい。それと対照的に、左右の壁はゴツゴツした岩肌が続いており、洞窟の中にいるかのようだった。
「先輩、もう少し近くを歩いても良いですか」
右後方を歩いていた紗奈が、いつの間にかすぐ右隣まできていた。隣を見ると、顔には明らかに不安そうな顔を浮かべている。
「大丈夫だよ」
俺がそう口にすると、紗奈は肩が触れ合うのではないかというぐらいの距離まで近づいてきた。
「そう言えば紗奈は暗い所は昔から苦手だったな」
「少しだったら大丈夫なんですけど、ここまで暗いと流石に怖いです。1人では絶対に無理ですね」
「探知スキルを使ってるから、大丈夫だよ。周りに何かあったらすぐ言うから」
少しでも安心させようとそんな言葉を呟く。
「ありがとうございます。本当に便利ですね。その魔法。周囲30メートルがわかるって、すごい助かります」
「紗奈の空間魔法やバフ魔法程じゃないけどな……」
確かに探知魔法はダンジョン内において便利だ。しかし、そこまでレアな魔法という訳ではない。この力を持っている探索者は割と多い。
紗奈が使うことができる魔法に比べたら月とスッポンぐらい違うだろう。
ただ、紗奈の言う通り俺の探知魔法は周りの探索者が使うものよりやや探知範囲が広い。その点は誇っても良いかもしれない。
それでも俺は平均的なB級探索者の括りを出れはしないが。
「きゃっ」
ゆっくり進んでいると、紗奈が声を上げながら体勢を崩し前方に倒れそうになった。俺は慌てて、紗奈の前に腕を回し、紗奈の身体を抱き止める。
「大丈夫?」
「はい。何かに躓きました」
下を見てみるとロープのようなものが落ちていた。どうやらこれに足をとられたようだ。
「すみません。支えてもらっちゃって」
「大丈夫だよ」
はからずも抱き合うような体勢になってしまった。警戒が解けた瞬間、なにやら恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。
紗奈は少し照れたように顔を赤らめながら、離れていく。そして嬉しそうにしながらに口を開いた。
「いやー、こんなふうに先輩にくっつけるなら、暗いダンジョンも悪くないかも知れませんね」
少し得意げに微笑む紗奈の笑顔は薄暗いダンジョン内でもとびきり可愛い。卑怯なまでの魅力的な表情に見惚れてしまいそうになり、俺はすぐに顔を背ける。
「冗談言ってないで先に進むぞ」
「冗談じゃないですよ」
声から紗奈が笑ってるのがわかる。まるでデートでもしているような空気感が広がっていく。危険なダンジョン内にいるのが嘘みたいだ。
今いるのはダンジョンの41階層だ。そろそろ強力なモンスターも出現し始める。集中力を高めていかないとな。
再び歩き出そうとした瞬間、すぐ目の前から何かが迫ってきた。慌てて俺は声を上げる。
「紗奈っ!!」
敵は両手に掴んだ剣で上段から俺の頭上に振り下ろそうとしていた。俺は慌てて、風属性魔法を発動させるとすぐ右側から自分に向けて猛烈な風を発生させた。鋭い風が一瞬で俺の身体を左側へ緊急回避させる。
空中で俺は敵の姿をはっきりと視認した。鎧を着こんだ二足歩行のイノシシ型魔物——オーク。それも血の用の褐色の肌からオークの中でも最上位種であるロイヤルオークだ。
するとオークは離れた俺には目もくれず、すぐ隣にいた紗奈に向かって剣を横なぎに振ってきた。俺は土属性魔法を発動させると紗奈の目の前に地面から分厚い土壁を錬成しその攻撃を防いだ。
「下がって!!」
紗奈に叫ぶと同時に、オークの足元の地面を氷属性魔法で瞬く間に凍らせる。戸惑っているオークの背後から近づき、奴の頭部を掴むと、自分が放てる最大の雷魔法を頭部に叩き込んだ。
鋭い閃光が闇の中に広がると同時に、オークは滑る氷の地面に足を滑らせ仰向けに倒れた。
痛みに悶えているオークの両手足を地面から発生させた氷で氷漬けにし固定すると、俺は氷で巨大なハンマーを作ると、隙だらけになった頭部に向かって何度も振り下ろした。
ロイヤルオークはそれでもまだ、しばらくの間、頭を動かしながら、激しいうめき声をあげていたが、やがて動かなくなり、消滅していった。後には、奴が持っていた剣だけが残った
「紗奈、大丈夫?」
「はい。優斗さん、ありがとうございます! すみません。私が、集中していなかったせいで……」
「いや、俺も気が抜けていた。探知魔法をおろそかにしていたよ。ごめん」
「A級序列51位のロイヤルオークでしたね。この階層でもう出るんですね」
「ああ、やっぱりA級は序列が下位でも強いな。ここからはさらに気を引き締めて行かなきゃな」
「そうですね……。それにしても先輩の戦い方、久しぶりに見ました。ロイヤルオークをあっさり倒すなんて、やっぱりすごいですね」
「そんなにあっさりでもないけどな。これ以上序列のモンスターは無理だ。さっきの奴でもギリギリだよ。全体的な力は平均的なB級能力者なんだから」
「でも凄いですよ。あそこまで属性魔法を使いこなせるなんて。なんというか芸術的な戦い方です」
「紗奈はいつも褒めてくれるな。ありがとう」
褒められるのは嬉しいが、俺のもともとの能力だけなら、正直に言ってA級51位程度のモンスターが限界だ。俺の使えるB級属性魔法は一つ一つは威力が低い。今みたいに工夫してやっとA級下位のモンスターを倒せる程度で、これが俺の能力の限界だ。
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